連作一人芝居『我々もまた世界の中心』『シオマネキ』

  ここはとあるシティホテルの一室。
  今、エッチが終わって、服を着ている所の甲田晶子。
  客は重田利克、シオマネキに似た男。
  重田が『いくらだっけ?』と聞いて来た。
「ええっと…聞いてないんですけど…
 梶原さん?
 聞いてませんけど…
 梶原さんって…
 ああ、あの電話の人ですか…
 あの人に言われて、ここに来たんですけど…紅いバックとか急に言われたんで焦っちゃいましたよ…
交渉して決めるもんなんですか?
 …いくらにしようかな…
 ええ…だから…相場とか…
 …二万円…そんなもんですよね…
 初めてですよ…さっき言ったじゃないですか…
 ああ…信じてないんだ…」
  と、お金を受け取った。
「はい、たしかに…
 (と、枕元の時計を見て)まだずいぶん時間ありますけど…
 もういいんですか?
 出迎え?
 さっきの(と、隣の部屋を示す)…
 ええ…
 私もその方がいいな…
 …一緒に帰りたいんで
 …友達なんですよ…
 やっぱりお友達なんですか?(と、隣の部屋を示す)
 接待?
 若い女の子抱かせろって言われたんですか…
 ずいぶんストレートな野郎ですね…
 あ…すいません…
 大丈夫かな…圭子は…
 へえ…
 そっか…
 大人の世界っていろいろあるんですね…接待でこういう事をね…
 じゃ…私は接客ですか…
 (隣を示して)お得意さん?…
 大変ですね…そんな嫌な人をあれでしょ…
 ヨイショしたりするんでしょ…
 あの…変な事聞いてもいいですか?
 最初ここはいる前に、やっぱり私と圭子を比べて、いい方をあっちの人に取らせたりするんですか?
(後悔)あっさり認められるとは思わなかった…
 お得意さんって花輪君に似てましたよね…花輪君ですよ、花輪君…
 まるこちゃんの…あ、もういいです…今のは独り言でした…
 いつもの子って…連絡つかなかったらしいんですよ…ポケベルすぐなくしちゃう子なんで…この前もトイレに落としたとかいってましたから…
 梶原さん、怒ってましたよ…それで、私と(隣を示し)圭子が来たんですよ…
(と、隣からの声を聞いて)うわ! 圭子達まだやってますよ…
 圭子声大きいなあ…
 いや感じてないですよ…圭子は
 …演技、演技…
 圭子駄目なんですよ…男は…
 演技で出せますよ、声ぐらい…
 今は…
 学生じゃないですよ…
 え? 梶原さん、学生って言ってました?
  あ、歳はそうです…あってますよ…でもフリーターですから…
 普段ですか?
 占いやってますけど…
 ええ…職業で…
 アルタの下とか、池袋のサンシャインビルとかで…
 本当ですよ…当たるんですから、私の占いは…
 毎週占ってもらいに来るお客とかいますよ…
 だって、当たらなきゃ、毎週なんか来ないでしょ…」
  占ってくれよ、と言った。
「今?
 ここで?
 高いですよ、私の占い…
 いくら出します?
 相場? 交渉して決めるようにしてるんですけど…
 普段は…八千円でやってますけど…
 今日はいくらにしようかな…
 いや、お金払うといい結果が出るってもんでもないんですよ…
 お賽銭じゃないんですから…
 あくまで占いなんですよ…
 十万円?
 いや、お金は欲しいんですけどね…
 困ったな…
 だって、こういう事して貰うお金が二万で、占いやって貰うお金が十万っていうのはね…
 私ってなにって思うでしょ…
 占いに自信は持ってますけどね…
 占いも儲かるんですけどね…
 嫌なんですよ…
 私見えるんです…
 その占ってくれって来た人の事がいろいろ…それって嫌なもんですよ…
 そうですよ…本当の事言うと、占いじゃないんですよ…見えるんです…ときどき…
 いいですよ…
 信じなくったって…
 株?
 株が値上がりするかどうかね…教えてあげようか…
 じゃ…十万円…
 いいじゃない…上がらない株買って、大損するより…
 私に十万払って、少しでも可能性の高い方に投資する方が…
 何か…当ててあげようか…奥さんの名前は? それでいい? (ちょっと考えて)美津子でしょ…
(怖いくらいの気迫で)ピンポ~ン!」
  と、手を差し出し。
「十万円…
 ううん…
 いつも、いつもこういう事をやってる訳じゃないよ…人、見てやってるもの…
 十万円(ちょうだい)…」
  と、とうとう男が十万円取り出したよう…
「なにが知りたいんですか?
 本当に株でいいんですか?
 そんなつまんない事でいいんですか?
 もっといい事教えましょうか? 
 駄目駄目…ひとつだけですよ…
 教えるのは…
 株の事でもいいんですけどね…
 どっちにします?」
  間。
「隣の花輪君…
 もうちょっとしたら、死にますよ…
 ほんと…今、圭子と終わって、もうすぐ熱いシャワー浴びて、その時に頭の血管切れるんですよ…
 今行けば、花輪君の命、助かりますよ…シャワー浴びるなっていけば…
 行かないんですか?
 そんなに嫌いな人だったんですか…
 クスリやってるからですよ…
 圭子が売りつけたんでしょ…
 気持ちいいのはわかるけど、クスリやって、激しい運動して、熱いシャワーはね…
 花輪君がいなくなれば、その有名な版画が手に入るんでしょ?
 嫌なものでしょ…見えちゃうって…
 圭子は大丈夫ですよ…
 いや、圭子には言ってませんけど…
 圭子はこれが最初じゃありませんから…
 巧く後始末はしますよ…
 初めてじゃありませんよ…
 人が死ぬの…
 3人目なんですよ…そういう運なんでしょうね…
 一緒に寝た男が死んでしまうって…
 まだまだ…5年以内にあと4人は死にますね…彼女と寝ると…
 行かないんですか…」
  間。
  そして、晶子、壁に耳を当てる。
「シャワーの音ですよ…」
  間。
「どうしたんですか?
 シオマネキがもう一回セックスしようと言った。
 もう一回やるんですか?」
  出来たらニンマリ笑って。
「いいですけど…」
  と、服を脱ぎ始める。
「でも延長料金になりますよ…」
  暗転。

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