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【壬生寺節分会】山伏衆はなぜ五色の弓矢を射るのか|花の道しるべ from 京都

花にまつわる文化・伝統芸能などを未生流笹岡・華道家元の笹岡隆甫さんがひもとく連載コラム『花の道しるべ from 京都』。第31回は、壬生寺みぶでらの節分会です。一年を通して様々な伝統行事が行われる京都ですが、古代中国の陰陽五行思想を知れば、年中行事もさらに興のわくものになると綴ります。

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立春の前日にあたる節分。寺院では「節分」、神社では「節分祭」が催行される。京都に住んでいると、こうした年中行事に関わらせていただく機会が多い。2018年には、平安神宮の節分祭にお声がけいただき、鬼を境内から追い祓う「打豆」と「福豆撒き」にご奉仕。昨年2023年には、壬生寺みぶでら節分会の「大護摩おおごま祈祷」で、護摩木をくべる役を務めた。

新選組ゆかりのお寺、壬生寺の境内

壬生寺とは、親しいご縁を頂戴している。新選組で知られる壬生寺は、鑑真が中国から日本に伝えた律宗の寺院。奈良・唐招提寺の国宝、鑑真和上坐像をもとに中国福建省の工房で制作された「鑑真和上御身代わり像」の初公開にあたり、2017年1月に献花式を執り行った。読経の中、正月らしい老松、雲竜梅うんりゅうばい、椿に、中国で百花の王と呼ばれる牡丹をいけ、仏手柑ぶっしゅかんを添えた。日本でも中国でも愛される花を選び、日中の人と人との和を願った。2021年4月には、貫主かんすが代替わりされ、晋山しんざん奉告法要で献花を担当した。自粛期間中でもあり、薬草として中国から渡来したとされるシャクヤクに疫病退散と日中友好を、また結び灯台や満天の星を連想させるドウダンツツジには、この世を照らし導いていただきたいとの願いを込めた。

壬生寺「鑑真和上御身代わり像」の初公開時に献花。右下に添えた黄色い果実が仏手柑。千手観音の指に似ていることから、このように呼ばれるようになった
壬生寺の晋山奉告法要で献花されたいけばな

壬生寺の節分会で開運を祈願

そして、昨年の節分会。午後一時から、聖護院山伏衆が壬生寺の周囲を練り供養した後、午後二時に本堂前において大護摩祈祷が行われ、信者から奉納された多数の護摩木を焚いて厄除け開運を祈願する。私が務めたのは、火炉に護摩木を投げ入れる役割だ。火の勢いが強く、顔に火の粉が飛んで熱い思いもするが、身が引き締まる。

空中を舞う護摩木。壬生寺本堂前での大護摩祈祷時に護摩木を投げ入れる笹岡さん(昨年の様子)

日常生活に見られる陰陽五行思想

いけばなの伝書には、流派を問わず「陰陽」や「五行」といった言葉が散見される。これらは、いけばなに深い影響を与えた古代中国の陰陽五行思想に由来する。日本には仏教と同時期の六世紀頃に伝わったようで、中国の占術・天文学・暦の知識を取り込んで、実用的な技術として受容された。いけばなを理解する上で欠かせないこの陰陽五行の考え方は、私たちの日常生活の中に今も色濃く残されている。

五行相生説に基づく色の位付け

万物は木火土金水の五つの元素で成り立っているという考え方が五行説だが、五行には青赤黄白黒の五色があてられる。この色の位付けは五行ごぎょう相生そうしょう説、すなわち「前者が後者を生む」という考え方に従い、定められる。木が燃えて火になり、灰=土が焼け残る。土の中から鉱物=金属が採れ、鉱脈のある場所からは水が湧き出る、といった具合で、前者が親、後者が子に当たる。だから五色の序列は、青赤黄白黒の順になる。そして、五色よりも上位にあたるのが紫だ。古書には、「太陽と月が向かい合ったとき、紫雲がたなびく」と書かれており、紫は日月和合の色として最上位に位付けされている。

四神相応の地である京都

さらに、方位を表すのが五行土王説。土が他の四つと比べ一段高い関係にあり、中央に土、東に木、南に火、西に金、北に水といった具体に十字型に配置する。また、この周囲の四要素を時計回りに見れば、木火金水の順だが、これを春夏秋冬という一年の移ろいと捉えることもできる。ちなみに、立春・立夏・立秋・立冬の前、各十八日間を土用と呼ぶが、これは中央の土に当たる。京都は、四神しじん相応そうおうの地とされる。青龍、白虎、朱雀、玄武の四神を、それぞれ、東の鴨川、西の山陰道、南の巨椋池おぐらいけ、北の船岡山に対応させるのが定説だ。中央に黄龍こうりゅう(もしくは麒麟)を加えれば五神となり、五行が揃う。

青龍、白虎、朱雀、玄武の四神

さて、話を大護摩祈祷に戻そう。護摩木の投入に先立ち、山伏衆が六本の矢を弓で射て周囲を清める。まずは五色の矢。東は青龍で古代青、つまり緑の矢だ。緑の矢を東に向けて射る。続いて、南は朱雀で赤の矢、西は白虎で白の矢、北は玄武で黒の矢、最後に中央にある火炉に向けて黄色の矢を射る。ここまでは五行を知っていれば理解できる。1本余ったのは日月和合の紫の矢。さて、どこを射るのだろうかと考えていたら、矢は北東に向けて射られた。北東は鬼門、鬼がいる方角だ。節分は鬼を払う行事。うしとらの方角を紫の矢で射て、厄を払うわけだ。

五行を知れば、いけばなだけでなく、伝統行事にもより一層の興がわく。

文・写真=笹岡隆甫

壬生寺
中京区壬生梛ノ宮町31(正門:坊城通り四条下る)
☎075-841-3381
https://www.mibudera.com/

笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)
華道「未生流笹岡」家元。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学 客員教授。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。2011年11月、「未生流笹岡」三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当。近著に『いけばな』(新潮新書)。
●未生流笹岡HP:http://www.kadou.net/
Instagram:ryuho.sasaoka
Twitter:@ryuho_sasaoka

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