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【姫路の白革小物】1000年の伝統を誇る工芸品、白い革に豊かな色彩(兵庫県姫路市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年9月号より)

 軽くてしなやか、そして明るい。こんなポップな革製品が手元にあれば、いつでも晴れ晴れとした気分でいられそうだ。

キャッスルレザーのブックカバーとメガネケース。使うほどに手になじみ、風合いが増す。気に入った柄を選べば一生もの

 姫路でなめされた白い革を使う製品「姫革細工」を手がけるキャッスルレザーの社長・水田ひささんは、

「伝統を守りつつ、さらに新しさも追求しています」

と話す。コロナ禍で売り上げが落ちた際には、あえて新しい柄を発表するなど、意欲的な挑戦を続けている。

キャッスルレザーの水田久司さん。「6月には工房に直売店を新設、彩色体験のワークショップも始めました」

 型押しで模様をつけ、彩色をし、表面保護の加工をする。これが古くからつくられてきた革細工の手順だ。姫革細工は兵庫県指定の伝統的工芸品だが、現在製造しているのはここだけ。以前は漆で塗っていたところをカラフルな顔料に替えるなど、時代の流れにも柔軟だが、基本は変わらない。

金属板による「型押し」。かつて使われた木製の型も100点ほど残る 

 姫路市の東を流れる市川のほとりでは、1000年以上も前から皮がなめされてきたという。川の水にさらし、塩と菜種油のみを使って人間の手足でもまれた革は、不思議なことに白くなった。そのなめらかな白さこそが、姫路の白革の最大の特徴だ。もちろんそのきょうじんさも。

[写真上から]たっぷり入るキャッスルレザーのラウンド財布とギャルソン財布。かつての主力商品、革草履は嫁入り道具のひとつだった

 キャッスルレザーに白革を提供するタンナー*企業・坂谷さかたにの製品は、硬式野球のボールにも使われている。社長の入江幸男さんによると、

「もともとアメリカから入った野球ボールには、きめが細かく、しっとり指になじむ馬の革が使われていました。馬革の入手が困難な今の日本で唯一、その代わりとなったのが、姫路の技術でなめした牛革だったんです」

*動物の皮をなめし革にする製革業者

仕上がった革を広げる坂谷の入江幸男さん。さらなる品質向上を目指し、今も研究・開発に余念がない

 甲子園で高校球児たちが追いかけるあの白球を思い浮かべれば、それがどれほど白いか、そして強いかがわかるだろう。

牛1頭分で約200個のボールができるという

 芯まで白い姫路の革。その強靭さは、技術を受け継いできた先人たちの営みと、歴史の重さに等しい。手に取れば驚くほどの軽さも、伝統の深みあればこそだ。

文=瀬戸内みなみ 写真=須田卓馬

ご当地INFORMATION
姫路市のプロフィール
山陽本線姫路駅北口を出ると、正面に優美な「白鷺城」こと姫路城がのぞめる。肥沃な平野と温暖な気候に恵まれて約1万年前から人が暮らし、独自の風土を育んできた。播磨灘で1年を通じて豊富に獲れる魚介類は美味。市内には大規模な工場も多く、商工業生産額・人口ともに兵庫県下第2位の都市だ。
●問い合わせ先
キャッスルレザー
☎079-335-2421
坂谷
☎079-281-1188
姫路鳩屋麦酒
☎079-222-8108
たけだの穴子めし まねき本店
☎079-223-8652
日本玩具博物館 ☎079-232-4388

出典:ひととき2023年9月号

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