はひふへほみち

物語を作っています。ぬいぐるみが好きです。趣味は散歩と読書、ホラーゲーム。 第24回随…

はひふへほみち

物語を作っています。ぬいぐるみが好きです。趣味は散歩と読書、ホラーゲーム。 第24回随筆春秋コンクール「奨励賞」/第3回54字の文学賞「ホラー賞」/第169回パピプペポ川柳コンテスト「入選」

最近の記事

たまご

(小さな賞をいただき、とある同人誌に掲載していただいた作品です)  温度三十七度、湿度七十%で、四時間ごとの転卵。発泡スチロールに、電気あんかと湿らせたスポンジを入れただけの簡易な人工孵卵機の中で、いとおしげに見切り 品のウズラの卵を温める私を見て、夫は「とうとう妻は おかしくなったのだ」と思ったに違いない。  二十個に一個、二パックに一つの確率で、有精卵が混 じっており、雛が孵るという。  実を言うと、子宮を思い、子供を持つことができないという現実をどうしても受け止めら

    • コピコ

       ここに、コピコという小さなぬいぐるみがいます。コピコは過去に持ち主に捨てられた経験から、人間不信に陥っていました。長い間、梱包用のダンボールに閉じ込められ、孤独と絶望の中で生きてきたのです。  ある日、久しぶりにダンボールを開かれたコピコは、新しい持ち主となる優しい少女、マリの元へとやってきます。彼女はコピコを捨てたり乱暴に扱うこともことなく、ぬいぐるみとしてコピコを大切に扱ってくれました。しかし、コピコの心はまだ傷ついていて、彼女に心を開くことができませんでした。  

      • ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町

         ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町は隣同士でした。  ふわふわぬいぐるみの町では、持ち主がいかに自分を大切に扱ってくれているのかが価値の基準でした。  かわいいお帽子を被らせてくれたり、素敵なリボンをつけてくれたり、お揃いのお洋服でお出かけをしたりすることが、何よりも大切なことでした。  ふわふわぬいぐるみの町には、ぬいぐるみ専用のエステがあり、みんな体を綺麗に保っています。  汚れのひとつもなく、おひさまのいい匂いがするふわふわの体を保つことで、持ち主はもっと

        • 6月27日(土)

           昨日、鏡を見ていたときに、自分の親知らずに偶然虫歯らしきものを見つけてしまい、慌てて火曜の午後に歯医者の予約をとったのだ。  痛みはないが、気が気ではない。  これから綴られる楽しげな日常にも、虫歯の恐怖を引きずっていることを頭の片隅に置いておいて欲しい。 ***********  今日は夫が休日だったので、私が仕事を終えてから趣味の散歩に出かけた。  今回は、近所だけど普段は行かないような細道、裏道を歩いていく。  古き良き商店街の、古き良き電池の自販機。

          6月25日(木)

           朝から大きめな地震に叩き起こされた。何か嫌な揺れ方だった。  今日の仕事も滞りなく終わり、私はなぜか本場のチャイが飲みたくてたまらなかった。  いや、理由はある。  夫がYouTubeで見ていた、インドの屋台のチャーハンの作り方の動画内で、現地の人がチャイ屋さんから買ったチャイがやたらと美味しそうだったのだ。  私は元々紅茶好きだし、スタバやタリーズをはじめとするコーヒーショップでもチャイを注文する外道なので、根っからチャイは好みである。  動画を見ながら、「本場

          6月23日(火)

           昨夜、気まぐれで作った、揚げなすと大根おろしの冷しゃぶそうめん(糖質ゼロ麺)だが、夫がたいそう気に入り、「夏は毎日これでいい」とまで言っていた。  という訳で、今夜は梅カツオ味のそれである。  薬味ネギは、私が広島の蕎麦屋で働いていた時に覚えた、細かく刻んだ青しそとネギを合わせたもので、簡単で美味しいのでぜひこの夏試してみて欲しい。  水の中で混ぜた方が、しそが満遍なく混ざって見栄えが良い。  こんな感じ。  さて、今日は休日だったので、朝から短歌の公募を送ったり

          6月23日(火)

          6月22日(月)

           朝から激しい雨だったが、今日も仕事だ。  出勤早々、職場の消防訓練の日であることを伝えられるが、参加せずにパンを作り続けるよう指示を受ける。  訓練の為とはいえ、パンの作業場を出火元に仮定され、人の命より重いパンを作りながら、消防訓練の音を漏れ聞き、桃太郎のきびだんごくらい割りに合わないと思っていた。  私はこの職場を「お金が貰えるパン教室」くらいにしか思っていないし、時給1000円そこそこで命を投げ出す契約はしていないので、いざ火事となれば我先に逃げることを心に決め

          6月21日(日)

           久しぶりに日記を書こうと思い立ったのに、もう3日も経ってしまった。出だしからこんな感じなので、どうせ長続きはしないであろうことを覚えておいてほしい。  そもそも、私の日常というものは日記に書き記すほどのものではないし、誰も興味を持って読むこともないだろう。読み物としては非常に退屈な部類であることを断っておきたい。  それでも、この日記を読み進めることを決めてくれた方の為に、私と私を取り巻くささやかな登場人物達を少し紹介しておきたいと思う。 私(はひふへほみち)……パー

