じんのひろあき短編戯曲集 『禁じられた遊び』


  河原。
  今からサバイバルゲームが始まろうとしている。
  その説明をしている男。
  男は戦闘服を着ていて、頭にゴーグルをつけている。
  周りにはふたつのチーム合わせて十数人がいるらしい。
「静かにしろ…おい…まずはルールを説明する。象さんチームと熊さんチームのふた組に分かれたな…自分がどっちの組にいるかわからないものいるか? いないな…」
  と、遠くの奴に。
「おい…話し聞いてろよ…
 なんだ今の銃声は…
 まだ戦闘は始まってないぞ…
 むやみに撃つな…
 これが戦場だったら、すぐに位置がバレてしまうぞ…
 いいか、ここはもう戦場なんだ…
 君達は選ばれた兵士なんだ…
 という気持ちで参加しないと、おもしろくないからな…
 どこまで話したっけ…
 これで、一定時間内に、相手の陣地内にある旗を取るか、相手のチームを全滅させるか、もしくは時間切れの場合、生き残ったものが多い方が、勝ちである…」
  と、質問と手を上げたやつがいる。
「うん!
 なんだ?
 撃たれたかどうかは、本人の自己申告である。
 よく明らかに撃たれているのに、死なないで特攻して来る奴がいるが、そういう奴は、友達をなくすから、くれぐれも注意するように…
 よーし、じゃあ…一回戦目を始めることにする。
 くまさんチーム散開!
 我々ぞうさんチームはここを陣地とする」
  ひときわ大きな声で。
「始め!」
  と、そこで戦闘状態になる一同。
  身を伏せて機敏な動き。
  そして、ある方向を見て。
「ああ…
 始まった、始まった!
 派手に撃ち合ってるな…何か妙にリアルじゃないか…この銃声…
(側にいる奴に)なあ…改造したのかな…こういう音が出るように…」
  と、ある方向を示して。
「そっちの丘の向こうから奇襲されないように、一人ついてろ。
 あ!
 今…(宙を指さし)ここ、なにか通らなかったか? 
 聞こえたよな…
 実弾じゃないか?
 いや、そうだよ…絶対そうだよ…
 今ここ、実弾が通っていったよな…
 ビュン!
 って…
 何?
 実弾撃ったことないからわかんない?
 …こういうゲームやるんだったら一回撃っといた方がいいぞ…
 ハワイでもグアムでもフィリピンでも韓国でも…」
  と、ここで、丘の向こうまで見に行く。
「この丘を超えさせはしないぞ…
 ここの手前でみんな殺してやるからな…」
  と、丘の向こうを見て、仲間を呼ぶ。
「おい! おい! 見ろ、あそこの銃を持った奴等…
 なんだ?
 違うよ…
 手前のくまさんチームじゃないよ…
 ほら…向こうの…
 ほら、三人…
 いや…四人の男を集団で追いつめて…
 あ!
 ひとり倒れた…
 少数派の方も応戦してる…
 実弾じゃないか?
 あの銃…
 違うよ…サバイバルゲームやってんじゃないよ…あれは…
 あの手前のくまさんチームの奴等は気がつかないのかな…
 自分達のちょっと向こうで、銃撃戦やってるのを…
 伏せろ!
 伏せてろ!
 こっちに気づかれる…」
  と、丘の更に向こうに女の死体を発見する。
「おーい、ここで人が死んでるぞ。
 なんだこれは…若い女が死んでるぞ…
 いや、撃たれたんじゃなくって…
(と、見て)いや、撃たれてるんだけど…
 胸を一発…
 すごいな…
 一発で急所を…
 女だ女、若い女だよ…
 どうする?
 おい、山崎、お前レフリーのとこいって、戦闘中止だって言って来い…
 死体が見つかったって…
 このあたり一帯ただならぬ事が起きてるって…」
  と、女の死体に触ろうとして、仲間に怒られた。
「そうか…
 そうだよな…
 警察が来るまで、現場を保存しておかなきゃなんないんだよな…
 (と、山崎に向かって)ちょっと待て、ちょっと待て!
 動くな…まだ敵は近くにいるぞ…
 違う、ビビってんじゃない…
 俺はお前、ハワイで1万発の実射経験があるんだぞ…オートマグだって撃った事あるんだぞ…ってこの話前にしたよな…
 信じろよ、俺の話を…
 よし、じゃあ市川、お前が行けよ…
 お前がレフリーのとこいって、警察に連絡すればいいだろ…
 ここを出たとたんに、ズキュン!
 って撃たれるのは目に見えてるんだからな…」
  と、サバイバルゲームの撃ち合いの音がしたらしい。
「うん!
 銃声か!
 いや、あれはくまさんチームのガスガンの音だよ…
 実弾じゃないよ…
 あいつら、気づいてないのかな…
 モノホンの銃を持った奴等が、この河原にいるっていうのに…
 ノンキにガスガンで撃ち合いしやがって…
 あのさっきの集団…
 こっちに向かって来るってことないよな…
 向こう行ってたもんな…
 いや、油断は禁物だよ」
  と、別の方角を見る。
「おい!
 あっちにもいるぞ!
 ほら…あっちの連中は…向こうに向かってく!
 何が起こってるんだ?」
 と、仲間のひとりが丘の向こうの女の死体を見て。
「なに?
 危ないぞ…常に頭は守っていろ!
 どうした?
 なに?
 日本の女じゃない?」
  と、自分も見に行く。
「うん…
 日本人じゃないな…
 東南アジアか…
 辛島さんに聞くのが一番早いけど…あの人よく銃を撃ちに行くとかいって、悪さばっかりしてる人だから、すぐに見当がつくよ…
 しかし、こんな時に限って、どうして辛島さんはくまさんチームなんだ?
