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書便派

 皆さんは、「青木まりこ現象」というのをご存知だろうか。
 これは「書店に行くたびに便意を催す」という症状に名付けられたもので、『本の雑誌』(40号、1985年2月)の読者欄に寄せられた、青木まりこ氏の投書から端を発している。
 この症状に心当たりがある人は「書便派」と呼ばれる。私が初めてこの言葉を耳にしたのは、「〇〇さんは、書便派ですか?」という知人からの質問だった。当時、「青木まりこ現象」自体を知らなかったので、「しょべん……何それ?」と訊き返す。その後、いろいろと解説してもらったが、ピンとくるようなこないような、という感想だった。

 先日、数年ぶりぐらいに、この「青木まりこ現象」について考えた。きっかけは、物理学者・須藤靖の『宇宙する頭脳』である。「青木まりこ現象」について考察している数ページがあり、「まさかこの本で、この言葉に出会うとは」と意外に思いながら読んだ。

 須藤が取り上げる「青木まりこ現象」発生の原因を、幾つか紹介したい。

「①匂い刺激説(紙やインクに含まれるなんらかの化学物質に起因する)
 ②排B習慣説(自宅のトイレで本を読むことが習慣となっているため)
 ③プラセボ効果(自分の過去の経験や期待、さらに他にも多くの人が経験しているという裏付けによる心理的な影響)」
須藤靖『宇宙する頭脳』朝日新書、P216)

 上記のものも含め、須藤は10個の仮説を紹介し、一つひとつ分析を加えていく。例えば「匂い刺激説」に関しては、「印刷所所員や書店員にはそのような症状が顕著には見られないことから棄却できるかもしれない」(P218)などと説く。想像以上の真面目な筆致に、読みながら吹き出してしまった。
 10個の仮説のうち、「まあ、これかな」と納得がいき、須藤自身も「重要な指摘である」と分析していたのが、「交絡因子説」である。この説の内容と須藤の分析を、次に引用したい。

「交絡因子説(書店とB意の間には直接的因果関係はなく、書店には軽く飲食したあとに散歩しながら行くことが多いため、単にタイミングが一致するという相関を見ているに過ぎない)」(P217)
「「青木まりこ現象」に関して該当するかどうかは別として、科学において常に心しておくべき重要な指摘である。実際、二つの現象の間の相関と、それらの因果関係とは別ものであり、明確に区別すべきだ。」(P219〜220)

 私は書店を主な目的地として、外出することが多い。ある程度時間をかけて移動するから、現地に到着すると「とりあえずトイレに行っておくか」となる。
 私が書店とは別の場所を、定期的に訪れる場所に設定していれば、そこが「行くたびに便意を催す」場所として認識されているかもしれない。
 やはり私には、「青木まりこ現象」がピンとこない。他の人の意見を、色々伺ってみたいものである。



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