じんのひろあき

自主映画を制作中『カメラを止めるな』の1/3の予算で110分の長編。七つの短編演劇を組…

じんのひろあき

自主映画を制作中『カメラを止めるな』の1/3の予算で110分の長編。七つの短編演劇を組み合わせたかわいい女子ばかりが出演している。ビックコミックスピリッツで漫画の原作をやったり、ゲーム『シェンムー』のモーションキャプチャリングディレクターをやったり脚本賞も多数

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じんのひろあき短編戯曲集 『失踪』

  明転すると役所の『すぐやる課』の部屋。   デスクに座っている新。   その前で直立不動の龍之介。 新「ねえ、柳沢君」 龍之介「はい」 新「そもそも…すぐやる課のモットーってのがあるでしょう」 龍之介「すぐやる課のモットー」 新「あるでしょう」 龍之介「あります」 新「なんなの? すぐやる課のモットーって?」 龍之介「すぐにやらなければならないことは、すぐにやります。市民相談室、すぐやる課です」   言いきってちょっとほっとしている龍之介。 新「で、ね、柳沢君」 龍之介「

    • じんのひろあき短編戯曲集 『お天気お姉さん』

        明転すると、そこは町田海(22)ちゃんの部屋。   カンちゃんと一緒にテレビを見ている。   テレビにはお天気お姉さんをやっている海ちゃんが映っている(らしい)。 海ちゃんの声「今日は西日本から天気が崩れ始め、夜半には東海地方で豪雨が予想されます…」 カン「あ、これ見た」 海「これも見たの?」 カン「見た見た…この服見覚えがあるもん」 海「このスカート、すごくかわいいんだよ」 カン「(と、画面を示して)これでしょ…かわいいよねえ」 海「かわいいよねえ、私」 カン「これなに

      • じんのひろあき短編戯曲集 『有吉慎太郎』

          明転するとそこは老人介護のセミナー会場。   龍之介(36)とすみれ(48)が並べられたパイプ椅子に並んで座っている。   マイクを使った講師の声が聞こえている。   二人、それを聞きながらメモを取り、しきりに頷いたりしている。 講師の声「例えば、ご飯を炊こうとして炊飯器のスイッチのどこを押すのかわからなくなるのが、いわゆる物忘れというもので、ご飯を炊こうといて炊飯器ではなくガスレンジに入れてしまう、ご飯はどうやって炊くものなのかがわからなくなっている、これが認知症、ボケ

        • じんのひろあき短編戯曲集 『速読教室、夜間の部』

            明転すると、長机が二つ並んでいてパイプ椅子に座った男二人が猛烈な勢いでマンガの本のページをめくっている。   猿渡快(さるわたりゆかし)と工藤慎一。   二人あっという間に本を読み終えた。   そして、同時に本を置た。   バン!   工藤「いいわ!」 潔「いいですね」 工藤「いやぁいいわ」 潔「いいよねぇ」 工藤「いいわ」 潔「本当、いい」 工藤「ん…いいですね」 潔「ねえ」 工藤「ねええ」 潔「いい本、勧めてもらって…」 工藤「いや僕の方こそ」 潔「『サンクチュアリ』

        じんのひろあき短編戯曲集 『失踪』

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        • じんのひろあき短編演劇戯曲集
          54本
        • その他のいろいろ AllThatJazz
          2本
        • じんのひろあき普通の長編戯曲集
          3本
        • 朗読劇ファンレターズ戯曲
          9本
        • 高円寺の香港TOY
          1本
        • じんのひろあき一人芝居 我々もまた世界の中心
          14本

        記事

          じんのひろあき短編戯曲集 『身代金』

            鮫島の妻は長女で、その下に二人妹がいる。   この話は、その長女と次女の物語である。   場所はベビーホテルのある街道沿いの狭いビルの中。 「誘拐ねえ…考え過ぎじゃないの?   お父さんと雅人誘拐して、どうなるってもんでもないでしょう?  ボケて孫連れてどっかいってんじゃないの?  真剣に考えてるわよ…  人の親じゃないんだし…  ずっとアッコ姉さんに押しつけっ放しにしてたのも悪いと思ってるわよ…  でもしょうがないじゃない…  家(うち)来たって、毎晩毎晩十五、六人の

