ほんのひととき
25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。
旅の月刊誌「ひととき」の創刊20周年を記念した本企画「わたしの20代」。各界の第一線で活躍されている方に今日に至る人生の礎をかたち作った「20代」のことを伺います。
旬のおでかけ情報をはじめ、気になる新刊や新商品、見逃せない展覧会や伝統的なお祭といったご当地の話題など、さまざまなトピックをお届けします。
旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
人気のカリスマ講師として知られる馬屋原吉博さんが日本各地の名所・旧跡を訪ねる旅のコラムです。歴史を巡る“知的な旅”を一緒にお楽しみください。
怯んだのも一瞬、わたしはここぞとばかりに訴えた。 日本で手に入る文献には限りがある。母校の図書館や専門図書館の東洋文庫、中近東文化センター、さらには専門家の先生がたから個人的に本を借りたりもしている。それでも足りない。 それに、オスマン帝国の建築文化というものを、現地に行って深く理解したい。必死だった。 その時、審査室全体の雰囲気が変わったのを覚えている。数人の審査員の先生が、深く頷いてくれたのだ。 そして数週間後、わたしは合格の通知を手にしたのである。 * * *
父*がフランス文学者だったから、シャンソンは幼い頃から耳にしていたの。日本の曲にはないような、とってもきれいなメロディーラインでね。歌詞の意味なんてわからなかったけど、聞こえたままを真似してよく歌っていました。高等学校はつまらなくて「やめたい」と父に伝えたら、「やめてもいい。その代わり好きなことは徹底的にやりなさい」と言われて。私がシャンソンを好きだと知っていたから、オペラ歌手の佐藤美子さんに習うことを勧めてくれたんです。 当時暮らしていた千葉から、東京を横断して先生の
今年、開館40周年を迎えた愛知県犬山市の野外民族博物館リトルワールドではさまざまな記念イベントが企画されている。目玉のひとつが「ワールド ドリーム サーカス」。リトルワールドでサーカスの公演が行われるのは約3年ぶりで、世界5カ国から選りすぐりのアーティストが集結。 ジャグリングをはじめ、バンキンと呼ばれるアクロバティックな組体操や道化師によるコミカルな芸など、子供から大人まで楽しめるサーカスが披露される。 また、館内の各店舗では、過去10年間のうち最も売れたナンバー
メキシコには35もの世界遺産があり、なかでも高い人気を誇るのが、古代都市の遺跡群。紀元前15世紀から後16世紀のスペイン侵攻までの3000年以上にわたり独自の文明が花開いた。 本展では、そのうち「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」という代表的な3つの文明に焦点をあて、古代メキシコの至宝の数々を、近年の発掘調査の成果を交えて紹介する。 火山の噴火や地震、干ばつなど厳しい自然環境のなか、人々は神を信仰し時に畏怖しながら、王と王妃の墓、大神殿、三大ピラミッドなど各文明を
井波彫刻は欄間、というイメージを強く持っていればいるほど驚きが大きいのが、田中孝明さんの作品である。最初に目にしたのは、3体の女性像だった。細やかに匂い立つような小さな姿。それぞれ名がついていて、「たね」「みず」「ひかり」。田中さんは言う。 「観る方がその方なりの種子を見つけていただき、水を与え、光を浴びて芽を出していけるように、との願いです」 表面の滑らかさも鑿だけの技だ。サンドペーパーではどうしても質感が生まれない。糸のように細い刃で、囁くように削っていくのだろう
今回取り上げるのは島根県の『石見銀山』です。 ここは2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」として、ユネスコの世界文化遺産に登録されています。 鉄や銀といった金属を精錬するには、高温状態を長時間にわたって維持することが求められます。古代から中世にかけての主な燃料は木材であったため、金属の精錬は大規模な森林破壊を伴う活動でした。 ちなみに、宮崎駿監督の『もののけ姫』は、中世の日本を模した世界を舞台に、鉄を作るために山を切り拓く人間と山を護ろうとする神々の戦いを描いた作
俳聖・松尾芭蕉といえば、故郷の伊賀上野や江戸、「奥の細道」で旅した東北から北陸地方のイメージの濃い人物ですが、実は京都にも頻繁に訪れていて、ゆかりの地が市内のあちこちに存在しています。 中でも洛西嵯峨野の落柿舎には三度にわたって足を運んでおり、1691(元禄4)年には4月18日から5月4日まで17日間も逗留。この時の記録を『嵯峨日記』として著わしています。 その芭蕉の訪問から230年あまりの後、1924(大正13)年6月25日。一人の俳人が落柿舎を訪れました。彼の名は
