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地元にエール これ、いいね!

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日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験で… もっと読む
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記事一覧

知恵と工夫で和紙の隆盛期を築いた土佐和紙(高知県吾川郡いの町)

高知県いの町で「土佐七色紙」という名の美しい紙が生まれたのは戦国時代末期のこと。桃色、柿色、浅黄色とさまざまに染め上げられた、しなやかで丈夫な紙だ。七色紙をきっかけに土佐では製紙が盛んになり、やがて一大産地となっていく。いの町が「土佐和紙発祥の地」と呼ばれる理由である。七色紙の製法は失われたが、「いの町紙の博物館」では現代の研究により復元、展示している。 「伝統を繋いでいきたい。紙漉きの家に生まれたんですから」  手漉き和紙職人・尾﨑伸安さんが力強く簀桁を振る。この大型の

【鞆の浦リモンチーノ】瀬戸内レモンのフレッシュな芳香で「福」を呼ぶリキュール(広島県福山市)

「鞆の浦リモンチーノ」は、広島県福山市や瀬戸田町のレモンを蒸留酒に漬け込んだリキュールで、栄養士の資格を持つ3人の女性が中心となり、2020(令和2)年から週末や余暇を利用して造っている。鞆の浦の古民家を改装した酒造所で、「ともの」代表の村上百合子さんに話を伺った。 「レモンは自然農法にこだわっています。果皮を使用するので農薬はもちろん不使用。安全安心な食材を口にしてもらいたいし、格段に香りがいいんです。日本人好みに甘さは少し控えめにして、代わりにきび砂糖を加えてコクをアッ

【伊勢根付】神宮の加護を願った土産物(三重県伊勢市)

 無事にカエレますように──。  江戸時代、お伊勢参りの土産として人気だった根付。年間に何十万人もの庶民が全国から伊勢神宮を目指して旅をするようになったその頃でも、道中は険しく、追い剥ぎなど危険もあった。だから職人たちは旅の安全を祈って根付にカエルを彫ったのだという。七福神や十二支などの縁起ものも。  根付とは、煙草入れなどの小物と紐で結び、帯に挟んで携帯するための留め具。この目立たない実用品に、限りない楽しみが広がる。  身につけるものだから小さく、そして帯や手を傷つ

【飯田の水引】思いをつなぎ、心を結ぶ日本独自の文化(長野県飯田市)

 ハレの日を華やかに、豪華に彩る水引。飯田は江戸時代から、水引の一大産地として知られる。  気候は温暖で楮や三椏*が豊富にとれ、また天竜川の清流など名水に恵まれていたことから古くより美しく丈夫な和紙がつくられていた。その和紙を使い研究を重ねて生み出された、高品質の真っ白な元結は、江戸のみならず全国を席巻し、さらにさまざまに染め分け水引がつくられるようになった。  そう、水引は紙でできている。紙を縒って長く長く延ばした一本の〝こより〟。それを色とりどりに幾重にも結んで形をつ

【竹田の姫だるま】しあわせの微笑みを未来につなぐ縁起物(大分県竹田市)

 たおやかに微笑む「竹田の姫だるま」。竹田市で約400年前に生まれた女性のだるまは、家庭円満・商売繁盛の縁起物として親しまれ、旧岡藩時代には下級武士の内職として作られていたが、戦時中に途絶えた。このだるまを戦後に復興したのが、ごとう姫だるま工房。2代目の後藤明子さんは「初代・後藤恒人が、皿に描かれた姫だるまを見て、『この地の文化を復活させたい』とわずかに残るだるまや資料を頼りに作り始めたのが、今の姫だるまです」と話す。19歳で後藤家に嫁ぎ、義父である初代から製法を習って半世紀

【高松盆栽】松盆栽の生産量が日本一!産地から国内外にその魅力を発信(香川県高松市)

 高松盆栽の歴史は遡ること200年余り。野山に自生していた松を鉢に植え替え、金刀比羅宮の参拝客を相手に、土産物として販売したのが始まりだという。「雨が少なく温暖な瀬戸内の気候と、水はけがいい花崗岩の土壌が、松の栽培に適していたんです」。香川県盆栽生産振興協議会の会長を務める尾路悟さんが教えてくれた。  高松盆栽は、盆栽の代表格・黒松を筆頭に、主に松を扱う。高松市の鬼無町と国分寺町が生産地の中心で、最盛期の農家は300軒を超えていた。現在は60軒ほどに減少したものの、国内で生

【出雲の鍛冶しごと】「たたら」の伝統を今に伝える(島根県安来市)

 粘土で築いた炉に、砂鉄と木炭を交互にくべ、鞴で風を送り、高温で燃焼させる。炉の中で砂鉄は分解・還元され、鉄が生まれる。日本古来の「たたら製鉄」だ。  良質な砂鉄に恵まれた出雲地方では、1000年以上前から鉄づくりが行われてきた。その長い歴史は、たたら関連の貴重な資料や器具を展示する安来市の「和鋼博物館」で体感することができる。  産業としてのたたら製鉄は近代製鉄法に取って換わられ、100年ほど前に姿を消したが、今でも出雲伝統の鉄加工を継承する職人たちがいる。今回紹介する

