保険代理店の法律問題

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保険代理店の法律問題

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最近の記事

保険料調整行為と保険代理店の対応

1.保険会社の業務改善計画令和5年12月に金融庁が、大手損保四社に対し、保険料調整行為に関する業務改善命令を出し、令和6年2月29日に損保会社から業務改善計画書が金融庁に提出された。 提出に関する各社のリリースは以下のとおりである。 ・東京海上日動火災保険会社 業務改善計画書の提出について https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/240229_01.pdf ・三井住友会場火災保険株式会社 業務

    • 【裁判例】(解決事例)満期落ち後事故の代理店の賠償責任について

      0.福岡地裁令和5年11月10日判決 私が保険代理店側の代理人を務めた代理店賠責事件で、最近判決が出て確定し、記事にすることについて了承を得たので紹介する。 保険代理店の賠償責任の原因で最も多いのは、保険募集時の説明誤りである。保険契約後の募集人による説明誤りなどは基本的に賠償責任を負うことはない。 例えば、保険契約者に対し、事故後に有無責の説明(本当は保険金が出ないのに、保険金が出ますと説明する等)を誤ったとしても、それをもって保険代理店に賠償責任は発生しない。 この場

      • 【裁判例】YH-Gカンパニー事件(顧客情報の「営業秘密」該当性)

        0.知財高裁令和3年11月17日判決(原審:東京地裁令和3年3月23日判決) 保険代理店の従業員が退職した場合において、円満な退職ではない場合には、「その従業員が顧客情報を持ち出した」「その顧客を奪った」として、不正競争防止法の営業秘密不正取得等に該当しないかが問題になることがある。 保険代理店側からして、顧客情報等の持ち出しを制限するための方法としては、【対応策】募集人退職時の顧客情報の持ち出しで記載した通りである。 営業秘密不正取得等は、その名の通り「営業秘密」を「

        • 【裁判例】代理店の満期管理責任

          0.代理店賠責のリーディングケース?(松山地裁今治支部平成8年8月22日判決)代理店賠責保険のパンフレットなどで紹介される、代理店が損害賠償責任を負った裁判例として、満期管理責任の事例を目にしたことがある方も多いかもしれない。 代理店に信義則上の義務違反を認め、損害賠償請求が認められた事例である。 しかし、意外とどのような事例だったかは認識されていない。 紹介する事例は読んでいただければ分かるが現在と少々状況が違うが、満期時に十分な説明を行っていなかったことなどでトラブル

        保険料調整行為と保険代理店の対応

          【裁判例】ジブラルタ生命保険事件(顧客情報の持出しと退職金返還)②

          前回からの続き 2.争点 本件の争点は、 ①社員1、2が顧客情報を持ち出したかどうか ②社員1、2が在職中にジブラルタの業務妨害の予備行為を行ったかどうか ③社員1、2がジブラルタの会社封筒を私的利用したかどうか ④社員1、2による顧客情報の持出し、業務妨害の予備行為及び会社封筒の私的利用を理由として退職金の返還を求めることができるかどうか である。 ※厳密には、社員1、2がジブラルタに対し、名誉毀損(顧客への文書送付、関東財務局への報告)に基づく損害賠償請求をしているが

          【裁判例】ジブラルタ生命保険事件(顧客情報の持出しと退職金返還)②

          【裁判例】ジブラルタ生命保険事件(顧客情報の持出しと退職金返還)①

          0.東京地裁令和4年6月10日判決(労経速2504号・LLI/DB L07731803) 生命保険においては、どのような保険商品を契約したかではなく、誰(営業マン)から保険に加入しているかが重要とする方も多い。これは他の業界でも同じようなものもがあるが、保険はその性質が強い。 保険代理店から他の保険代理店に転職する場合に、自分が取り扱っていた顧客情報を持ち出して、転職先の保険代理店で営業をするケースは多い。実際に自分のお客という意識は強いので営業マンからすれば当然の感覚だ

          【裁判例】ジブラルタ生命保険事件(顧客情報の持出しと退職金返還)①

          【裁判例】日本郵便解雇事件(かんぽ生命不適切販売)

          0.札幌地裁令和4年12月8日判決 かんぽ生命の保険の不適切販売に関する問題は大きく取り上げられ、業務停止命令の処分が出されているのは記憶に新しい。 その問題に関しては、多くの日本郵便の従業員、役員が処分を受けている。 今回紹介する裁判例は、不適切販売をして懲戒解雇処分を受けた従業員が、解雇無効を主張して争った事件である。 結果的に、日本郵便がした解雇は無効であると判断されている(募集人側の主張が認められている)。なお、執筆当時、同種の事件で2件目の解雇無効判決が出てい

          【裁判例】日本郵便解雇事件(かんぽ生命不適切販売)

          【裁判例】手数料前払制度による過重労働?事件

          0.東京地裁令和4年4月22日判決 代理店が代理店業務委託契約を締結している保険会社に対し、損害賠償請求をした事案であるが、損害賠償をした理由は「手数料前払制度を背景にした保険会社従業員からの過酷な指示によって統合失調症を発症した」という珍しいものであったため、紹介する。 1.事案の概要 ・Xは、平成18年に生命保険会社Aとの間で、代理店業務委託契約を締結し、代理店業を開始した。 ・XはAから手数料前払制度を案内され、その利用を希望した。 ・Xは平成20年7月ないし9月

