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著…富安陽子『童話作家のおかしな毎日』

 全体的には楽しく読めるけれど、時折、戦争や平和について深く考えさせられるエッセイ。

 著者はこの本の冒頭でこう述べています。

 著者の両親は偶然夜行列車で出会い、その一週間後ばったり銀座の街角で再会し、交際を始め、やがて結婚した。

 もし母親がもともと予定していた特急列車に乗り遅れてたまたま予定外の夜行列車に乗っていたという偶然がなければ、両親が出会うことはなく、自分も弟たちも生まれていなかった。

 …と。

 人と人との出会いって不思議ですよね。

 「偶然」とも「必然」とも表現しにくい何かによって大きく変わってしまいます。

 冒頭でそういう話を経た上で、著者が、

 「もし、あと三か月、それともあと半年早く終戦をむかえていたなら、わたしがであっていたはずの伯父たちのことや、もしかしたらであっていたかもしれない従兄弟たちのことをときどき考えてしまう。あと一日、あと一週間早く戦争が終わっていたら……、原爆が落ちていなければ、いまこの世界に存在しているはずの人たちの数はどれほどだろうか。これから生まれるはずだった人の数は? とりかえすことのできない無限大の不在」

(著…富安陽子『童話作家のおかしな毎日』 P131から引用)


 という文を書いているのを読んで、その強い喪失感がわたしの心に刺さりました。

 …もし、戦争が無ければ。

 …もし、原爆が無ければ。

 沢山の人たちが一気に亡くなることは無かったでしょう。

 その人たちが生きていれば生み出されたであろう命や、またその命が更に未来へと紡いでいくかもしれなかった沢山の命の糸が断ち切られることも無かったはず…。

 まさにこれが、著者が言うように、「とりかえすことのできない無限大の不在」。

 また、生き残った人たちも、戦争によって人生を大きく変えられています。

 戦争が無ければその人たちが歩めたはずの未来もまた、永遠に失われてしまったのです。

 こうした戦争の痛みを忘れずにいることってとても大切ですよね…。

 痛みを忘れてしまったら、人はまた戦争を起こして、また核爆弾を投下したり、投下される側になってしまうかもしれません…。



 〈こういう方におすすめ〉
 エッセイ本が好きな方。
 平和について考える機会が欲しい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 1〜2時間くらい。

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