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#小説

【連作短編】探偵物語日記③〜創造主は遊ばない〜

【連作短編】探偵物語日記③〜創造主は遊ばない〜

 依頼人は高校生だった。髪は長めで面長な様子から勝手に引退したサッカー部かと思ったが、野球部部長17歳、つまり高校2年生だった。今時の野球部は坊主頭がでなくていいらしい。依頼料が不安だったがお年玉とバイトで貯めた金は想像以上に纏まった額だった。しかし、相手は未成年。さすがにそのまま受け取る訳にはいかず、家を訪ねて保護者からも事情を聴くことにした。道中、身の上話を聞いた。  彼には失踪した歳の離れた

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【連作短編】探偵物語日記④〜山男は歩かない〜

【連作短編】探偵物語日記④〜山男は歩かない〜

生ぬるい雨がフロントガラスにぶつかって落ちる。壊れたカーエアコンは溜息のような風しか吐かない。

俺は雇われの身だ。職業は探偵、個人営業主ではない。所謂、サラリーマンだ。会社には申請していないが、俺には霊が視え、時には会話する、所謂、霊能探偵ってやつだ。

春とも冬とも言えない湿気に満ちながら、若干の肌寒さを残した中途半端な季節の夜10時、俺は車を運転していた。黒いデカい車を。こんな居心地の悪い夜

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[掌編小説]銀の指ぬき

[掌編小説]銀の指ぬき

 マイアはおばあさんとふたり、田舎で暮らす女の子です。
 おとうさんは戦争で遠くの国に行ったきり帰ってきません。
 おかあさんはマイアが小さい時に病気で亡くなってしまいました。

 マイアは、それでも元気に暮らします。大好きなおばあさんが一緒でしたし、右手の親指には、おかあさんがはめていた銀製の指ぬきをいつでもはめていましたから。
 少しくらい辛いことがあっても、指ぬきを太陽にあてて輝かせると、心

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[掌編小説]生贄騒動

[掌編小説]生贄騒動

 昔々、大きな湖のほとりに大きな村がありました。
 大きな湖には、竜神様が住んでいて、人々はお社を建ててお祀りました。

 村人は作物の出来が悪かったり、病気が流行ったり、都合が悪いことが起こると、竜神様に捧げものをして、どうにか鎮めて下さいとお祈りをしました。そうして、どうにかこれまで村は続いてきたのでした。

 さて村には、歳の近い仲の良い姉妹がおりました。
 姉のハツは聡く、世話好きで、少し

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