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じんのひろあき一人芝居 我々もまた世界の中心

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記事一覧

じんのひろあき短編戯曲集 『身代金』

  鮫島の妻は長女で、その下に二人妹がいる。
  この話は、その長女と次女の物語である。
  場所はベビーホテルのある街道沿いの狭いビルの中。
「誘拐ねえ…考え過ぎじゃないの?
  お父さんと雅人誘拐して、どうなるってもんでもないでしょう?
 ボケて孫連れてどっかいってんじゃないの?
 真剣に考えてるわよ…
 人の親じゃないんだし…
 ずっとアッコ姉さんに押しつけっ放しにしてたのも悪いと思ってる

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じんのひろあき短編戯曲集 『禁じられた遊び』

  河原。
  今からサバイバルゲームが始まろうとしている。
  その説明をしている男。
  男は戦闘服を着ていて、頭にゴーグルをつけている。
  周りにはふたつのチーム合わせて十数人がいるらしい。
「静かにしろ…おい…まずはルールを説明する。象さんチームと熊さんチームのふた組に分かれたな…自分がどっちの組にいるかわからないものいるか? いないな…」
  と、遠くの奴に。
「おい…話し聞いてろよ…

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じんのひろあき短編戯曲集 『渇いた宇宙』

  性病科の待合室に、ハンカチを振りながら入って来る男。
「当たりだよ…当たっちゃったよ…」
  と、その病院の待合室のベンチに腰をかける。
「淋病だって…」
  間。
「参ったな…だって…淋病なんて、俺もうこの世から絶滅してるものだと思ってたよ…
 (小声で)性病だよ…
 なんで俺だけこうなっちゃうの?
 次、芳秀だよ…」
  と、その芳秀が診察室に入っていくのを促す。
「(芳秀に)怖くない、怖

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じんのひろあき短編戯曲集 『彼女の想い出』

  『さよならQ2』の電話から一週間。
  この話は同じ部屋が舞台である。
  『さよならQ2』の主人公の姿は家財道具と共にすでにない…
  そこに入って来る虎の子引っ越しセンターの人。
  この引っ越しは二人一組でやっていて、もうひとりは学生である武井君である。
「失礼しま~す、虎の子引っ越しセンターです…」
  と、部屋の中を見回すが誰もいない。
「誰もいませんが…(と、後ろにいる武井君に)一

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じんのひろあき短編戯曲集 『胃カメラ』

  SM倶楽部『女王の館』控え室。
  麗明女王様とお話ししている、阿部毬亜女王様。
「おなか?
 すいた、すいた…
 すいたんだけど…
 麗明女王様、出前取るの?
 出前か…なに取るの?
 あ…ピザピザのピザか…
 好きだね…
 麗明さん、ピザ。
 私? うん、おなかはすいてるんだけど…
 今、モノ食べて大丈夫かな…
 ああ、うん? なんかチクチク痛むんだよね…]
 おなか押えて。
 ストレスか

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じんのひろあき短編戯曲集 『非常階段』

  そこは雑居ビルの非常階段。
  かなり高い場所。
  このビルに奴隷本舗があり、今この踊り場に出て来ているのが、その受付をやっている、熊谷陽子。
  彼女は這いずり回るようにして、コンタクトを探している。
  と、その隣にいるのは森山君。まみりんの旦那。
「森山君…気をつけてね…
 踏みつぶしたりしないでよ…
 コンタクトって高いんだから…
 ここだよ…絶対ここで落としたんだから…
 森山君が

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じんのひろあき短編戯曲集 『奴隷本舗』

  鮫島、自分でパイプ椅子を持って来て、開くとそこに座る。
「はい、はいはいはい…
 ごめんなさいね、お待たせしちゃって…
 ええ…
 私がSM小物通販専門店『奴隷本舗』で営業と経理やっております、鮫島と申します…」
  と、客が名刺を出そうとしたらしい。
「あ…
 いいですよ、いいですよ…
 (と、一応断るが、受け取ってしまう)あ…
 そうですか…はいはい…へえ…こういう事のために…オーダーメイ

