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お仏壇一新

 父母が相次いで鬼籍に入り、「お仏壇」を引き継ぐことになった。これは長男の果たすべき役目だと自分に言い聞かせた。
 
 しかし、いざそうなると問題が山積みだった。

 まず両手に余る柱のご位牌を供養して、「先祖代々」「祖父母」「父母」の三柱にした。

 次は、お仏壇を掃除していたら、引き出しの奥にあった箱から祖母と母が別々に認めた書付が出てきた。

 それは祖父と父が関係した数多の女性たちとの顛末の一切を記録したものであった。

 私は、興味津々で夢中になって熟読した。

 親子二人の女癖の悪さは驚くほど似ており血は争えないものだと驚嘆した。

 同時に、幼い頃から「お嫁さんを泣かしては駄目だよ」としきりに祖母や母から言い聞かされていたことが腑に落ちた。

 私はこの書付を破棄し、その記文を胸中に終い込んだ。

 これは、祖父と父の名誉のために口外せず墓場まで持っていこうと決めた。

 しかし、私はこの書付を読んで、生前はただ怖いだけだった祖父に親しみを感じた。

 よし!私が黄泉の国に行ったら、親父共々呼びつけ正座をさせて延々と説教してやろう。

 黄泉の国へ行く楽しみができた。
 
 さて次なる問題はお仏壇本体で、長年のお勤めによる経年劣化が激しく、私はそのままで引き継ぐのを躊躇った。

 これは色々な意味でお仏壇を一新する必要があると考え、近くの専門店で買い替えた。色や形や大きさ等は、我が家に相応しいものを妻と息子夫婦が相談して決めてくれた。

 そのお陰もあって、新しいお仏壇の開眼法要の段取りを無事に終えた。

 これで一安心と思っていると「なぜ俺に相談もなく勝手にお仏壇を替えるのか」と、叔父から文句の電話が入った。

 こいつは、親戚に必ず一人はいる傍若無人に好き勝手振る舞う「金は出さないくせにやたらと口を出す」典型的な厄介者だったので懲らしめる絶好の機会と、電話口で「金を出さない奴が口を出すな!」と「墓参りにも行かない奴が偉そうにするな!」の二言で黙らせ、「今後は立場と常識をわきまえよ!」と一喝して止めを刺した。

 それを伝え聞いた親類縁者の皆から「よく言った!」とお褒めの電話を貰った。

 叔父は、私が思った以上に鼻つまみ者で、法事の席では誰からも相手にされず、末席でおとなしく一人小さくなって鎮座していた。

 開眼法要の法事が、滞りなく無事に終わり「お仏壇一新」が完了した晩、祖母が夢に出てきてくれた。

 「本当にありがとうね」とお礼を言われ、祖父と父からの「お恥ずかしい限りです」の伝言まで言付かった。

 それから祖母は、私の節目には必ず夢に出てきてくれた。

 そして、その都度「あなたの守護霊として何時も見守ってあげる。だけど見張ってもいるからね」と優しく笑顔で言われた。

 私は、おとなしく頷くしかなかった。
                 <了>