          【裁判例】手数料前払制度による過重労働?事件

          保険代理店が扱う個人情報は誰のものか

          1.代理店が取得する個人情報にかかる規制 保険代理店は、保険会社から募集等の業務を委託されている関係にあるが、そもそも保険代理店が取得した個人情報は保険代理店のものなのか、保険会社のものなのか、個人情報に関する規制についてどのように理解すればよいのかを簡単にまとめる。 顧客は保険代理店に様々な個人情報を提供する。 見積もり依頼や資料請求の際に個人情報を提供し、保険に加入する際に、申込書に個人情報を記入して提供する。 申込書に記載された個人情報に関して言えば、 保険代理店

          保険代理店が扱う個人情報は誰のものか

          所属募集人に報酬を支払う保険代理店のインボイス制度対応

          1.インボイス制度 2023年10月よりインボイス制度が開始し、インボイス発行事業者となるためには2023年3月末までに登録申請が必要となる。 ※本稿でテーマにするのは、保険代理店と所属する募集人のインボイス制度対応についてであり、保険会社との関係で保険代理店がインボイス制度に対応するか否かではない。 通常の会社において従業員への給与は、雇用契約に基づく労働の対価であり、消費税が課税される取引ではない。 しかし、保険代理店においては募集人に対し、固定給としての給与の他

          所属募集人に報酬を支払う保険代理店のインボイス制度対応

          【裁判例】日本生命事件

          0.東京地判令和4年3月17日「中途採用した成績不良の従業員に辞めてもらいたい」 こんな相談は定期的に耳にする。前職での取り扱い保険料や本人の申告など採用時の想定と大きく異るようなケースや、そもそも固定給分(最低保障分)などの手数料収入もないケースなどなど。 今回紹介する事件は、日本生命で成績不良の従業員を退職扱いとし、その従業員がその退職扱いの無効を争った事件である。 保険会社の事件ではあるが、営業社員の問題は、保険代理店にも共通するため紹介する。 1.事案の概要当

          【裁判例】日本生命事件

          【裁判例】代理店転職トラブル事件

          0.東京地裁令和4年1月26日判決顧客本位の業務運営のために固定給化を制度として採用しても、完全歩合給制度を求めて募集人が転職してしまう・・・そんな悩みを持つ保険代理店も多い。 今回紹介する裁判例は、保険代理店間の転職に伴って、転職先の代理店と募集人との間で、完全歩合給制度の説明に関してトラブルがあった事例である。 1.事案の概要保険募集人Xは、保険代理店Aに勤務していたが、平成28年末ころより、保険代理店Yへの転職の勧誘を受けた。 そして、Xは、Yの代表者、営業開発部長

          【裁判例】代理店転職トラブル事件

          【最高裁】ダイヤモンド・オンライン 保険ラボ

          3月24日判決の記事を更新しなければと考えていたが、なかなか書けず、そんなタイミングでダイヤモンド・オンラインで執筆する機会を頂いたので、こちらをご笑覧いただければ・・

          【最高裁】ダイヤモンド・オンライン 保険ラボ

          【最高裁】争点解説②

          8.被上告人の主張被上告人の答弁としては、 不当利得容認説の不都合性として、 を主張している。 9.①狭義の人傷一括払本件は、いわゆる「人傷一括払」に関する事案であるが、被上告人は、「狭義の人傷一括払」において、不当利得容認説の結果に問題が生じる旨主張している。 「狭義の人傷一括払」とは、人傷社が被保険者に対して、人傷保険金(アマウント)に加え、自賠責保険金を併せた金額を支払う場合である。 このような狭義の人傷一括払いは本件とは異なるケースであり、実際にどの程度この

          【最高裁】争点解説②

          【最高裁】争点解説①

          0.最高裁弁論と判決期日2月24日に最高裁での弁論期日(第一小法廷(安浪コート))が開かれた。 判決期日は、令和4年3月24日15時に指定されている。 本件の争点は、人傷社が人傷一括払いとして保険金を支払った後に、自賠責保険から回収した金額について、損害賠償請求権の額から控除できるか否かである。 ※この争点の前提の議論ついてはこちら 協定書の解釈が問題となっている。双方の主張について整理する。 1.上告人の主張(総論)上告人は、控訴審判決に対して、 を主張している。

          【最高裁】争点解説①

          【最高裁】人身傷害保険先行時の自賠責保険回収の扱いについて②

          3.双方の保険を使う方法まず、対人賠償責任保険を使った後に、人傷保険を使うことはできないかを考える。 対人賠償責任保険から支払われた場合、総損害額150万円のうち120万円(150万円×(1-0.2))が支払われることになる(ここでは裁判をせずに解決したことを前提にする。)。 その後、人傷保険を請求する。人傷保険は実際に生じた損害をてん補する保険なので、 既に支払いを受けたものは保険金から控除することになる。 つまり、人傷保険金は100万円だが、既に対人賠償責任保険から1

          【最高裁】人身傷害保険先行時の自賠責保険回収の扱いについて②