見出し画像

伊藤涼太郎を振り返らずにはいられない:2023 J1 第17節 アルビレックス新潟×京都サンガ

伊藤涼太郎のラストダンス。

Jリーグにおける涼太郎のファンタジスタなプレイは見納めとなってしまったけど10月のビックスワンに至恩と一緒に凱旋となっているに違いない。夢を掴め涼太郎!

感慨深く振り返ってみると涼太郎のことを結構書いていたような気がする。過去のnoteを掘り出して思い出話に花を咲かせてみたい。

まずは「なんかやべーやつ来たなこれ!」と直感的に感じた新潟デビュー直後。伊藤涼太郎のスルーパスから本間至恩のゴールとか今見ると贅沢すぎるシーン。

今でこそ涼太郎の代名詞になったマジカルスルーパスなのだが、改めて見ても既に変態じみたインサイドキックを見せている。守備が2人とも涼太郎のキックから視線を切ってる訳じゃないのに至恩へすり抜けていくボール。とにかく美しい。

2022年シーズン序盤の新潟、今じゃ考えられないが4123のアンカースタイルで涼太郎は高木と共にインサイドハーフを担っていた。高木が左で涼太郎が右という布陣だった。

2022年序盤の当時は433の布陣で涼太郎は右のインサイドハーフだった。

この時の涼太郎の役割はヤン(高)の位置まで落ちてビルドアップに参加するというもの。新潟自陣で局所的な数的優位を作ってパス回し地獄のメリーゴーラウンドという楽しいことをやっていて、その中心には涼太郎がいた。攻撃がメインタスクで守備はヤンにお任せという仕組み。涼太郎には攻撃という明確な役割が与えられた。

そしてレイオフ。涼太郎が前を向いた状態でボールを持てばなんでもできるさ!という攻撃はこの頃から威力絶大だった。

そんなこんなで、「高木が稼働できないと非常にマズいのでは?」というオフシーズンにおけるサポーターの不安を完全に払拭してくれた涼太郎の2022年シーズン序盤だった。

その後、新潟の基本フォーメーションが4231となったことに伴いトップ下の椅子が1つとなり、涼太郎は高木と交代で入れ替わる形での起用が増える。これはこれでスペシャルなフットボーラー2人を大事に使えるという結果に繋がっていたし、強い新潟の勝利の方程式でもあった。

そんな勝利の方程式を手に入れた新潟だったのだが、2022年のアウェイ水戸戦において涼太郎のキックが火を吹いた。

試合当日に思い付きで仕事休んでケーズデンキスタジアムに行ったのだが、結果として素晴らしいサッカーを観ることができた。三戸涼太郎至恩の3人がJ2で同時に輝いた試合ということで将来語り継がれる試合になるのかもしれない。至恩のスーパーゴールが生まれたのもこの試合。目の前で見た!

何回見ても何が起きたのか良くわからないコーナーキック。

涼太郎のキックも凄いがそこがフリーになると嗅ぎ分けて飛び込んでくる至恩もどうかしてる。涼太郎はこの試合のインタビューで「本当は違うところを狙った」みたいなコメントだったような気がするんだけど本当のところはどうだったんだろうか。

そして至恩のベルギー移籍、ポッカリ空いた左サイドを誰が担うのかと全新潟がアレコレ予想したものの結果は伊藤涼太郎。左サイドの伊藤涼太郎爆誕である。

涼太郎が左サイドでトップ下が高木。キングの振る舞いをする高木と落ちてボールを捌く涼太郎という形が基本になるのだが、左サイドの涼太郎とトップ下の高木という組み合わせがとんでもないケミストリーを生み出した。

至恩が抜けても全く問題ないどころかスペイン風アルビレックス新潟バージョン2みたいな凄いサッカーになってしまってマジ強すぎるだろ俺たちの新潟という楽しい日々を過ごすことになる。

