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【まとめ】長編小説 クイック、フラッシュ&ラウド

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド あらすじ

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド あらすじ

「本当の瞬間を感じたい。ただし努力はしたくない。」

 うだつの上がらない高校生、佐山は同じクラスの橋本と出会い、ザ・フーのババオライリィを聴かされる。

素早い閃光、少し遅れて轟音が鳴り響き、その瞬間に世界は二つに割れた。

 時は90年代半ば、ロンドンはブリットポップの狂騒に沸き、横浜にはコギャルが闊歩していた頃。

佐山と橋本は醜悪な十代の自我をかき消す為にバンドを結成する。

傲岸不遜、ド

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第1章 十代の荒野_3

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第1章 十代の荒野_3

 それから僕らは色々な音楽を聴いた。刺激的なもの、美しいもの、素晴らしいもの、格好いいもの、馬鹿馬鹿しいもの、そしてゴミみたいなものでさえ、それはそれで魅力的だった。
 幸いな事に九十年代中頃は、僕らの前に過去の遺跡が次々と発掘されていった時代だった。オアシスやブラーやストーンローゼスの新譜が発売される一方で、過去の名作がリマスターされて次々とCDで再発されて行く。
 HMVやタワーレコードと言う

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_1

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_1

「何だお前その背中の」
ギターを背負い廊下を歩く僕に山岸先生が声をかけて来た。
「ギターです」
 見りゃわかるだろうとばかりに僕は背中に背負ったフェンダーのギターケースを見せた。橋本とバンドを結成する事を決め、全貯金とおばあちゃんに少し出資してもらい、このフェンダーのジャズマスターを買ったのはもう一年前位になる。
「じゃ、先生さようなら」
面倒な事を言われたく無い僕は早々に立ち去ろうとしたが
「お

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_2

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_2

 片山有紗と吉川弘美が、肩を並べてこちらに向かって歩いてくる。片山は少し茶色がかった肩までの短い髪、吉川は肩甲骨位までの長い黒髪を揺らして。傾いた放課後の日差し浴びて、片山は一際輝いている様に見えた。僕の中で警告音が鳴り響き、混乱が度合いを増す。取り乱してはいけない。勤めて冷静な対応をするように自らに言い聞かせ、深く息を吸い込んだ。
「遂にバンドやるんだね」
そんな僕の心の内を知ってか知らずか、片

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_3

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_3

 橋本が向かった先は校庭を取り囲むように並ぶ運動部の部室棟。その一角にあるラグビー部の部室だった。
 様々な部活のジャージやTシャツが所々に干され、それが砂埃にまみれている。乱雑とした劣悪な環境と、それをものともしない生命力。まるでどこかの国のスラム街の様だ。
 落書きと傷だらけの薄汚いドアを開けると、目当ての高田が折良くソファに座り踏ん反り返っていた。

「なんだお前ら、何しに来た。」
百キロに

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_4

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_4

 シナリオ通りに目的を達成して鼻歌混じりに歩く橋本を横目で見ながらも、なんだか腑に落ちない。吉川と仲良くなる事を餌に高田をバンドに引き入れようとする橋本の作戦は充分理解できた。だが、何故よりによって高田でなければならないのかは依然謎のままだった。

「なぁ何で高田なんだよ」
僕は率直に疑問を投げかけた。
「え?だってドラムとキャッチャーは太ってる方がいいだろ?基本だぞ」
「あとは?」
「あとは?な

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_5

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_5

 野球部の部室は、校庭を挟み、ラグビー部とは反対側にある。校庭では、キン!と金属バットの澄んだ音が響き、既に新体制となった後輩達が元気に声を上げている。ノックもせず開けた部室のドアから中を見渡す。夕日は校舎に遮られ、部屋内は薄暗い。後輩達の汗臭い制服と野球用具が乱雑に置かれているばかりで誰の姿も見えなかった。

