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【短編小説】『簪(かんざし)』
こんな空の色にも、立派な名前がついていることを菜津子は知っていた。
三日三晩降りつづいた秋雨がやんだ。やんだはいいが、黄昏の空には象のお腹みたいに硬くて分厚い雲がいっぱいに残っていた。
思い出すのもこんな空模様の夕方のこと。
学校から大急ぎで帰った、当時八歳の菜津子を玄関で迎えてくれたのは祖母だった。
「なっちゃん、おかえり。まあ、傘もささんと!」
「ただいま、おばあちゃん! 雨
こんな空の色にも、立派な名前がついていることを菜津子は知っていた。
三日三晩降りつづいた秋雨がやんだ。やんだはいいが、黄昏の空には象のお腹みたいに硬くて分厚い雲がいっぱいに残っていた。
思い出すのもこんな空模様の夕方のこと。
学校から大急ぎで帰った、当時八歳の菜津子を玄関で迎えてくれたのは祖母だった。
「なっちゃん、おかえり。まあ、傘もささんと!」
「ただいま、おばあちゃん! 雨