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すきを集めて



日々の中に散らばる「好き」を集められる人でいたい。これは最近掲げた目標。


ささやかな、通り過ぎればすぐに埋もれて忘れてしまうくらいの。そんな欠片をそっと拾い上げて、時々眺めることができたら、日々をもっと大切に過ごせるかもしれない。そんな私の小さな「好き」の記録。よろしければお付き合いください◎




駅を通り抜けるさんぽ道


車の運転も好きだけど、それと並ぶくらい自分の足で地面を感じて歩くのが好き。

仕事柄デスクワークが多いので、運動機会の確保という意味でも休日は散歩に出かけないとそわそわする。マイペースに歩く散歩を運動とカウントして良いのかは置いておくとして。


一時期ホットヨガに通っていたこともあるけど、マスクが欠かせなかった時期あたりから足が遠のいてしまった。ほかに続けられなそうな運動の趣味がなくて、結果週に1〜2回、散歩に出かけることで「運動しなきゃ」の焦りを落ち着ちつかせている節がある。とはいえ、何より季節の変化を五感で感じられて楽しい。継続している数少ない趣味のひとつかもしれない。

コースは基本気の向くままなので何通りもある。その中で決まって通ってしまうのが駅。様々な目的の人が同じ空間に集っているのがおもしろくて、自然に足が向いてしまう。特に、旅行客の人たちから受けるエネルギーって明るくて大きい。


キャリーケースを片手に、視線を斜め上に向けて歩く人たちは無条件に愛おしい。最近は外国の方もたくさん見かける。私の愛する地元に、何かのきっかけで「いいな」と思って尋ねてきてくれた人たち。私と同じ景色を見ながら、違う世界を見ている気がする。期待をベースに少しの不安を振りかけたような表情って、旅行客にしかできないと思う。私もきっと、旅先ではそんな表情をしているんだろうな。



窓際のカウンター席



窓際の客席がカフェなどにあると、思わずガッツポーズしたくなる。一人行動が大好きなので、占有しても気後れしなくて、人々の視線が交差しにくいカウンター席だとなおハッピー。そんなお店があったなら、もれなくお気に入りリスト入り。



人の流れって不規則なようで規則的な面もあって、眺めていると不思議と落ち着く。バラバラに歩いていたのに同じように信号で止まるところとか、雨が降り出せば次々に傘が開く景色とか、日が照り始めると途端に日陰に吸い込まれていく人たちとか。じろじろ見るわけではないけど、眺めていて飽きない。


室外から室内を覗かれるのは居心地が悪いのに、室内から室外を眺めるのはゆるされている気がする。室外に対する室内の優位性って、いつも不思議に思う。

不安を顔に浮かべたひとりが、別のひとりと落ち合う瞬間。花が咲いたような表情になるか、緊張感を崩さないままか。いつだって、街にはドラマがある。雑踏に溶け込む人たちを通して私たちが見ているのは、あの日の私と、いつかの私。窓際のカウンター席は、誰もに開かれた特等席だ。



「ご一緒してもよろしいですか」


大学生ぶりにテーマパークで遊び尽くした日のこと。宿泊する予定の都内のビジネスホテルには、小さめだけど評判の温泉があるというので楽しみにしていた。


凝り固まった筋肉をほぐすため、部屋での休息もそこそこに温泉に向かうことにした。露天風呂もあるようで、人が入れ替わるタイミングを探り、先客のいない露天風呂にたどり着いた。二人も入れば満員の、本当に小さな露天風呂だった。それでも、ビルとビルの狭間でありながら、汗も疲れも全てを流せる空間は、都会のオアシスと呼ばれても異議はなかった。



ただ、なんといってもその空間は狭かった。カフェで隣の席に人が座るのを待つのとは違う。誰かが露天風呂への扉をくぐれば、無条件で空間と時間を分かち合う必要が出てくるだろう。そんな謎の緊張感があった。


そうこうしているうちに、扉が開く音がした。どうしよう、入れ替わりで上がってしまおうかと逡巡していると、お姉さんはこう言った。

「ご一緒してもよろしいですか?」


私の脳内では、その手があったかー!!と拍手喝采だった。なんとも自然で、軽やかで、爽やかなひと言。私なら「失礼します」しか出てこなかった場面で、一瞬でこの文章を引き出せたお姉さんの懐の深さを感じた。同時に実感したのは、私はまだまだ発展途上ということ。



「失礼します」が示すニュアンスが「あなたの空間にお邪魔します」とするなら、「ご一緒してもよろしいですか?」は「あなたの空間に参加してもいいですか?」という感じだろうか。

空間に入り込むか、空間を共にするか。
ただそれだけのことだけど、受取り方は結構変わる。

どちらの言い回しも正解ではある。私が痛感したのは、咄嗟の場面で出る言葉って、人間性が濃く出るなぁということ。どんなことに重きを置いているか、その人が大切にしている価値観がありありと現れると思った。


瞬発力が問われる場面での言葉って、各々が持つ言葉の引き出しの、特に取り出しやすい部分に置いてあると思う。だから誤魔化しが効きにくい。引き出しの中にどんな言葉をどんな順番で並べておくかって、人生そのものだなぁと実感させてくれた。湯の中で感じた静かな衝撃が、今でも忘れられない。


人との関わりは特別に得意ではないけど、こうやって時々巡り合うご縁も大切に、人としての層を厚くしていけたらいいな。


今回は3つ。
好きなものについて記せる場所があってよかったし、記したいと思える場所があってよかった。


また更新していけますように。

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