          じんのひろあき短編戯曲集 『身代金』

          じんのひろあき短編戯曲集 『驟雨奔雷』

            暗転中に大雨の音がフェードインしてく  る。   風も吹いている。   明転。   温泉旅館の一室。   浴衣姿の初美と龍之介がいる。 初美「すっげえ降ってきた」 龍之介「ああ、ねえ…これはね…来るね」 初美「来るって?」   と、大音響の落雷。 初美「ぎゃあ!」 龍之介「雷…来るよ」 初美「早く言ってよ」 龍之介「わかるだろう、こんな雨降ってて、これは来るかなって言ったら、そりゃ雷だろ。なにが来るのよ、鴨でも来るの?」 初美「鴨?」 龍之介「鴨がネギしょってくるの?」

          じんのひろあき短編戯曲集 『驟雨奔雷』

          じんのひろあき短編戯曲集 『It's a small world』

            公園のベンチ。   若いママの未知が座っている。   前に双子ちゃんの乗っているベビー   カー。   そのベビーカーを覗き込んでいる加寿子。   彼女の傍らにもベビーカー。   ゼロ歳児の真理奈ちゃんが乗っている。   加寿子は双子のベビーカーを覗き込んでいる。   明転。 加寿子「健ちゃーん、康ちゃーん…こんにちはー!」 未知「(健と康に)ほら、こんにちは…は?こんにちはぁって…言ってみ…」 加寿子「こんにちはぁ…」 未知「こんにちはぁ」 加寿子「(健と康に)そっくり

          じんのひろあき短編戯曲集 『It's a small world』

          じんのひろあき短編戯曲集 『どうにか・したい』

            明転。   居酒屋。   津村が生中を目の前にして、ぶつぶつ言っている。 津村「はあ……二十分だよ…マジかよ…ほんと来ねえな…え? なんでだ? なんで俺、一人で飲んでんだよ…ふう…落ちてるなあ、落ちてんなあ…落ちてる、落ちてる」   と、やって来る吉野。 吉野「津村さん」 津村「おお!」 吉野「遅くなりました」 津村「遅いよ、遅い、遅い。…」 吉野「すいません、どうも」 津村「お疲れ…お疲れ」 吉野「津村さん、また急に呼び出すから」 津村「ごめんね、ほんとごめんね」 吉野

          じんのひろあき短編戯曲集 『どうにか・したい』

          じんのひろあき短編戯曲集 『どっちにするの』

            拓弥の部屋。   拓弥と咲美がだらだらといる。 咲美「暑い……暑い…暑いよお…クーラー…」 拓弥「ついてます」 咲美「涼しくなんないよ」 拓弥「壊れてるからです」 咲美「暑い…暑いよお」 拓弥「クーラーが壊れているからです」 咲美「暑いよお」 拓弥「暑いねえ」 咲美「溶けちゃう…」 拓弥「うん…溶けちゃうねえ」 咲美「なにか涼しいこと言って」 拓弥「涼しいこと?」 咲美「涼しいこと」 拓弥「氷河期」 咲美「ああ……ダメ」 拓弥「ダメって」 咲美「扇風機…」 拓弥「氷河期の

          じんのひろあき短編戯曲集 『どっちにするの』

          じんのひろあき未映画化脚本『ミミカ』

          『ミミカ』脚本じんのひろあき  1985/07/07 脱稿  これは元の劇映画用の脚本を朗読劇として上演できるように、やや小説風に書き換えたものです。25歳の時に執筆しました。 ●黒地に   字幕が上がっていく。   その字幕にはこう書かれている。 「ミミカという名前の女の子が芸能界にデビュ-して、11か月が過ぎた。ミミカはまたたくまにメディアに露出して行った、通称-アイドルロイドの一人である。このアイドルロイドの一群が出現して、ビジュアル、オ-ディオ、出版業界は一変した。

