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ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町

 ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町は隣同士でした。
 ふわふわぬいぐるみの町では、持ち主がいかに自分を大切に扱ってくれているのかが価値の基準でした。
 かわいいお帽子を被らせてくれたり、素敵なリボンをつけてくれたり、お揃いのお洋服でお出かけをしたりすることが、何よりも大切なことでした。
 ふわふわぬいぐるみの町には、ぬいぐるみ専用のエステがあり、みんな体を綺麗に保っています。
 汚れのひとつもなく、おひさまのいい匂いがするふわふわの体を保つことで、持ち主はもっとぬいぐるみたちを愛してくれるのです。
 それなのに、ぼろぼろぬいぐるみの町の人たちときたら、体から綿が飛び出していてもそのままだし、エステに行くこともしないでいつも真っ黒な体をしているのです。
 ふわふわぬいぐるみの町の住人には、それはとても理解できないことでした。「きっと、ぼろぼろぬいぐるみの町のみんなは、持ち主に大切にされていないんだね」と考えました。
 こんな調子なので、この隣同士の町は、どうしても分かり合うことができませんでした。
 
 さて、そんなふわふわぬいぐるみの町で暮らすサラサラには、秘密がありました。体に、どうしても消すことのできない汚れがひとつだけあるのです。
 サラサラはその汚れを帽子で隠していましたが、いつ他の町民に見つかってしまうかと思うと、気が気ではありませんでした。
 ある日、強い風に吹かれた帽子を追いかけたサラサラは、ぼろぼろぬいぐるみの町に迷い込みました。そして、その町の住人であるゴワゴワに出会います。
 帽子の下の汚れを必死に隠すサラサラを見て、ゴワゴワはサラサラを自分の住む町へと連れていきました。
 ぼろぼろぬいぐるみの町では、体の傷や汚れは持ち主との思い出であり、大切にされた証とするのが価値観でした。
 そのため、ぼろぼろぬいぐるみの町では、大切な思い出が消えてしまうことを避けるため、エステを嫌がるのです。
 ぼろぼろぬいぐるみの町では、帽子で汚れを隠すことなく、ありのままのサラサラを受け入れてくれます。ぼろぼろぬいぐるみの町で、楽しいひとときを過ごしたサラサラは、自分の考えが間違っていたことに気がつきました。
「ふわふわぬいぐるみの町のみんなも、きっと勘違いしているだけなんだ。ちゃんと話せば分かり合えるはずだよね」と考えたサラサラは、帽子で汚れを隠すことなく、ふわふわぬいぐるみの町に戻りました。
 ふわふわぬいぐるみの町のみんなは、ぼろぼろぬいぐるみの町から戻ってきたサラサラを見て、驚きました。
「あっ! あんなところに汚れがついている!」
「きっと、ぼろぼろぬいぐるみの町で、汚れをつけられたんだ!」
「なんてひどいことを! ぼろぼろぬいぐるみの町の人は、やっぱり嫌な連中だ!」
「もう我慢の限界だ! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ!」
 ふわふわぬいぐるみの町のみんなは、大きな洗濯機を用意して、ぼろぼろぬいぐるみの町の人を片っ端から洗濯してしまおうと考えました。
「ちがうの、ちがうの! これは……」
 サラサラが必死に説明しますが、怒れる町の人たちの耳には届きません。
「よーし! 手始めに、まずはそのゴワゴワってやつを連れてきて洗濯してしまえ!」
 町長のその一声で、ふわふわぬいぐるみの町の人たちは、ゴワゴワを探しに行きました。
 やがて、何も知らずに連れてこられたゴワゴワは、たくさんの泡とお水が渦巻く大きな洗濯機の上まで運ばれて、恐れ慄きました。
「待って、待ってよ! そうじゃないんだよ!」
 必死に大きな洗濯機へよじ登るサラサラの声は、洗濯機の上の人々には届きませんでした。
「よーし、みんな!」
 ふわふわぬいぐるみの町長が先導します。
「3つ数えたら落っことすぞ。それ、1、2の……」
 あわや、ゴワゴワが洗濯機の中に突き落とされそうとしたその時でした。
「うわあー!」
 ボチャンッ!
 うっかり足を滑らせたふわふわぬいぐるみの町長が、大きな洗濯機の中へ落ちてしまいました。
「たすけてー!」
 ばちゃばちゃ。
 予期せぬ事態に、ふわふわぬいぐるみの町の人はオロオロするばかりです。
「大変だ! 洗濯機を止めて! 早くスイッチを押すんだ!」
 思わず、ゴワゴワがそう叫びます。
 その声を受けて、ようやくハッとしたふわふわぬいぐるみの町の人たちは、慌てて洗濯機のスイッチの方へ駆けて行きました。
 それと入れ違いに、洗濯機の上に辿り着いたふわふわは、精一杯手を伸ばして、洗濯機の渦の中で揉みくちゃになるふわふわぬいぐるみの町長を引っ張り上げようとしました。しかし、勢いよく回転する洗濯機の力はとても強く、なかなか上手くいきません。
「えいっ! えいっ!」
「サラサラ、無理しちゃダメだよ。このままじゃ、君まで巻き込まれてしまう」
「でも……!」
 そうこうしているうちに、町長は渦に呑まれて見えなくなってしまいました。
「ああ、そんな……」
 サラサラが思わず目を瞑った瞬間でした。
 ザブーンッ!
 突然、何かが水に飛び込むような音が聞こえました。
「え?」
 驚いて目を開けると、洗濯機の中にはゴワゴワの姿がありました。
 どうやら、ゴワゴワが飛び込んで助けてくれたようです。
 ゴワゴワは町長を背中に乗せると、ゆっくりと水面に上がりました。
「サラサラ、早くこの人を!」
 サラサラは急いで、町長を引き上げようとしました。しかし、町長の体は水をたっぷり吸い込んでいるために、重くてなかなか持ち上がることができません。
 サラサラひとりの力では町長を引き上げるのが難しい状況でしたが、洗濯機のスイッチを止めたふわふわぬいぐるみの町の人たちも駆けつけ、力を合わせて町長を助けました。
 ゴワゴワも、水の中で力強く町長を支えます。そうやって共に力を合わせて、ようやく町長を洗濯機の中から引き上げることができました。
 ふわふわぬいぐるみの町の人たちは、急いで町長を病院へと運びました。町長は幸いにも命に別状はなかったものの、洗濯機で回されたことで体がすっかり綺麗になってしまいました。
 同じく洗濯機に入ったゴワゴワも、洗濯されたことで真っ黒だった体が鮮やかな緑色へと変わっていました。
 ぼろぼろぬいぐるみの価値観を知っているサラサラは、ゴワゴワのことが心配でなりません。
「ゴワゴワ、大丈夫? 僕のせいでこんなことに……」と心配そうに尋ねます。
 ゴワゴワはサラサラの気遣いに感謝しながらも、優しく微笑みました。
「大丈夫さ、サラサラ。こんなこと、全然平気だよ。たまには体を綺麗にするのもいいものだね」と穏やかな声で答えます。
「でも、君の思い出が……」
 サラサラが心配そうに言いかけたところで、ゴワゴワは優しく手をサラサラの頭に置きました。
「大丈夫だよ、サラサラ。思い出は心に残っているんだ。それに、ふわふわぬいぐるみの町の大切な価値観を教えてくれたおかげで、新しい思い出ができたんだ」と優しい笑顔で語ります。
 嬉しそうなゴワゴワの周りに、ふわふわぬいぐるみの町民が集まり、その勇気を讃えました。