 だって、だってよ…
 俺達こんな格好してんだぜ…
 銃だって持ってるんだぜ!
 エアガンだけど…武装解除か…
 ここで待っていれば、くまさんチームが旗を取りにやって来るから…その時相談しよう…
 いや、旗を取りにやって来るといったんだ…
 囮に来るといったんじゃないんだ…
 …くまさんチームが皆殺しにあっていたら?
 くまさんチームの辛島さんはな…日本サバイバルゲーム協会の副会長なんだよ…
 簡単には、やられないはずなんだよ…
 腹黒い人だから、味方が自分以外全滅しても、自分だけは絶対生き残る…
 そんな人だよ…
 俺と本田さんは今まで十八回戦ってきたけど、今九対九なんだよ…」
  女をまた見に行って。
「若いな…でもアジアの人って年齢不詳だからな…
 (と、同じく覗き込んでいる山崎に)幾つに見える?
 十六?
 俺は、十四ぐらいに見えるな…
 十四の女の子が、なんでこんな所で射殺されなきゃなんないんだ?
 日本まで来て、こんな河原で、胸撃ち抜かれて…
 レフリー? いいよ呼びにいかなくったって…
 時間になったら呼びに来るよ…
 そん時まで、動かない方が賢明じゃないか?
 ああ…
 ああ…
 レフリーがこっちに向かって来る時に、撃ち殺される可能性だってあるよ
 …でも自分が出てって死ぬよりいいだろ…
 なあ…
 何を言われてもいい…
 生き残った者が正義だぞ…」
  と、ここでまた銃声がした。
「今の?
 今の銃声か?
 今のはどっちだった?
 ガスガンか?
 実弾か?
 わかんなかった…
 わかんなかったよ…
 俺とした事が…
(しみじみ)ああ…
 戦場だったら、死んでたかもしれないな…
 今の気持ち…
 落合信彦だったら、何て書くかな…
 (余り大きな声ではなく)みんな…
 みんな…
 ちょっと集まってくれ…」
  と、みんなを集める。車座になったよう。
「みんな…よく聞いてくれ、我々ぞうさんチームは今、戦場の真っ只中にいる。
 サバイバルゲームの戦場ではない。
 本物の戦闘が行われている戦場だ…殺し合いが行われている戦場だ…
 戦争が始まったんだ…
 いや、そういう事じゃないんだ…
 もとソ連が日本に攻めてきたとか、アメリカとリターンマッチするとかそう言う事じゃないんだ…
 もっと別の意味の戦争が始まりつつあるんだ」
  と、ここで、またガスガンの銃声がした。
「おっ! 村田が撃たれたな…
 ガスガンで撃たれたんだよ…
 あいつ撃たれたらすぐ死ねばいいものを、うわぁ!
 とか、ギャアァァ!
 とか言いながら死ぬからすぐわかるよ…
(しみじみ)そうだよ…
 戦争が始まったんだよ…
 俺達の良く知らない国の奴等が、俺達の国で、戦争を始めたんだよ…
確かに、戦場でこんな格好している俺達は、いつ撃ち殺されても文句は言えないな…
 しかも、こんな精巧なウッズマンとイングラムまで持って…
 これ、ちょっと遠くから見たら、本物に見えるよな…
 MGMの技術が裏目に出るというか…
 どうする、みんな一応銃を捨てて、戦闘の意思がない事を、わからせた方がいいんじゃないか?
 いや、俺達を狙っているんじゃないにしてもだよ…
 だって、お前がもし戦場にいて、任務を遂行している時に、ウッズマンとイングラムを持った奴がその辺にいたらどうする?
 迷わず撃ち殺すだろう?
 俺達、迷わず撃ち殺されるよ…
 なんで嫌なんだ…
 捨てろよ…
 モデルガンじゃないか…
 ガスガンじゃないか…
 私の心ですって、なに訳わからない事いってんだよ…
 武士は刀を捨てたりはしないかもしれないけどな…お前、いつの時代を生きてるんだよ…
 侍の刀とは違うだろ、モデルガンは…
 市川、山崎、どこ行くんだ…
 モデルガンと心中する気か?
(なだめるように)意地になるなよ…
 流れ弾だけ気をつけて生きていればいいんだよ…人生
 …そうだよ、俺はそうやって生きてきたよ…
 おーい、それでも行くか!」
  去って行くその背に…
「わかっているのか!
 ああ!
 もし、レフリーかくまさんチームに会ったら、助けてくれって、俺が言ってたと伝えてくれ…
 頼んだぞ!
 俺達の国が戦争を始めたんじゃないんだよ…
 俺達の国で戦争が始まったんだよ…
 おい…
 どうする…
 この女の子の死体は…
 犯人なんてわかんないよ…
 戦争で死んでるんだよ…
 犯人なんて…
 みんなが犯人だよ…
 埋めてやろうか…
 せめて…俺達ここを動けそうもないし…
 そうしようよ…墓でも作ってやろうよ…
 スコップ?
 ないよ、そんな物…
 手で掘るんだよ…
 死体遺棄?
  ばか、人が死んでんのに、ほっぽらかしとく方が、死体遺棄じゃないのか…
 嫌だったらいいよ…俺ひとりでやるから…」
  と、手伝うと言ったらしい。
「ああ…じゃあ…そっちっから掘ってくれよ…
 墓掘るなんてな…」
  と、墓の上を示し。
「ここに十字架立てるか…
 禁じられた遊びみたいだよな…
 知らねえか…若い奴は…
 こんな国でも、眠れるといいな…安らかに…」
  しばらく墓を掘り続けている。
  やがて。
  暗転。


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