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情景97.「半透明でおぼろげな」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から半透明でおぼろげなです。

窓ガラスごしに眺める景色。
窓ガラスが反射して映し出すもの。
重なったときに生まれる情景のこと。

ずいぶんと静かな情景です。
雨が降る日にそれを眺めていただけの、それだけの情景を書き出しています。
ただ、個人的にはかなりお気に入りの情景。

この「半透明でおぼろげな」は、雨が街を潤す景色を眺める、というシーンを描いてみたくて書いたものです。
そうして過ごす時間の、静かでゆったりとしたありようを感じていただきたく、音が伝わってこない様子や、揺り椅子といった仕掛けを添えました。このあたりはいい感じに作用しているのかなと思います。

また、そうした情景の主題とは別のところで、この情景にはひとつの「手本」があり、そのお手本が使う表現を自分の情景力(?)にも取り入れたいと思い、習作的に書き出してみた側面もあるのです。

そのお手本がまさにこの情景の題である「半透明でおぼろげな」の部分にかかってきます。

以下、引用です。
とても流麗な情景の記述で、読んでいてありありとイメージが浮かんできたことから、ぜひとも自分の文章にも取り入れたいと思ったのを覚えています。

 鏡の底には夕景色が流れていて、つまり写るものと写す鏡とが、映画の二重写しのように動くのだった。登場人物と背景とはなんのかかわりもないのだった。しかも人物は透明のはかなさで、風景は夕闇のおぼろな流れで、その二つが融け合いながらこの世ならぬ象徴の世界を描いていた。殊に娘の顔のただなかに野山のともし火がともった時には、島村はなんともいえぬ美しさに胸が顫えたほどだった。

川端康成『雪国』

シーンは違いますが、窓ガラスごしに見える景色と半透明に映る自分とが、とけあうように映し出される情景の書きぶりが見事だと思いませんか。

こうした筆致(私は“書きぶり”とよく言いますが)に感動して、自分もやってみたいと思い、試行錯誤しています。

“透明のはかなさで、”という言い回しがとても瑞々しいんですよね。

ともあれ。
半透明でおぼろげな情景。
お楽しみください。


あなたが見た情景』は、目の前の景色を眺めるように情景を思い描ける、ちょっとしたお話のあつまりです。

どこからでも何話からでも好きなところから読みはじめて大丈夫。
気になったタイトルをひらいてみてください。



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