「山内は引退したんだから部室にいる訳ないだろ」僕は片隅に転がっていた野球ボールを拾いな

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_6

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_6

「山内お前何にも頼まないのか?」
話をしようと誘い、学校の近くの馴染みの蕎麦屋「ほりやま」に入ったが、山内はメニューを見ようともしないでぼんやりと厨房を見つめている。
「元気出せよほら、なんでも好きなもの食べろ。佐山の奢りだってよ」
「阿呆か、俺八百円しか持ってないぞ」
そんな定番のやり取りを見て山内は、ハハっと乾いた愛想笑いを浮かべたあと俯いて
「俺、板わさで。」
と蚊の鳴くような声で言った。

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_7

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第2章 ブラー、板わさ、レディオヘッド_7

 すっかり日が暮れた横浜の街を駅までプラプラと歩く。居酒屋、個室ビデオ、キャバクラ、風俗、いつのまにか看板に明々と火が灯っている。昼間の薄汚いだけの街並みと違い、猥雑な雰囲気が徐々に満ち始めて来ている。良くこんな所に高校を建てたものだと生徒ながらに呆れるが、もうすっかり慣れてしまった下校風景である。
「本当にこんなんでいいのかなー」
橋本の主導によりあっと言う間に決まってしまったメンバーについてで

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_1

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_1

「バンド名どうすんだよ」
ドラムのスツールに踏ん反り返って座りながら、高田が腕組みをしている。まだドラムを始めて二カ月も経っていないのに、既に雰囲気だけは重鎮の様だ。
「バンド名とか言ってる場合じゃねぇだろ。お前本当に練習して来たのか?」
素人揃いのメンバーの中でも、この男が一番不安だった。
「したよ。家でジャンプとマガジン叩いて。もう完璧だよ」
そう言い切ると高田はドカドカとドラムを乱雑に叩いて

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_2

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_2

「バンド名どうすんだよ」

「お前それしか言わないな…」

スタジオを終え、僕らは横浜駅前のマクドナルドに入った。四人掛けの席に五人の男と三本の楽器がひしめき合って肩を寄せるように座る。あれから時間の許す限り何度も曲をみんなで合わせた。出し尽くした疲労感が心地よく身体に残り、僕の喉はガラガラに枯れていた。

高田を無視してポテトを食べながらふと山内の頭髪に目が向いた。

「山内、お前髪伸びたな…」

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_3

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_3

我がウェイストランドボーイズの音楽性は、七十年代のパンクやネオモッズ、六十年代のモッズ、ビートバンド辺りが主体である。
また、ゆくゆくはスタックスやモータウンなどの六十年代のブラックミュージックも視野に入れて行きたい。と思っているのは僕と橋本だけだった。

吉川にモテたいがためだけに、ドラムを始めた高田

甲子園の夢破れた後の、心の隙間を埋める何かが欲しい山内

特に強い主義主張は無く、ただ付き

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_4

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_4

「あの奇怪な集団は何だと思う?」
練習の後僕らはいつもの「ほりうち」に入り蕎麦を食べていた。僕がみんなに聞きたかったのはさっきの桜井の事だ。

「トチ狂ったとしか思えんな。小太り三兄弟とバンドを組むなんて生き恥もいいとこだろ」と高田。
「小太りって、お前自分の事棚に上げてるな」
横から茶々を入れた山内の頭髪を一瞥し、高田は
「俺は中途半端が一番嫌いなんだ。太るなら徹底的に肥るし、禿げるなら坊主にす

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長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第4章 佐山稲荷_1

長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第4章 佐山稲荷_1

 高校最後の夏休み。桜井と小太り三兄弟を仮想敵とした事により、練習にも一層熱が入った僕らだった。しかし、金が底をつきかけていた。金をかけずに心ゆく迄音を鳴らす事のできる場所を僕らは欲していた。

 その悩みは程なく青山が解決してくれた。地元の保土ヶ谷に格安の練習場所を見つけてくれたのだ。
 そこは町内会館みたいな所ではあったが、パールのドラムセットと簡易アンプがあり、ヤマハの十六チャンネルのミキサ

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