【姫路の白革小物】1000年の伝統を誇る工芸品、白い革に豊かな色彩(兵庫県姫路市)

 軽くてしなやか、そして明るい。こんなポップな革製品が手元にあれば、いつでも晴れ晴れとした気分でいられそうだ。  姫路でなめされた白い革を使う製品「姫革細工」を手がけるキャッスルレザーの社長・水田久司さんは、 「伝統を守りつつ、さらに新しさも追求しています」 と話す。コロナ禍で売り上げが落ちた際には、あえて新しい柄を発表するなど、意欲的な挑戦を続けている。  型押しで模様をつけ、彩色をし、表面保護の加工をする。これが古くからつくられてきた革細工の手順だ。姫革細工は兵庫

【高岡の風鈴】鋳物師が作り出す音の美(富山県高岡市)

そよ風に乗って聞えてくる風鈴の音は、夏の音色だ。澄んだ音とともにひとしきり涼しさを運んでくれる。 風鈴はガラス製品をはじめ全国各地にあるが、富山県高岡市で作られるのは伝統的な鋳造法による鋳物の風鈴だ。高岡は、加賀藩主だった前田利長が隠居後に造った城下町。利長は鋳物造りを誘致、手厚く保護した。400余年を経て、現代では銅の合金を用いた鋳物による仏具生産量が日本一を誇る鋳物の町となった。 製品の開発から販売までを行うメーカーの能作は、4代目の前社長・能作克治さんが手がけた真鍮

【焼鯖そうめん】若狭から運ばれる鯖がもたらした長浜のソウルフード(滋賀県長浜市)

滋賀県長浜市のある琵琶湖北東部一帯は、湖北地方と呼ばれる。福井県の若狭で獲れた海産物を運ぶ鯖街道は湖西のルートが知られるが、敦賀から湖北一帯へも若狭方面の魚介が多くもたらされた。 「昔からこの土地では、鯖をよく食べてきたんです」と話すのは、翼果楼の辻郁子さん。しかも「西の鯖街道は酢締めでしたが、湖北には焼鯖が運ばれてきました」と。脂ののった鯖を竹串に刺して一本丸ごと焼き上げた〝浜焼〟で、春の農繁期には農家へ嫁いだ娘に焼鯖を贈ってねぎらう「五月見舞い」の風習が根付いていた。「

【津軽びいどろ】華やかに美しく青森の風景を映し出すハンドメイドガラス(青森県青森市)

 ガラスに浮かぶ、とりどりの色彩が目を楽しませる「津軽びいどろ」。工場を案内してくれた北洋硝子の社長・壁屋知則さんは「伝統工芸品の津軽びいどろは、職人の高い技術力と長年の研究で培われてきたオリジナルの色の豊富さが特徴です。青森の地域性を色に落とし込み、デザインを掛け合わせてプロダクトを生み出しています」と話す。  北洋硝子は1949(昭和24)年、陸奥湾でのホタテ養殖をはじめとする漁業に欠かせないガラスの浮き玉を作る会社として創業した。  浮き玉は、「宙吹き」という技法で

【宇部の野外彫刻】風景となって街の記憶に刻まれてゆくアート(山口県宇部市)

 快晴の空の色そのままの青い湖を抱く、広大なときわ公園。その一角、UBEビエンナーレ彫刻の丘に、ひときわ目を引く彫刻「はじまりのはじまり」があった。3メートルを超す巨大な卵の、鈍く光る金属の殻の隙間から植物が顔を覗かせている。「毎日定刻に卵の頭から水が噴き出します。夏には植物が伸びて緑も濃くなり、全く違う印象になりますよ」と宇部市文化振興課の山本結菜さんが説明してくれた。  湖の青を透かして立つアクリルのプレートは、昨年開催された第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)

【有松鳴海絞り】400年の伝統を持つ手仕事から生まれるモダンデザイン(愛知県名古屋市緑区)

 繊細な凹凸のあるシェードから広がる柔らかな光。モダンで印象的なこの照明は、江戸時代から続く絞り染めの伝統技法と、熱で形状を定着させるヒートセットという現代の技術が出会って生まれた。「シェード生地の豊かな表情と陰影は、熟練した有松鳴海絞りの技でしか表現できないものです」と、デュッセルドルフと有松を拠点に絞りの魅力を発信するsuzusanクリエイティブディレクターの村瀬弘行さん。  慶長13年(1608)、木綿を絞り染めにした手拭いを東海道の土産物として売り出したのが有松鳴海

【沼津のバー文化】都会のバーとは異なる別荘地らしい上質空間(静岡県沼津市) 

 沼津にはオーセンティックバーが多い。何故なのか。1967(昭和42)年創業のBAR Frankのオーナー相原勝さん曰く「沼津御用邸が建てられたことからもわかるように、ここは保養地としてすぐれた土地で、昔は『海のある軽井沢』なんていわれて、政財界の要人たちが別荘を建てたんです。旧国鉄の時代には東海道線の要所としても栄えていました」。別荘族の社交場としてバーが必要とされ、バー文化が醸成された側面があるのだろうと語る。 「バーテンダーは黒子。カウンターという舞台で、主役は一人一