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あなたの見上げる桜が、強く優しく、ありますように



澄みわたる春の空。混じり気のない清々しい青。
それでも、新年度特有のままならない空気が喉に絡まって、思わずむせそうになる。


今年の桜を迎えに行けていない。だから少し落ち着かない気分だ。何かの折に満開のソメイヨシノの横を通りかかったり、遠目で眺めたりは何度もした。でも、それはノーカン。それでお終いにするのはあまりにもったいない。しっかり中身を詰めた私で、今年の桜を見上げたい。


桜って、心の状態を反映するバロメーターだと思う。どんな表情で桜が見下ろしてくれるかって、その瞬間にしか分からない。いっぱいいっぱいだった時代はお花見って気分に到底なれなかったし、そもそも桜が目に入らなかった。だから余計に、桜を見たいと思える気持ちの余白が有難い。


お花見文化はそれほど重視していないから、近所の公園で一本の桜を眺めるだけで心は満たされる。隣に誰かがいてもいいし、一人でもいい。

誰かのほっぺたみたいな、淡くて消えそうな春の色を間近に感じて、今年の心の具合を確かめたい。私のお花見は割とそれがメイン。



いつだって桜は安定的に綺麗に咲くけれど、人の心は違うから。桜を見上げる私たちの気持ちは毎年一定ってわけにいかない。


見上げる先には桜が笑っていてほしい、私もあなたも。手を伸ばせば触れられる距離で、どんな表情で桜が見下ろしてくれるか。それを今年も確認してみたい。まだ間に合う。春の風を感じながら出かけよう。



あの日、桜の話をしてくれたあなたへ。


桜前線のニュースが流れ始めると必ずあなたを思い出します。桜の季節を一緒に過ごしたわけではないのにね。あなたの口から出た唯一の花が、桜だった。


(いや、書いていて思い出したけど、一番たくさん呼んでくれたのは私の名前だ。私の名前には花の名前が入っている。思い出せてよかった。でも、街に溶け込んで咲くあの花の名前を、あなたは知らないんだろうなぁ。)


桜にまつわる他愛もない会話、きっとあなたは覚えていないでしょう。それでも、あの日の会話は、朧げになりつつある思い出に色を落とし、頼りないあなたの像に陰影を付けてくれる。ささいな一場面をいつまでも覚えている自分に、呆れもするし感心もするよ。


今年は、どんな気持ちで桜を見上げていますか?

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