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名作大体10分解説!~カフカ著「変身」~(前編)

ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。


あまりにも有名なフレーズから始まるこの物語は、ドイツの作家、フランツ・カフカが記した怪作「変身」である。

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冒頭からいきなり身体が毒虫と化してしまった男こそ、主人公のグレーゴル・ザムザだ。

突如として彼の身に降りかかった悲劇。この物語は、そんなグレゴールの苦悩を、まるでレポートのように淡々と綴っている。
あまりにもリアルなので、作者は一度芋虫にでもなったことがあるのではないかと疑ってしまう。

もしくは、芋虫になったつもりで、一日過ごしてみたのかもしれない。YouTuberみたいなことをするものだ。平日の真っ昼間からゴロンゴロ。
なんだろう、闇を感じる。

冗談も休み休み。当然カフカ氏はそんな人間ではない。
百年以上の時を経ても尚、天才作家と誉高き彼の作品は、今日も数多の文学オタクも、そうでない人をも唸らせる。

今回はそんな彼の代表作を見ていこう。


ここで主人公グレーゴルのスペックについて話す。

性別:男性
年齢:不明。おそらく二十代と思われる。
職業:布の外交販売員。朝五時の汽車に乗るほど忙しいが、それでも最近業績が悪いらしい。

両親が抱えている借金と、年頃の妹のために、毎日せっせと働いている健気な青年である。
また、自分で材料から額縁を作るほど、器用な手先の持ち主だ。しかし、突然手にした虫の足の扱いは、さすがに難しいようである。

足を手にするなんて言葉遊びだね。

そして、これが変身後のスペックである。

姿:芋虫
属性:毒 虫
生息地:グレーゴルの部屋

一気にポケモンと化した。

ちなみに、身体の大きさは変わっていないようだ。つまり、成人男性並みの大きさの芋虫が、部屋にごろんと転がっている様子を想像して欲しい。

悪寒がする。オカンすらも絶叫して、フマキラーをぶちまけることだろう。


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こんなこと、悪い夢の続きに違いない。
二度寝して、元の現実に戻ろうと試みるグレーゴル。しかし、彼はここで、右半身を下にしないと眠れないという謎のこだわりを見せる。
だが、芋虫の身体はそれを良しとしない。何度試してみてもごろんと転がり、元の体勢に戻されてしまうのだ。

仕方がないので、ベッドから降りようとするグレーゴル。しかし、慣れない芋虫の身体は、これまたそれを良しとしない。
ベッドの上を、丸太のように転がるしかなかった。本人は至って真剣である。

寝台の前枠に頭を掛けて全身を見た。
変わり果てたボディ。身体に浮かぶ毒虫独特の模様。自分の意思と関係なく、うねうねと動く無数の足がそこにはあった。
想像するだけでゾゾッとするね。

さらに、グレーゴルの悲劇は止まらない。目覚めた時にはなんと、すでに家を出発している時間だったのだ。
会社の人間に怒られることは明白である。

「朝起きたら毒虫になってたんです!」なんて、あまりにも無理のある言い訳だ。
もっとマシな嘘つけよ! とエールを送りたくなる。

だがしかし、この状況もまた無理がある。説明のしようがない。がんばれグレーゴル。


そうこうしているうちに、家族が心配になって様子を見に来た。

ここで人間の頃のグレーゴル特性、”鍵っ子”が発動する。ドアには鍵が掛けられていたのだ。幸か不幸か、家族はグレーゴルの様子を見ることができなかった。

ドア一枚を隔てて家族とグレーゴルは相対す。
彼は心配をかけまいと、気丈に振る舞った。家族に向かってこう返答する。

「今起きるところだったんですよ!」
まるで、日曜日の朝に布団をひっぺがされた時のような言い訳である。

しかし、ドアの向こうで聞こえたのは、家族の戸惑う声。
どうやら既に、発声能力にも異常が生じているようだ。

そして、とうとうグレーゴルが務める、商会の支配人がやって来た。
なかなか出社してこないグレーゴルを心配して、見舞いに来てくれたのであろう。さぞ心優しい人間に違いない。

グレーゴルの部屋の前に立つ支配人。そんな支配人から、母親は必死に息子を庇った。彼は大病を患っているのだと。

「——どうもそうとしか考えられませんな。たいしたことでなければよろしいが」と支配人。

よかった、心優しいおじさんだ。

「もっともわれわれ商売人というものは——これが幸か不幸か——それはそれとしてですな、少々の病気ぐらいはまあたいていは商売大事と思って我慢して治してしまうべきものでもあるんですな」