サイドチェンジやらポジションチェンジやらモダンサッカーを華麗に体現しているアルビレックス新潟というクラブを世界に誇るしかなかった。全てのゴールは涼太郎経由で生まれると言っても過言ではなかった。

左サイドから落ちて受けてターンしてサイドチェンジ蹴り込む涼太郎。

アシストもゴールも決める涼太郎というイメージが強い2023年シーズンなのだが、この頃の涼太郎といえばシュートの意識は高いけど決めきれないという感じだったように記憶している。

とにかくゴールという形でチームに貢献したいけどあと一歩!というもどかしさを感じていた。それでもゴールに向かう姿勢は強かったので、いつか爆発するだろうとは思っていた。

ちなみにこの試合のゴールは起点が涼太郎でフィニッシュも涼太郎という素晴らしい形のゴールだったりする。

そんな強い新潟だったが2022シーズンも終盤になると新潟のサッカーがとにかく極まってしまい、「強い」程度の守備ではどのチームも守りきれないレベルに達していた。

高木が負傷で長期離脱となってしまったホーム水戸戦だがファンタジスタ伊藤涼太郎が輝いた試合でもある。守備5人を切り裂いた超絶スルーパスが凄すぎた。ゴールこそ決まらなかったもののファンタジスタすぎて叫ぶしかなかった。

その後は圧倒的な強さと美しさでJ1昇格を決めた俺たちの新潟。その中心には涼太郎がいた。

昇格を決めたホーム仙台戦、前半のフリーキックはクロスバーに弾かれてしまったが涼太郎なら何かやってくれるんじゃないかと思わせてくれるプレイを最初から魅せていた。

華麗な足下の技術でボールを扱い、ダブルタッチやらターンやらを当たり前のように繰り出してボールを奪われることなく躍動する涼太郎。541ブロック相手に縦パスをズバズバ通したりと本当に神掛かっていた。

2022年シーズンにおいて「自分はまだ何も成し遂げていない」という言葉が涼太郎から何度も出ていたと記憶しているのだが、この試合の先制点を決めた時点でもそのスタンスは変わっていなかった。

見ているこっちは涼太郎が決めたぁぁぁぁぁ!!!!!って狂気乱舞しているのに当の本人は厳しい表情で試合を続けるというストイックぶり。

そして遂に涼太郎が感情を爆発させるその瞬間が訪れる。

後半76:40、涼太郎が感情を爆発させた時、それは誰もが新潟のJ1昇格を確信した時でもあった。俺たちのヒーロー!

とにもかくにも新潟にも涼太郎にも素晴らしいシーズンとなった2022年だったが、伊藤涼太郎の名前が多くの人に認知されるのはJ1に舞台を移した2023年シーズンとなる。

この伊藤涼太郎が凄い!と話題になるのはフリーキックだったりスルーパスだったりするのだが、涼太郎のキックはいわゆる「インサイドキックの表と裏」という技術になり、この蹴り分けが本当に上手いのが涼太郎なのである。

わざわざJリーグ公式がプレー集を作ってくれたので貼っておく。プロでもコロッと騙されるキックモーションなんだろうな。

そして新潟サポーターの期待と不安が入り混じった2023年シーズンの開幕戦。涼太郎はトップ下のポジションで光り輝いた。

J2時代には落ちて捌いてラストパスというのがスタイルだったがJ1の舞台において新型涼太郎に進化した。落ちて捌いてラストパスもできるし単騎で中央からゴリゴリと突撃もしていく涼太郎である。圧倒的な推進力を爆発させる涼太郎。

後半に入って新型涼太郎が爆発した2023年シーズン開幕戦。

至恩が付けていた10番を2023年シーズンに提示されたものの最初に新潟から与えられた13番が良いという希望を出して10番を断ったというエピソードが素晴らしすぎる涼太郎。この試合では2アシストと結果も出してくれた。