          じんのひろあき未映画化脚本『ミミカ』

          『深海で聴くリリーマルレーン』

          『深海で聴くリリーマルレーン』  作 じんのひろあき  注 この公演は阿佐ヶ谷のザムザという劇場で初演されたが、劇場を縦に使った。  舞台として使われる下手(しもて)から客席の下手(下手)までがすべて客席で、舞台の上手(かみて)客席の上手(上手)までが客席。お客さんが劇場に入る入り口も舞台装置として使用した。  よって通常の上手(かみて)は通常の客席部分も舞台装置として使い、そこで演技がなされた。  登場人物 御手洗善嗣  (職員。大輝くんのお父さん) 富良野愛  

          『深海で聴くリリーマルレーン』

          『自由を我らに』当日パンフレットご挨拶

           十八年前の『自由を我らに』初演の時、カーテンコールが終わって袖にはけてきた役者達が口々に「今日はすごく芝居のテンポがよかったよね、いつもより早かったよね、さくさく行ったよね」と、興奮していた。  当たり前だ、台本を14ページもすっとばしていたからだ。  笑い事ではなく一幕物、出ずっぱり芝居の恐ろしいところである。  客席の明かりが落ち明転したらもう誰にも止められない。  脚本を書いた人間、演出した人間なんて、始まってしまった芝居の前では本当に無力だ。  できることといえば祈

          『自由を我らに』当日パンフレットご挨拶

          じんのひろあき普通の長編戯曲『自由を我らに』

          『自由を我らに』2009VER.  作・じんのひろあき  登場人物  北川 政府役人 代表  最所 政府役人  佐藤 政府役人  大出 小説家  芹沢 特攻帰りの小説家  福島 売れっ子女流作家  江原 売れてない女流作家  種子 劇作家  井上 随筆家  小山 歌人  豊島 推理小説家  塚原 新聞記者  白井 広告文案家   客入れ。   性能の良くないラジオから聞こえてくる、終戦直後あたりに流行ったアメリカのポップス。レコードの状態が良くないのか耳障りなぱちぱ

          じんのひろあき普通の長編戯曲『自由を我らに』

          じんのひろあき戯曲『努力しないで出世する方法』劇団解決パンダース用上演台本

          『努力しないで出世する方法』   作 じんのひろあき ■登場人物   越谷一哉     地鳴景太     三橋しのぶ     六谷丈博     加宮元  カミヤ     結城杏子 キョウコ     近藤沙也加 サヤカ    永山加寿子 カズコ     和里田洋 ワリ      上米波留季 ハルキ     種田省次  ショウ   久保田哀 アイ   金井瑠羅々      美津島千鳥   守本光太郎   明かりがつくと、都内某所にある貸し稽古場。   一時間千二百円くらい

          じんのひろあき戯曲『努力しないで出世する方法』劇団解決パンダース用上演台本

          朗読劇二人芝居『ファンレターズ』矢野優子5通目

          矢野優子「ティーンズハート編集部、滝田様。 殺してやる。 おまえを殺す。 必ず殺す。 ブチ殺してやる。 串刺しにしてやる。 だが、その前におまえの大事な人を誘拐してやる。そして、おまえの家に電話だ。 身代金の要求だよ。 それは絶対におまえなんかが払える金額じゃない。 おまえみたいな生まれの卑しい貧乏人が一生かかったって払い切れる金額じゃないんだ。 おまえは自分の力のなさに涙するんだ。 だが、おまえがどんなに嘆き、悲しもうが、おまえの大事な人は生きて帰ってはこないんだよ。 私が

          朗読劇二人芝居『ファンレターズ』矢野優子5通目

          朗読劇二人芝居『ファンレターズ』 夢野愛4通目

          夢野愛「ファックス送信表。永幸出版㈱、ティーンズハート編集部滝田様。 あとがき原稿を含めて二枚。いつもお世話になっております。 例の矢野優子ですが、私が滝田さんに送ったメール、並びに滝田さんが私に送ったメールの返事、そしてこのような原稿を含むファックスでのやりとり、全て矢野優子に読まれています。 すみません。 しかも、矢野優子は私が出した燃えるゴミを家に持ち帰って、全部中の物を読んでいるようです。 それしか考えられません。これは犯罪にならないのでしょうか? 矢野優子は私たちの

          朗読劇二人芝居『ファンレターズ』 夢野愛4通目