前言撤回。闇の悪魔がやってきた。

さらにこの支配人、グレーゴルの業績不振を、両親の前で暴露した。
どうやらこの人は頭が病気のようだ。

困り果てる両親。
聞くところによると、グレーゴルの会社の人間は、このような嫌がらせを、両親に対し頻繁に行っているらしい。
こいつら、人間の姿をした毒虫に違いない。


しかし、そんな毒虫だろうが、ザムザ一家にとっては、大事な収入の柱である。
グレーゴルも必死に弁解しようとした。
しかし、口から飛び出してくるのは、声にならない声である。
支配人も「獣の声だ」と呆れている。
両親も絶望寸前、妹に至っては泣いている。
とんでもないカオスである。

この状況を打破するには——

直接面と向かって説得するしかなかろう。言ってダメなら会って聞かせだ。

そしてグレーゴルは、器用に身体をうねらせ、物を伝い、何とか立ち上がった。
目指すは扉の向こうの支配人。手の代わりに、口を使ってドアの鍵をこじ開けた。
正確には、口ではなく”顎”であるが。

ドアが開く。晴れてご対面のお時間だ。
さあ、鬼が出るか邪が出るか。
言うまでもなく毒虫だ。

一同はグレーゴルの姿を見るなり言葉を失った。

支配人は、口を押さえ後ずさる。母親は床にへたへた座り込み、父親は苦悶の表情を浮かべて最後には泣き出した。

カオスもいよいよここに極まる。

グレーゴルは必死で支配人を説得する。しかし、その声は支配人に届かない。
人ならざる者の声は、虚しく空に霧散するばかりだ。

さて、グレーゴルのような下っ端なんぞ、顎の先で使い倒すのが支配人。
サボるなら 殺してしまえ グレーゴル。
彼のほどの権力者であれば、その日のうちにクビにすることなど、容易いことだろう。
まさに芋虫を踏み潰すように。

ならば人間サイズの芋虫はどうかしら?
あんたの靴べらの広さを見せてくれ。

結果、支配人は静かに立ち去ろうとした。
勝者、グレーゴル! ざまあない。

逃がしてなるものか。何とか納得してもらわねば。追おうとするグレーゴル。
その姿を見て、支配人は素っ頓狂な声を上げた。そして、急いで家から飛び出してしまった。

動き出したグレーゴルを見て、父親も我に返る。
この忌々しい毒虫め! 
そういわんばかりにステッキを持って、異形と化した己の息子を、元いた部屋へ追い立てた。

判決、自室行き。グレーゴルの異議など、もはや誰にも届かない。

最後まで自分のことを心配していた両親にさえも。


もはや大人しく、部屋に戻るしかないグレーゴル。ところが、後ずさりの方法が分からなかった。
生まれたての子鹿ならぬ、変わりたての毒虫。ちょっとは手伝ってあげてよ。

ドアの狭い隙間の内で身をよじらせ、方向転換しようとする。しかし、身体がその隙間に挟まって思うように動けない。

その間にも父親は、ステッキでグレゴールを逸らせる。
ハリウッド映画のワンシーンのように、「ちょっと待て! 今やってる!」と伝えられたら、どれだけよかっただろうか。

最後は父親に尻を蹴り飛ばされ、とうとう部屋の中にぶち込まれた。
身体は擦りむいて血まみれだ。痛々しい。

散々な目に遭ったのち、ドアは無情にも閉められた。
果たして再び開かれることはあるのだろうか。
先ほどの喧騒はどこへやら、あたりはしんと静まり返った。


人ならざる姿。通じぬ言葉。失ったのは仕事に限った話ではない。
家族との繋がりも絶たれてしまった。

誰が見ても分かる。完全に詰みだ。

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さて、今回はここまで。
平凡な青年を突如襲った悲劇。
何故、彼は毒虫にかわったのか? 彼は元の姿に戻ることができるのか?
そもそも、彼にもっといい職場はなかったのか? 仕事選びはスタンバイ。

グレゴールは、そしてザムザ一家の運命はいかに!?
後半へ続く!


今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

余談ですが、「怪獣8号」という漫画をご存じでしょうか?
最近人気急上昇中の作品です。

この漫画のストーリーを紹介します。

怪獣駆除を生業とする冴えない男が、ある朝目覚めると身体が怪獣に変わっていた。彼は人間に与し、その力で他の怪獣たちをばったばたとなぎ倒していく……。

「変身」のようなストーリー展開。さらに、この主人公の男の名は、なんと「カフカ」なのです。
「変身」はこのようなところでも、現在の作品に影響を与えているようですね。
それほど、様々な人に愛されている作品であるともいえます。

ぜひ皆さんも手にとって読んでみてはいかがでしょうか。
次回も、分かりやすさ濃いめ、クセマシマシでお伝えして参ります
是非後編もお楽しみくださいね!

#海外文学のススメ

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