開幕戦は引き分けだったものの、続く広島戦などもスタイルを存分に見せつけることで「俺たちのサッカーはJ1でも通用するぞ!」と自信を付けた状態で序盤の山場であるホーム川崎戦を迎える。

この当時は川崎がイマイチ調子上がっていなくて低迷していたのだが、そのスタイルと戦力は新潟の上位互換と言っても過言ではない。そんな試合で涼太郎は眩しく輝いてチームを勝利に導いてくれた。

この時点でJ1ベストイレブンであり、近い将来に月間MVPも受賞するなど日本で一番輝いているフットボーラーとして名を轟かせていた涼太郎。この日も圧倒的なファンタジスタぶりでスワンを沸かせまくっていた。

ボールを受ける、ターンする、パスを出す。シンプルな動作でしかないが本当に美しく流れる所作。ずっと見ていられる涼太郎のプレイ。ノリノリすぎてチャレンジングなループシュートまで飛び出した。

そして伊藤涼太郎日本代表招集待望論が巻き起こったスーパーシュート。

この位置からニアに蹴り込む軌道が読めるキーパーなんてこの世に存在するのだろうか。白鳥のエンブレムを握って小さくガッツポーズするいつもの涼太郎。サポーターめっちゃ煽ってたりして熱い。

そして伊藤涼太郎は伝説へ。語り継がれる2023年4月15日。ホーム福岡戦におけるハットトリック大逆転劇。

福岡の圧倒的強度な守備に成すすべなく負けてしまうのかと誰もが思っていたであろう前半、後半開始早々に涼太郎がフリーキックを決めたものの伝説になるほど劇的な結末を迎えるなんて試合終了直前のアディショナルタイムにおいても予想できる人はいなかっただろう。

大逆転ハットトリックを決めて感情大爆発な涼太郎が誇らしい。

この福岡戦でJ最高のフットボーラーであることを証明した涼太郎。

その後、チームは低迷してしまうが涼太郎はいつも諦めずにチームの勝利のために戦ってくれた。

最後のスワンとなった京都戦もファンタジスタとしての涼太郎を存分に見せてもらえた。サポーターとして大声で「行ってこい!」と心の中で叫ぶことができた。涼太郎を見送るために集まったオレンジブルーの3万人。

前半15:10に通したダニーロへの左足サイドチェンジと勢いそのままにゴールへ飛び込む強い気持ち、前半21:15にゴール前正面で見せた狭い場所でのターン、前半38:10の鋭すぎて新井がレシーブできなかった守備3人を切り裂くキック、前半39:05の新井にゴール前に折り返せとメッセージを込めたサイドチェンジ、後半45:40のペナルティエリア内で3人に密着で囲まれた状態からループで田上に通したゴラッソアシスト未遂(決まってたらとんでもないプレイになっていた)、後半52:30からのレイオフを織り交ぜた決定機創出、後半56:30のアーリークロス気味なサイドチェンジのような新井へのフライスルーパスでの決定機創出(これも決まってたらスーパープレイだった)、後半57:10のペナルティエリア内に猪突猛進で走り込んでくるダニーロへ優しく転がすラストパス、後半59:00に蹴った中央からのサイドチェンジ、後半60:50のシャペウからの島田ヒールによるワンツー、後半61:10の守備2人を躱して蹴り込んだミドルシュート(キーパーが触れなかったら決まってたはず)、後半67:50の守備を手玉に取るリフティング、後半69:00のペナルティエリア手前のスペースにロブを落とすアイデア、後半72:00に諦めないプレーでクロスを上げて同点ゴールに繋げたダニーロとのハイタッチ、後半84:30に受けた楔のパスを絶妙なトラップで置いて滑らかに左足で蹴り込んだ無回転ミドル(決まれ!)、気持ちが入りすぎて貰ってしまった後半84:50のイエローカード、絶妙のタイミングで最終ライン裏に抜け出してクロスを上げた後半91:55、ハーフウェイラインから一気に深い位置までサイドチェンジを飛ばした後半94:10、ホイッスルが鳴った雨の中で息をひとつ吐いた涼太郎。

1年半という時間、涼太郎には本当に楽しませてもらった。

システム化や細分化が進むモダンサッカーにおいて絶滅危惧種となっている10番タイプのファンタジスタ。

ファンタジスタは新潟で眩しく輝いていたということを世界に見せつけてほしい。

アイシテル涼太郎!

