ひより

いつか誰かに届くかもしれない何かを

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#7 嫌いになるには、好きすぎた

「ずっと連絡しないで本当にごめん」 二度と来ないと思っていたメッセージが来たのは2週間が経った頃だった。努めて冷静にメッセージを返す。 「落ち着いたかな?こちらは大丈夫だよ」 「今週末会える?」 もちろん会いたい、すぐにでも。私が今、一番会いたくて会いたくて堪らない人。それなのに何故、人間は余計なことを考えてしまうのだろう。彼が提示した日は気を紛らわすために幼馴染との予定を入れた日だった。後になって思う。別れ話だとしてもされないよりはマシだ。この後長いこと辛くなるから。

    • 一瞬を積み重ねていく

      今年33歳になるので、自分のことをアラサーと呼ぶのは躊躇する。個人的にアラサーは20代後半の人のための言葉な気がするから。気付けばカテゴライズに溢れた世の中。定義としてはまだアラサーなんだけど、普通に30代中盤ってする方がなんか好き。 30歳になる瞬間は、嫌ではなくてむしろわくわくしていた。その頃にはもう“歳をとる”のほかに“歳を重ねる”という概念があることを教わっていたからだと思う。重ねた先に手に取れるものや築ける関係があったり、広がる景色があるのだろうと信じていた。

      • 理不尽とは、斜め上から向かい合う

        乱暴に切られた電話に呆然としてしまう。 相手の話し始めから予感はしていた。怒りのこもった声色というのは、はじめの定型文を言い合う段階から、どうしたって察してしまう。 同僚が心配そうにこちらの様子をうかがう。平然とした顔を作る。今こんな電話がありましたと報告する言葉は口からぽろぽろこぼれ落ちるのに、心が停止している。身体と心がちぐはぐな状況を客観的に眺めながら、あぁこれは引きずるやつだ、と奥歯を噛む。 ほどいてみれば話は単純で、先方とこちらの担当者間で些細な行き違いが発生し

        • よくわからないけど好き

          「大学時代の友だちってさ、10年くらい経ってからまた仲良くなることあるっていうじゃん?」 一年と少し前、ひょんなことから大学時代の友人と約10年ぶりに繋がった。仕事の関係で私の地元に来るかもしれないという。彼女が唱えた10年後説は聞いたことがなかったけれど、メッセージの海に浮かぶその吹き出しは輝いて見えた。そしてそれが現実になればいいなと思った。 彼女とは学籍番号が連番で、性格は真反対なのになぜか居心地がよかった。大学にも高校時代の延長のようなグループ(いわゆるいつメン)

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        #7 嫌いになるには、好きすぎた

          すきを集めて

          日々の中に散らばる「好き」を集められる人でいたい。これは最近掲げた目標。 ささやかな、通り過ぎればすぐに埋もれて忘れてしまうくらいの。そんな欠片をそっと拾い上げて、時々眺めることができたら、日々をもっと大切に過ごせるかもしれない。そんな私の小さな「好き」の記録。よろしければお付き合いください◎ 駅を通り抜けるさんぽ道 車の運転も好きだけど、それと並ぶくらい自分の足で地面を感じて歩くのが好き。 仕事柄デスクワークが多いので、運動機会の確保という意味でも休日は散歩に出かけ

          すきを集めて

          あなたの見上げる桜が、強く優しく、ありますように

          澄みわたる春の空。混じり気のない清々しい青。 それでも、新年度特有のままならない空気が喉に絡まって、思わずむせそうになる。 今年の桜を迎えに行けていない。だから少し落ち着かない気分だ。何かの折に満開のソメイヨシノの横を通りかかったり、遠目で眺めたりは何度もした。でも、それはノーカン。それでお終いにするのはあまりにもったいない。しっかり中身を詰めた私で、今年の桜を見上げたい。 桜って、心の状態を反映するバロメーターだと思う。どんな表情で桜が見下ろしてくれるかって、その瞬間に

          あなたの見上げる桜が、強く優しく、ありますように

          10秒間。

          ねぇ、 私の目、10秒見て。 どうして? いいから。 … 照れるわ!! いやほんとそれな!! でも、ありがとう。 てか瞳の色きれいなんだね。 黒じゃないけど、茶色でもない。 淡いブルーがかってるというか。 そうなのかな? 自分だと分からない。 こんなに見られたことないから変な感じ。 確かに。 でもさ、 何? …いつか会えなくなるから。 え?どういうこと? いつか会えなくなったとき、 今までたくさん目が合ったことなんて きっと忘れちゃうと思う。 でもこう

          32歳、春、現在地

          この春が、社会人11年目を連れてくる。 先日異動の通達が出たけれど、私に関わる内容はなかった。年数的にいつ動いてもおかしくないぞリストの筆頭者ではあるので、残留という結果に周りは驚き安堵してくれたけれど、実のところ、私は驚かなかった。生まれて初めて、人事面談において「残留させてほしい」というお願いをしてあったので、それを汲んでもらった結果だった。今取り組んでいることをしばらくは継続したい意向があるので、総合的に考えると環境の変化がない方が有り難かった。 今の環境に身を置い

          32歳、春、現在地

          ため息とコーヒー

          ひょっとして、コーヒーが美味しいと感じるかは運なのかもしれない。 お気に入りのカフェで、コーヒー豆同士がぶつかり合う小気味よい音を聞きながらそんなことを考えている。考えごとの捗る、心地よい空間。 人間は本能的に苦味を毒と認識して生まれてくる。だから苦味は吐き出す味としてインプットされているらしい。 成長とともに経験を重ねるなかで、コーヒーを好きになる人、苦手なままの人がいるのはちょっと面白い。かく言う私もいきなりブラックコーヒーが飲めるようになったわけではなくて、子ども

          ため息とコーヒー

          足りない部分を補うために、言葉は不完全なんでしょう?