雄大な太平洋に面した景勝地、桂浜。高知を代表する観光名所である桂浜公園の商業エリアが約40年ぶりにリニューアルした。 新施設「桂浜 海のテラス」の館内では、地元食材をふんだんに使用した料理を提供するレストランやカフェ、活貝専門店、桂浜の名物アイスクリンなど、高知の多様な「食」に出会える。拡充された土産物店では、土佐の地酒を多数扱うほか、郷土菓子として知られる芋けんぴが約20種類のフレーバーで用意されるなど、ここでしか買えない限定品も多い。また、併設のミュージアムでは桂浜
台湾鉄道の台中駅近くに「宮原眼科」という煉瓦造りの建物がある。ここは元々、日本統治時代に日本人医師が開業した眼科医院だった。2011年末にパイナップルケーキで有名な日出グループが、しばらく使われていなかったこの建物を店舗に改装した。開放感のある吹き抜けの店内は、まるで絵本の世界に迷い込んだかのようだ。 3日間宿泊した台中から次の目的地に移動する日、たまたま通りかかった「不老夢想125号」という建物の名前に惹かれて、夏の青空に映える白亜の洋館へ吸い込まれた。 偶然にもこの建
綽如上人が開いた瑞泉寺井波には木彫刻の長い歴史が流れ、現在も100人をこえる数の人が制作に携わっているという。まさに日本を代表する木彫刻の聖地である。そのみなもとが八日町通りに導かれる古寺であると聞いてきた。真宗大谷派井波別院瑞泉寺だ。 山門が見えてきた。瑞泉寺は、砺波市と南砺市にまたがる高清水山系の北端である八乙女山を背にして立っている。 輪番(別院の最高責任者)の常本哲生さんに訪問のごあいさつをする。背筋の伸びた立派な体格であり、きわめて物腰の柔らかな高僧の常本さ
取り合わせの発明梅﨑:そもそも芭蕉って、どんな人なのでしょうか。小澤先生は『日本文学全集』(河出書房)の近現代詩歌の巻で俳句の選をされて、作家ごとにキャッチコピーをつけていらっしゃいますよね。正岡子規だったら「近代俳句の始祖」、高浜虚子は「近代俳句最大の巨人」、井上井月だと「江戸と明治をつなぐ」とか。そこで、ぜひ芭蕉にもキャッチコピーをつけていただきたいのですが。 小澤:僕は「俳句の原型を作った人」というふうに思っています。俳句というのは近代俳句の用語なので、正しくは発句で
山口名物といえばフグと、あとは……フグ、ですよね。3年前まで僕の認識はそうでした。でも出会ったんです「瓦そば」と。 お初は、宇部市での落語会の打ち上げで行った居酒屋。〆に出てきたんです、熱々の瓦の上でジュウジュウ焼かれている茶そばが。「何ですかコレは?」と思いながらも箸をつけたら、これが実にうまかった。あんかけ焼きそばの麺の端っこの方みたいに、茶そばがところどころカリカリに焼けて香ばしくって、牛肉と錦糸卵も甘辛いつゆによく合う。2度目は新山口駅の食堂で食べて、これまた旨
快晴の空の色そのままの青い湖を抱く、広大なときわ公園。その一角、UBEビエンナーレ彫刻の丘に、ひときわ目を引く彫刻「はじまりのはじまり」があった。3メートルを超す巨大な卵の、鈍く光る金属の殻の隙間から植物が顔を覗かせている。「毎日定刻に卵の頭から水が噴き出します。夏には植物が伸びて緑も濃くなり、全く違う印象になりますよ」と宇部市文化振興課の山本結菜さんが説明してくれた。 湖の青を透かして立つアクリルのプレートは、昨年開催された第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)
平素より、旅と本のウェブマガジン「ほんのひととき」をご愛読いただき、ありがとうございます。 このたび、創刊3周年を記念したエッセイ集『あの街、この街』の配布を、5月20日より開始いたします。 各界でご活躍の方々に忘れがたい街の思い出を綴っていただくリレー連載「あの街、この街」をまとめたもので、収録された17篇には、それぞれ新たに描き下ろした素敵なイラストが添えられています。表紙を飾るのは、以前こちらでご紹介した切り絵作品です。 5月20日は、神保町の共同書店「PASSA
地図の日である4月19日*、世田谷区駒沢にある地理系ブックカフェ空想地図さんを訪ねました。 東急田園都市線の駒沢大学駅から地上に出て、玉川通りを西に向かって右折、静かな住宅街をすこし歩くと左手に大きな幟とオレンジ色のタペストリーが現れます。 地理にまつわる本が読み放題店内の本棚には1200冊以上の地理に関連する書籍が並べられ、カフェを利用している間はそれらが読み放題となります。 カフェのメニューには「クリーム地〜図スパゲッティ」や「地〜図サンド」など、遊び心を感じさせる
皆さんは、「能」または「狂言」をご覧になったことはあるでしょうか。 今年9月に開場40周年を迎える国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)では、様々な公演が開催されています。その内、6月に開催される「第40回能楽鑑賞教室」(6月20日[火]~24日[土])にご出演のシテ方金春流能楽師の山井綱雄さん、狂言方和泉流能楽師の奥津健太郎さんとご子息の奥津健一郎さんが、「はじめてでも楽しめる能と狂言の実演とおはなし」と題して、ランチタイムの大手町のオフィスワーカーを前に、能楽の魅力を伝える約25