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二条城に現代アート展を誘致 古典と現代の共鳴が文化の発展につながる|花の道しるべ from 京都

花にまつわる文化・伝統芸能などを華道家元の笹岡隆甫さんがひもとく連載コラム『花の道しるべ from 京都』。第14回は、二条城で行われた国際会議への現代アート展の誘致、いけばなパフォーマンスについてです。2023年には文化庁が移転し、今後ますます文化の拠点となっていく京都。笹岡さんは「この街で、古典と現代がうまく共鳴し合うことが文化の発展につながっていく」と語ります。

二条城での国際会議で現代アート展「時を超える:美の基準」

 2019年9月、夜の二条城。現代アートの展覧会が開催されている台所の前庭に、現代美術家・白石由子氏が手掛けた音楽が流れる。流木に添えたのは、紅葉しはじめたナナカマドとケイトウ。小川裕嗣氏の樂焼には、秋草を添えて京都らしい雰囲気を残しつつ、バショウの葉にダイオウショウ、ヤマシャクヤクの実を合わせてモダンな印象に。次々といけられていく秋の花たちを、海外からのゲストは興味深く見入っていた。

 木と土と石と。二条城の建築を構成する素材を意識して、流木を配し、土で作った焼き物を並べ、小石を敷いて、空間を演出した。いけばなは、建築と花が一体となって作り出す場の妙味を楽しむアートでもある。

流木に紅葉しはじめたナナカマドとケイトウを添えて

 このセレブレーションパフォーマンスの実現に向けては、長い時を要した。さかのぼること3年。2016年10月、六本木ヒルズ52Fでの「Culture Vision Tokyo ~2020 cultural kick-off~」*において、teamLab、名和なわ晃平こうへい氏、蜷川にながわ実花氏、ライゾマティクスといったトップクリエイターと共に、空間演出を担当する機会を得た。各クリエーターが手掛けた空間を繋ぐのは、蜷川実花氏プロデュースの「TOKYO道中」。リオデジャネイロパラリンピックの閉会式でも活躍した義足のモデルGIMICO氏やダンスユニットayabambiが、桜吹雪の中を踊りながら練り歩く。彼女たちが身に着けた赤い装束を意識して、私も作品の構想を練った。巨大な松には赤い花々を合わせ、カエデの古木には降り注ぐように紅葉を添えた。東京タワーを見下ろす、ある意味日本らしい場での試みは貴重な経験だった。

*2020年とその先に向けて国際的に機運を高めるための国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム(WFSC)」の政府認定協賛イベント

巨大な松に赤い花々をあわせて

京都での現代アート展誘致に向けて

 それ以降、こうした現代アートと伝統文化の掛け算は、京都の歴史的空間でこそやるべきだと、事あるごとに訴え、時機をうかがっていた。ICOM(国際博物館会議)のレセプションが京都・二条城で行われることを知ったのはそんな時だ。2019年のICOM京都大会は、招致に3年、本格準備に3年と、多くの関係者の努力により実現した日本初開催のICOM。世界中の美術館・博物館の館長、キュレーター、研究者が集い、文化の未来を語り合う貴重な場だ。そんな彼らに日本の文化芸術の現在を紹介したいと、展覧会の誘致に向けて動き出した。

 まずは、「Culture Vision Tokyo」の主催者であり、私もアドバイザーを務める一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンと、二条城でのソーシャルイベントを担当する京都市教育委員会を繋げよう、と交渉をスタートさせた。「Culture Vision Tokyo」で総合ディレクターを務めて下さった谷川じゅんじ氏や、金沢21世紀美術館館長に就任された長谷川祐子氏にもご相談にあがり、アドバイスを頂きながら構想を固めていく。その後、森美術館の館長を長年務めてこられたなんじょうふみ氏と、彫刻家の名和晃平氏がキュレーションを担当して下さることとなり、共に二条城まで会場の下見に。こうして、世界遺産二条城の台所・きよどころ*を会場に、現代アートの展覧会「時を超える:美の基準」の開催が決定した。

*二の丸御殿の調理場にあたる重要文化財

京都で古典と現代が共鳴し合う祭典を

 京都ならではの歴史的価値の高い空間に、teamLab、名和晃平氏、宮永愛子氏ら、日本を代表する現代アートの担い手たちの作品が並ぶ贅沢な展覧会となった。最終日がICOMのソーシャルイベントにあたるように4日間の会期が設定され、一般にも開放。短い会期にもかかわらず5000人を超える来場者が訪れた。そして迎えた最終日の夜、台所の前庭にステージを設け、いけばなパフォーマンスで各国からのゲストをもてなした。

 さまざまな文化が花開いた京都。2023年に文化庁が機能を強化して京都に移転、24年には京都市立芸術大学が京都駅東部エリアへ移転し文化芸術の新たなシンボルゾーンをめざすなど、文化が街づくりの大きな要素として改めて注目されている。この街で、古典と現代がうまく共鳴し合うことが、文化の発展に繋がっていく。文化の未来をどう描くか、さあ議論はこれからだ。

文・写真=笹岡隆甫

笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)
華道「未生流笹岡」家元。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学 客員教授。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。2011年11月、「未生流笹岡」三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当。近著に『いけばな』(新潮新書)。
●未生流笹岡HP:http://www.kadou.net/
Instagram:ryuho.sasaoka
Twitter:@ryuho_sasaoka

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