          嬉しいことがあった。 小春日和みたいなことが。 今にも雪が降り出しそうな日曜。ずっと来てみたかったカフェの片隅で丸まっている。セットで頼んだパウンドケーキが温められていて、このお店を一瞬で好きになった。 焼きたてではなさそうだし、さっきトースターの「チン」が聞こえたから、きっとそういうことだ。温かいものが胃に落ちると、何にも代えがたい安心感に変わる。こんな思いがけない優しさは、心が弱っているときだったらうっかり泣いてしまうかもしれない、なんて思いながらもぐもぐ頬張る。身体

          足りない部分を補うために、言葉は不完全なんでしょう?

          LINEのアイコンから近況が探れないタイプの君へ

          「友だち」をスクロールすれば、永遠に変わらない君のアイコンが顔を覗かせる。君が設定しているのは動物のイラストで、ホーム画面は初期設定。あぁ、君らしいなって思う。 最後に会ったのはいつだったか。 大学院をもうすぐ卒業する君の内定が出た後だったかな。お祝いを渡しに行って、あれからざっと8年経ったみたい。 君は小学校の同級生で、同じ地区に住んでいて、毎日二人で一緒に下校した。黒と赤のランドセルがくっつく距離で歩いて毎日ケラケラ楽しかった。あの日々は悲しいことが何もなかった。君が

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          新年に寄せて

          社会人1年目に教えてもらったことって、染み付いてますよね。 「名もなき家事」って時折話題になりますが、「名もなきしきたり」とでも言えばいいのかな。しきたりっていうとなんだか堅苦しく聞こえてしまうけれどそういうことではなくて。共に生きる上でお互いが気持ちよく過ごせるコツみたいなもの。 今でこそ社会人10年目。あたかも自然に身につけてきましたみたいな顔でいるけれど、今の私があるのは、それをひとつひとつ教えてくれた人たちのおかげなんだぞってことを、忘れないために。 例えば、コピ

          新年に寄せて

          忘れたくないこと

          11.26 とあるものに心が触れて、朝からたまらない気持ちになった。いい意味で。忘れたいような忘れたくないような気持ちは、たぶん忘れたくない記憶だから、持てるうちは持っていていいと思うのです。 結婚4年目。最近どうも喧嘩が多い。年に3回するかどうかの喧嘩が週に3回起こったのだから異常事態と言えるかもしれない。あまり悲観的には捉えていないのだけど。それぞれ発端は別のことだったとはいえ、ひとつひとつが独立しているように見えて、実際は連なっていたんだろうなぁと思う。 1つ目の

          忘れたくないこと

          秋の優しさが巡る

          ヘッダー画像は出先でふと見上げた窓に秋がこぼれていて、思わず切り取った場面。 一年のうちで今だけ、街が重ね着をしているようでとてもお洒落で可愛い。私はといえば夏に切った髪の毛は少しずつ伸びてきて、毛先を外はねできる長さになった。ぱつんとした毛先も気に入っていたけれど、“風”という字のアクセントをもう少し弱めたくらいのスタイリング(もっと可愛い表現なかったんか)も気に入っている。毛先が跳ねたって跳ねなくたって世界にはこれっぽっちも関係ないけれど、アイロンでくるんと毛先を撫でる

          秋の優しさが巡る

          この胸に深々と突き刺さる矢

          私の胸に深々と突き刺さるもの。それって何だろう。頭の中でぐるぐる考えてみても、人生においてそういったものはさほど多くないことを知る。平凡な人生、ということかもしれない。ダーツの矢とか吹き矢のような、ぷつっと刺さって、その瞬間はきっちり痛くて、でもいつの間にか抜けてしまうような出来事は、きっとそれなりにあったのだと思う。でも、私の根幹を揺るがすような、輪郭を塗り替えてしまうような、そんな深々と突き刺さって抜けない矢はひとつだけだった。 この胸に深々と突き刺さる矢を抜け | 白

          この胸に深々と突き刺さる矢

          私の面影が苦しいならば

          あなたにとって私の面影が、ただただ苦しいものであるならば、すぐにでも丸ごと消し去りたい。記憶を手繰り寄せるたび、苦みしか残らないような、そんなどうしようもない思い出なら、全て手放させてあげたい。そんなことが可能なら、今すぐそうしたいと思う。 あなたにとってあの日々が、遠ざけたい過去であるならば、今この瞬間にでも全てを取り払いたい。出会いから別れまでの全てを。はじめから私が存在しなかった世界へ連れていきたい。 あなたの脳裏にある思い出などに、私の自意識を持たせられる世界線が

          私の面影が苦しいならば