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ほんまの2021年ベスト10①

どうもおこんばんわ(昭和)、バラエティ書店員・本間です。
先日、懇意にさせていただいている蒲田カルチャートークさん()の番組内で、同じくバラエティ書店員である飯田さん()、山中さん()と、2021年に読んだ本のベスト10を発表させていただきました。

真面目な私は結構な文量の「カンペ」を作った上で臨んだわけですが、まぁそれは現場の雰囲気というか、他の二人がめちゃくちゃ長くしゃべるからというか、かなり端折った紹介になってしまいました。あくまで私のせいではないですよ。
というわけで、ここにこの「カンペ」を成仏させようと思います。若干ネタバレの要素もあるかもしれませんが、そもそも未読の方へ向けた紹介となっております。私の拙い紹介を読んだところで、本の面白さは一切損なわれない、間違いなく今年を代表する一冊ばかりであると自信満々ですので、冬休みに読んでいただければ幸いです。
さて、行きますよ!

①君の顔では泣けない


野生時代新人賞を受賞した作品。帯にもなっている「この作品を推すために選考に臨んだ」という辻村深月さんのコメントに象徴される、素晴らしい作品。男女入れ替わりという、ある意味で使い古された設定を踏襲しつつも、【15年間】入れ替わっている斬新な設定。
入れ替わった二人、水村まなみさんと坂平陸くんが特に親しくない設定というのがまず斬新だった。
入れ替わりものと言えば、男の子が女の子の胸を自分でもんでみたり、女の子がトイレに行こうとして男の子の身体でどうやってするのよぅ~~!的なシーンがあったり、そういうのをすっ飛ばして、いきなり入れ替わった時に女の子は生理だったというところから始まる。そこがとてもリアルだし、この題材をあくまでシリアスに進めて行くんだぞという決意のようなものを感じた。
陸がまなみの家庭環境にうっすら嫉妬したり、自分の家や家族を見られるのが恥ずかしいという感覚だったり、すごく共感するところが多かった。
水村(女)の視点からはほとんど語られることがなくて、それがより一層、水村の"あきらめたもの”や"絶望”を感じられた。水村の語りが無くて残念という感想を書いている人がいたけど、私はむしろ逆だったので、今回の追加されたショートはちょっと読むのがこわい。

②ブラザーズ・ブラジャー


晴彦というキャラクターが秀逸。
凛としてかっこよく、こんな弟が欲しいと思ってしまった。
たくさんの名シーンがあるけれど、私が特にいいと思うのが、絵美と千草のやり取り。絵美は感情を表に出しやすい子で、何気ない言動で人を振り回すことにも慣れていて、がさつで……というイメージを千草は抱いているんだけど、そこに絵美が真っ向からぶつかっていく。
【千草は私のことこう思ってるでしょう?私のことを勝手にイメージして、バカだってあきらめてるでしょう】。私もそれまで断然千草寄りで、絵美は傲慢だな~絵美みたいな子いたよなぁ~って思って読んでたんだけど、そういう風に人をジャッジしている自分こそが傲慢なのだという、もうまんま特大ブーメランになって返ってくるシーン、あれはなかなかつらかった。朝井リョウさんの『何者』で、最後に世界がぐるっとひっくり返ったのを思い出した。

③ヴィンテージガール


プロフェッショナルな特殊能力を持っている男の人がそもそも好きだ。
主人公の桐ケ谷恭介は、昔ながらの商店街で仕立て屋(と言ってもほとんど店構えなんてあってないような)をほそぼそと営んでいるんだけど、服のプロフェッショナルで。
服のわずかなほつれや、長く着ていることで生じる歪みみたいなものを瞬時に見抜いてしまう。すれ違った女性がDVを受けていることをとっさに見抜くシーンがあるんだけど、もうそこからかっこいいーー!ってなってしまった。
物語は団地の一室で女の子が死んだ10年前の未解決事件があって、女の子が身に着けていたワンピースが報道番組で出るんですよね。手がかりがそれしかない。それを見た恭介が、ワンピース一枚から事件を解決に導くのは自分にしか出来ないって警察に捜査協力を申し出て、事件の解決に動くという話。事件自体も社会性があって、とても面白かった。川瀬さん服にくわしいなぁと思ったら、略歴を見たら服飾学校の出身だった。なるほどと納得してしまった。
私は、同じ景色を見ていたとしても決して自分には見えていないもの、に憧れが非常にあるので、性癖ど真ん中の作品でした。

④痛風の朝


痛風アンソロジー。
もう、究極の自虐ネタのオンパレードなんだけど、自分たちのことをツーファーって言ったり、痛風の数値のことをT(痛風のT)ポイントとか言ってみたり、ものすごいつらい病気なのにみんなどこか誇らしげで、あほやなぁと笑ってしまうところが、人間っていいなと思ってしまう。
私達には言葉があるからこそ、こういう悲劇すら楽しめる。
その上、本当に苦しんでいる人には勇気を。出版の役割とはこういうことか!
女は痛風になりにくいっていうのもわかってよかった。健康診断の値に一喜一憂してしまう皆様、読んでみてはいかがだろうか?

⑤その扉をたたく音

瀬尾さん。
何が何でも瀬尾さん。
これは『あと少し、もう少し』で4区を走った渡部くんが出てくるので、『あと少し〜』ファンの人は必読。ファンだったらわかるようなちょっとした「えっ!?」ってなるような驚きもある。
『あと少し〜』で走った時が14歳、で今渡部君25歳で、この11年間にあったことをつい考えてしまう。渡部君は当時かなりとがっていた。自尊心が高く自意識がかなり過剰で、上原に一番中学生っぽいって言われてた。でもその渡部君が介護士になっているところ、彼の家庭環境を考えるととても納得なんだけど、渡部君の成長にしみじーみとした。子供の成長を見守る母の心境。
物語の本筋は宮地くんっていうスーパー夢追い人(みんなからぼんくらってよばれる)が、介護施設のお年寄りたちと交流していくことで……ってストーリーなんだけど、おじいちゃんおばあちゃんがかわいいし、最初のほうに出てきた小道具的なものがのちのちちゃんと回収されていくのにぐっときた。死んだ。
『君が夏を走らせる』も合わせて読んでほしい。誰もつらくない小説。作中で宮地がおばあさんに頼まれて本を買うんだけど、その時の苦労が書店員あるあるでした。

⑥セゾン・サンカンシオン

前川ほまれさんの観察力と、甘くないストーリー展開にしびれた。
失っても失っても依存対象に縋りつく、しかもその家族の視点が描かれるのがつらい。露骨にお荷物扱いされるし、母親失格の烙印を押されるし、でも酒を飲むという……
あと周辺の住人から苦情が来る話もあるんだけど、中を知っていたらこういう苦情は少しはなくなるのかな。依存症は病気だけど、結局病気なんですよって言われても家族は苦しいし本人も苦しいし、世間の目は冷たいしという三重苦が待っている。ありていの美談になっていなかったのでとても良かった。

続きます!

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