保険料調整行為と保険代理店の対応

1.保険会社の業務改善計画

令和5年12月に金融庁が、大手損保四社に対し、保険料調整行為に関する業務改善命令を出し、令和6年2月29日に損保会社から業務改善計画書が金融庁に提出された。

提出に関する各社のリリースは以下のとおりである。

・東京海上日動火災保険会社 業務改善計画書の提出について

https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/240229_01.pdf

・三井住友会場火災保険株式会社 業務改善計画書の提出について

https://www.ms-ins.com/news/fy2023/pdf/0229_1.pdf

・損害保険ジャパン株式会社 業務改善計画の提出について

https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2023/20240229_2.pdf?la=ja-JP

・あいおいニッセイ同和損害保険 保険料調整行為に係る業務改善計画書の提出について

https://www.aioinissaydowa.co.jp/corporate/about/news/pdf/2024/news_2024022901279.pdf

2.保険代理店に関する部分は・・

業務改善計画書の提出に関する各社リリースには、代理店に関して、それぞれ「代理店に対する十分な教育」(AD)、「適切な保険引受プロセスの構築」(SJ)といった記載はあるが、具体的対応について指摘しているのは、東京海上の「5.独占禁止法等を遵守するための適切な法令等遵守体制の確立」の(8)記載されている下記部分くらいである。

代理店から、保険会社に他社証券など競争上重要な情報を提供する場合には、契約者の意向を確認する、というルールを策定するというものである。

実際に、同社を含め2社は代理店に対してルール等を案内済みである(執筆時点)。
※業務改善命令が出されていない保険会社の一部も、代理店同種のルールを案内している(追記2024/3)

3.独占禁止法に抵触する行為

金融庁は、「独占禁止法に抵触すると考えられる行為及び同法の趣旨に照らして不適切な行為」として、下記の類型を指摘している。

① 幹事社・シェア等の契約条件について現状維持をしたいと考え、保険料等を調整したもの
② 他社から保険料調整等の打診があり、応じたもの
③ より有利な条件(保険料等)で契約をするために(不利とならない場合を含む)、他社と調整をしたもの
④ 他社水準と大きく乖離した条件を提示することで、他契約(保険契約者や代理店が当該契約と同一)への悪影響を懸念し、他社の保険料等を確認した上で、契約条件を提示したもの
⑤ 代理店から保険料調整等の打診があり、応じたもの

https://www.fsa.go.jp/news/r5/hoken/20231226/20231226.html

しかし、そもそも独占禁止法では具体的に何が禁止されているかから確認していきたい。
今回問題となる保険料調整行為は、独占禁止法第2条6項に規定される不当な取引制限に該当するおそれがある。不当な取引制限とは、いわゆるカルテルである。

独占禁止法
第2条
⑥ この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

要件について補足すると、
「共同して」とは、事業者間同士の「意思の連絡」が存在することであり、契約、協定などが典型例だが、黙示の合意でもよいとされる。
そしてこの意思の連絡は、直接事業者同士で行われる必要はなく、他者を介して間接的に行われる場合(ハブ&スポーク)でもよい。
今回でいうところの保険代理店を介して行う形である。

「相互拘束」とは、事業者間相互に拘束を受ける(意思決定に制約を生じさせ)ことである。

つまり、今回でいうと、保険会社同士が、(代理店を介するなどして)保険料などを確認し、その保険料を調整、決定し(共同して)、契約者に対して調整された保険料の提案内容の意思決定をさせた(相互拘束)行為が、不当な取引制限に該当するおそれがあるということである。

一般的に、カルテルは、商品の価格を不当につり上げると同時に、非効率な企業を温存し、経済を停滞させるために禁止されているとされる。
単に、カルテルの被害者となる契約相手の不利益を防止するのみならず、競争を制限することを防止するためである。

ちなみに、保険会社の保険料調整行為が「商品の価格を不当につり上げ」たという表現に違和感を覚える方も多いと思う。ただ、保険料のさらなる引き下げを阻止するための調整行為などとの報道もあったし、そもそも、価格を調整する行為自体が独占禁止法では禁止されている。

4.保険代理店の問題

保険代理店は、保険会社の「代理」という立場で、保険料を決定することができないため、基本的に保険料の調整に関する不当な取引制限における「事業者」には直接的には該当しないという位置づけになると思うが、保険代理店を介して(が主導して)調整した場合には、事業者(保険会社)の価格調整行為に加担したとして、不当な取引制限における事業者に直接該当しない場合でも非難されるべきであろう。

なお、
・保険代理店が単独(他の代理店とは共同せず)で、保険会社に他社情報などを伝えずに保険料を提示させ、他社の保険料等を伝えずに、保険会社に金額を減額するよう指示(再見積依頼)することが不当な取引制限に該当するおそれがあるのか(いわば代理店一社のみの調整行為であるため不当な取引制限に該当しない以上、それを制限する必要性があるのか)
・保険代理店から保険会社に他社の情報提供する際して、顧客の同意を取れば不当な取引制限にならないのか(不当な取引制限が、単にその取引の顧客の保護のための規制ではないことからすれば、顧客の同意があったとしても、競争を実質的に制限することは考えられるのではないか(特に保険料というものは価格が適正か否か判断しづらい))
等の問題があるのではと考えているが、独占禁止法分野については専門外なので、これから様々見解が出てくるのを期待したい。

そもそも「保険料の調整」というのが、「保険」の仕組みからは少々違和感があるところではある。

また今後、今回の問題を契機として、骨抜きにされているブローカーの制度の変更があるのか、インハウス系を除く代理店に追い風になるのか等も含め、注視していきたい。

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