          ぬい撮りについて本気出して考えてみた

           ぬい撮りというワードの意味については、昨今ニュースでも取り上げられる程に、世間に浸透し始めていると思うので、説明は割愛させて頂くとして、今回はこのぬい撮りについて、改めて考えてみたいと思う。  ぬい撮り愛好家は、基本的に各々がお気に入りのぬいぐるみというものがあり、それこそ、自分の分身と言っても過言ではなく、例え見た目がくたびれてこようとも、それはそれは大切にしている。そして、名前を付けたり、外出先まで肌身離さず持ち歩いたり、話しかけたり、洋服を着せたり、寝食を共にしたり

          ぬい撮りについて本気出して考えてみた

          時間恐竜

          僕は、諦めていた。 もうどうしたって遅すぎるのだ。 どんなに急いだところで、間に合いっこない。 深くため息をついて、僕はそれをポケットに入れた。 少しくしゃくしゃになったようだけど、もう必要のないものだ。 もう一度ため息をついたとき、おや?と思った。 背中になにか感じる。 なにかただならぬ気配を感じて振り向いたら、僕の後ろに恐竜がいた。 あれは暴君ティラノサウルス! そのティラノサウルスが、僕をジロリと睨み付けているのだ。 く、喰われる! 僕は必死に駆け出した。

          書籍

           私が十八歳になった誕生日の朝、四つ下の弟がふいと私の部屋に入るや否や 「今日から十八歳?」  と、尋ねてきた。そうだと答えると、弟は暫し考え込むように、或いは私の顔色を伺うように視線を泳がせた後、殊更に声を潜め 「ということは、くぐれるわけ?」  などと、どこか険しい顔で言う。  さっぱり話が見えない私が、弟の顔をまじまじと見つめていると、更に短く「のれん」「赤いやつ」と続ける。ここまでくると、元来察しの悪い私にも、なんとなく弟が言わんとすることが見え始める。  案の定、弟

          キューピッド

          柔らかい春の風をうけ、まどかはなんとなく目を閉じた。歩みを止め、全身の力を抜き、雑草のようにそこに立っていると、景色と溶け込めそうな不思議な感覚に陥る。なんだか春の風に優しく抱きしめられているみたいだと思い、まどかは少し微笑んだ。 春との長い抱擁を終えると、やがて風が吹き抜けていった。気まぐれな風達はまどかの頬を撫で、そのあと桜の花と絡まってどこかへ行ってしまった。だからまどかは、名残惜しげに目を開き、また歩みを進めた。 まどかには行くべき場所があったのだ。 町で1番高

           月の綺麗な夜だった。  縁側に座る僕の膝の上で甘えていたミーコが、急に庭へと飛び出した。 「土に、帰らなくてはなりません」  眩しいくらいの満月に照らされながら、猫のミーコが深々と頭を下げた。「今まで優しくしてくれて、本当にありがとうございました」  突然ミーコが口を聞いたことに、僕はあまり驚かなかった。それよりも、数日前に僕が見たあの光景はやっぱり幻なんかじゃなかったんだと、やりきれない気持ちでいっぱいだった。 「お前……やっぱりあの時、車に跳ねられたんだね? 僕は夢を見

          老ぬいホーム見学物語⑥

           ーー扉を開けた先が、もしもシーンと静まりかえっていたとしたら、ドアのガチャッと開く音で皆が一斉にこちらを向いてしまうかも。そうしたら、一体、何と言ったらいいんだろう。こんにちは、かな?  ところが実際、ジンペーちゃんがリハビリ室に入った時、入居しているぬいぐるみ達はリズムに合わせて体操をしているところだったので、そんな迷いも杞憂に終わるのでした。 「お腹の綿を、ふわふわに戻す運動ーっ! はい、1、2、3、4っ!」  職員らしきぬいぐるみが、そう威勢よく号令をかけると、入居し

          老ぬいホーム見学物語⑥

          深海

           どうしても、海がよかった。私の最後の我儘のつもりだった。  それなのに、どんなに車を走らせても海は見えてこないものだから、イライラしているのだと思う。助手席の彼は、窓の外を見たまま動かない。  とっくに当てにするのを止めたカーナビは、車を海のど真ん中に取り残したまま、「目的地に到着しました。運転お疲れさまでした」と絶望的な状況に、更に追い討ちをかける。 「ごめんね」  どうしようもなくなって、私はとりあえず彼に謝った。とりつく島もない状況に、尚更心細くなって、私はすがるよう

          老ぬいホーム見学物語⑤

           地下鉄に乗って辿り着いた老ぬいホームは、新聞の記事で見た通り、自然に囲まれた落ち着いた建物だったので、ジンペーちゃんは少しホッとしました。  通い馴れているうさみちゃんと一緒に、ホームの中に入ると、うさみちゃんはすぐに他の職員さんに呼ばれたようでした。そして、何か忙しそうに去っていった職員さんを目で追いながら、 「ごめんね、ジンペーちゃん。うさみ、急いでお手伝いに行かないといけなくなっちゃった。案内してあげる約束だったのに、本当にごめんね」  心底申し訳なさそうなうさみちゃ

          老ぬいホーム見学物語⑤