 それから、サラサラとゴワゴワは、ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町の仲間たちに説明をしました。
 サラサラがぼろぼろぬいぐるみの町での素敵な思い出を共有し、ゴワゴワがふわふわぬいぐるみの町での大切な価値観を伝えました。ふたりは、みんなが少しずつお互いの考えを理解し、ゆくゆくは心を通わせることができることを願いました。

 ふわふわぬいぐるみの町の人たちは、ゴワゴワのように少し体が汚れていても、大切な思い出があることを理解し、受け入れることができるようになりました。
 ぼろぼろぬいぐるみの町の人たちは、サラサラのように体を綺麗に保つことが持ち主に対する愛情の表れだと理解しました。そして、ふわふわぬいぐるみの町のエステを訪れることを決心しました。

 次第に、両町の人々は互いを尊重し、協力し合うようになりました。ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町は、お互いの特長を認め合い、豊かな交流を持つようになったのです。そして、サラサラとゴワゴワは、この和やかな雰囲気を作り上げたことを喜びました。
 ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町は、交流を深めていきました。
 ふたつの町の住人は一緒にお出かけを楽しむことで、新たな思い出を作り、持ち主との絆もさらに深めることができました。
 サラサラとゴワゴワの尽力により、ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町は、次第に一つのまちのように繋がり、以前のような心の壁はなくなりました。
 両町の人々はお互いの大切な思い出や価値観を尊重し、共に幸せなぬいぐるみの町を築いていくことを誓いました。
 こうして、ふわふわぬいぐるみの町とぼろぼろぬいぐるみの町の友好は永遠に続くのでした。