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連作一人芝居『我々もまた世界の中心』 『金閣寺再炎上』

  6つになる孫の雅人を連れた鮫島勝彦が来る。
「どうした…疲れたか? 雅人…もう少しだよ…
 本当だよ…本当、本当…
 ほうら…見えるかい…な…あれが金閣寺だよ…綺麗だろう?
 この金閣寺っていうのはな…足利義満が1398年、今から…約600年前に、舎利殿として建てたものなんだよ…舎利殿っていうのはね、仏舎利といって、仏様の骨をまつる仏堂なんだけど…この金閣はそれだけじゃなくって、池の景色を引き

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連作一人芝居『我々もまた世界の中心』『セイタカアワダチソウ』

  埋立地に近いマンションの一室。
  今、コンビニから帰って来た金井景子が、家で待っていた氏家真知子に。
「マチコ、お待たせ…どう? かかって来た? 無言電話」
  まだといわれた。
「そお? おかしいなあ…うん、この時間特に多いんだよね…電話鳴るでしょ、取るでしょ、なにも言わないでしょ、受話器置くでしょ、すぐ鳴るの…
 すぐだよ、本当に(と、受話器を置いて)これで鳴っちゃうの……
 オートリダ

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連作一人芝居『我々もまた世界の中心』『カッコーの巣』

  大成ゼミナールの職員室。
  夜10時前。
  1日の全ての授業が終わって、各クラスから先生が引き上げて来ている。
  やがて中野優もこの部屋に入って来る。が、体半分はまだ廊下に出たまま。
「気をつけて帰れよ…はい、さよなら、はい、はい、さよなら…
 こら、タコ村、早く家帰って勉強しろよ!」
  と、そのタコ村に向かって。
「タコ村!
 お前、寺井とつき合うな…
 おまえら一緒にいても、成長は

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連作一人芝居『我々もまた世界の中心』『灰は灰に』

  それほど高所にはないマンションの一室。
  庄野久(14)の勉強部屋。
  今、梨本慎吾(22)が家庭教師に来ている。
  昼下がり。
  後ろには何らかの遮蔽物が置いてあり、後でわかるがその後ろに天体望遠鏡が置いてある。
  梨本は久の横で漫画の本を読んでいる。
  時々、隣で勉強している久の方を見る。やがて。
「できた?」
  しかし、返事はない。梨本、久の顔をのぞき込む。
「できた? 

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連作一人芝居『我々もまた世界の中心』『シオマネキ』

  ここはとあるシティホテルの一室。
  今、エッチが終わって、服を着ている所の甲田晶子。
  客は重田利克、シオマネキに似た男。
  重田が『いくらだっけ?』と聞いて来た。
「ええっと…聞いてないんですけど…
 梶原さん?
 聞いてませんけど…
 梶原さんって…
 ああ、あの電話の人ですか…
 あの人に言われて、ここに来たんですけど…紅いバックとか急に言われたんで焦っちゃいましたよ…
交渉して決

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じんのひろあき作 短編一人芝居『我々もまた世界の中心』とは?

 この『我々もまた世界の中心』というのは、連係一人芝居です。
 短い一人芝居が延々繋がっているいるものです。
 基本、舞台に装置はいりません。
 役者がいて話によって何かしらの小道具が必要にはなりますが、使うのはその程度の物です。
 Aという人の一人芝居があって、当然舞台にはAという人しか出てないわけですけど、その人がBという人と話している芝居をします。
 すると、次の一人芝居は、そのBという人が

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連作一人芝居『我々もまた世界の中心』アスファルトの河

『アスファルトの河』
  交通量調査をしている今野通雄。
  その右に藤井さんがいる。
「藤井さん…あの犬、また帰ってきましたよ…ああ…尻尾振ってるよ…嬉しいのかな…か
まってもらって…
 飼い犬かな…野良犬って事はないですよね……こんな駅の近所で…ずっといますね…ここにこの三日間…動物ですか?
 ええ…ええ……嫌いですよ…
 おお! おお! おおっ! なんか…人がくしゃみする瞬間って、緊張しちゃ

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