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LINEのアイコンから近況が探れないタイプの君へ


「友だち」をスクロールすれば、永遠に変わらない君のアイコンが顔を覗かせる。君が設定しているのは動物のイラストで、ホーム画面は初期設定。あぁ、君らしいなって思う。


最後に会ったのはいつだったか。
大学院をもうすぐ卒業する君の内定が出た後だったかな。お祝いを渡しに行って、あれからざっと8年経ったみたい。


君は小学校の同級生で、同じ地区に住んでいて、毎日二人で一緒に下校した。黒と赤のランドセルがくっつく距離で歩いて毎日ケラケラ楽しかった。あの日々は悲しいことが何もなかった。君が休めば私が連絡帳を届けに行ったし、私が休めば君が給食のパンを届けにきてくれたっけ。お互いがお互いの日常の一部だった。初恋がどれかって聞かれたら胸を張って君って言う。そんな君は小学4年生のときに県外へ転校してしまった。


初恋の人に10年ぶりに再会、みたいな漫画のような出来事が私に降ってきたのは大学3年の頃の話。初恋だったよなんて言えなかったし、それから6年くらい付かず離れずの距離を保った私たちだった。私の帰省先が彼の居住地で、飲みに誘えば自分の帰省を一日早く切り上げてでも来てくれた。「実家にいてもやることないしさ」って。その言葉の真意は尋ねないまま。


距離が離れているから頻繁には会えない。私から切れば切れてしまう関係。嫌われてないのは分かっていたけど、それが先に進む勇気にはならなかった。友人関係にしても、恋愛関係にしても、私たちはお互いに不器用すぎた。あの日君が見送ってくれた改札前で、二人とも言葉に詰まっていた。君の気持ちは分からずじまいだったけど、私の喉につっかえていたのは「好きだよ」だったんだよ。


社会人4年目の終わり。勇気を出して誘ったバンドのライブ。チケットが一枚余っていて、会場が君の地元だったから思わず声をかけてしまった。そのとき君はすでに全く別の県で働いていて、日曜夜のライブの誘いを断られるのは既定路線だった。「終電が◯時◯分だから間に合わなそう。せっかく誘ってくれたのにごめんね」君はきちんと調べて、そういう律儀な断り方をする人だった。ごめんね最後に困らせて。


連絡を取らなくなってから私は姓が変わった。もともと登録していたフルネームの一部を機械的に変更したこと、君へはそれが実質の結婚報告だった。


君はきっと、パートナーができてもできなくても、タキシードを着ても着なくても、新婚旅行に行っても行かなくても、家族が増えても増えなくても、永遠にアイコンを変えないんだろう。こちらには何ひとつ情報をこぼしてはくれない。そうやって幸せを外に逃さないでしっかり堅実に生きる人なんだ。そういうところも好きだった。たぶん、もっと距離を近づけてみたかった。甘酸っぱいを通り越して酸っぱい思い出。


大学時代から社会人前半あたり、記憶の蓋をめくるとどうしたって君がいる。君の記憶の片隅に、ほんの少しでもあの頃が映っていればいいな。今ならお互いもう少しうまく、話もできるかもね。


どうかこれからもそのままの君でいて。でもね、ほんの少し、君の2枚目のアイコンがあるとしたら、見てみたいかもって気もするよ。


「ご縁があればまた会える」っていうのは私が生きる上での心のお守り。その根拠になってくれたのはまぎれもなく君だよ!いつか書きたいなって思ってたんだ君のこと。元気でいますか。私の人生に二度も交差してくれて、ありがとね。


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