試合雑感

今日は涼太郎を笑顔で送り出したい。ただそれだけ。

京都のハイプレスをビルドアップで躱してセンターサークルで受けた涼太郎が守備3人を切り裂くスルーパスを出して谷口がゴールとかしたら泣くかもしれない。

京都は後半勝負なのか先制したのかはわかりませんがプレス控えめ。ボールの狩りどころを涼太郎と谷口に絞っていて多くハントできている。新井がワンタッチで離さなかったら突っ込んでハントというのもあるというか新井が狩場みたいな。

京都の攻撃は中盤省略なのだが山﨑と木下が屈強なので結構な脅威。デンがエアバトルで勝てない。

正直な感想としては京都が後半プレス掛けてきても前半を見る限りでは軽くかわせるだろう。中央からスコスコ進めるはず。プレスに来てくれればだけど。

新潟の攻撃はいつもよりもクロス多め。田上アゲと谷口への信頼だと思う。ダニーロは本当に面白いな。華がある。小見も完全に主力中の主力という成長ぶり。小見は攻守共に本当に素晴らしい。

とにかく京都のタイマンが強くてタイマンからボールを奪われているのでタイマンに真っ向勝負するのかタイマンを数的優位で避けるのかというのが後半のチェックポイントになる。京都が色気出してプレスに来てくれるとやりやすいのだが。

涼太郎のラスト45分、どんな結末になるのかな。

と見守った後半、ありえないミス2連発してたら負ける以外の結果は存在しない。ダニーロの気持ちを乗せたクロスと魂の入った新井のヘッドだったのに全部台無し。台無しにしたのは新井なのだが。

涼太郎を笑顔で送り出すことはできなかったけど、涼太郎個人だけ見れば素晴らしいファンタジスタだった。モダンサッカーでは絶滅危惧種となっている10番タイプのファンタジスタはヨーロッパでも話題になってほしい。最初は「グティのような」と形容されるかもしれないけど、THIS IS RYOTARO!!!!!!!とヨーロッパで叫ばれるようなプレーを魅せてほしい。涼太郎ならそれができる。

後半の京都は541ブロック時々プレスみたいな感じで新井と田上がモタつくと一気に噛みついてきてショートカウンターを当ててくる。

一方の新潟は引いた541ブロックに対してペナ内コンビネーションとアーリークロスで攻略を試みる。アーリークロスは可能性感じなかったけどネスカウが嵌ってネスカウ落として小見がこぼれ球に反応とか炸裂してほしい。谷口も十分戦えるはず。繰り返していればクロスの質も上がると思う。

ペナ崩しは結果が出なくても和式とか言われても個人的に続けてほしい
。新潟にはこういうロマンが詰まった尖ったサッカーをしてほしいです。アヤックスか新潟かみたいな。

試合の結果はとにかく残念というかむしろかなり酷い。

新潟のトップ下、涼太郎レベルは無理としてもスタイルが成立するくらいには多分なんとかなると思う。適正ポジションの選手が複数名いることはいる。

一番厳しそうなのが左サイドバックだろうか。ルヴァンでは藤原がやっていたみたいだけど試合見ていないので機能するかどうかはよくわからない。

泰基のセンターバックはスペックとパフォーマンスが出るからなのか、そうせざるを得ない台所事情なだけなのかは外から眺めてもよくわからない。

とにかく苦しい台所時事。

あとは新井。個人単位では申し分無いパフォーマンスなのだが周りと温度がとにかく合っていない。

温度が他よりも高すぎるというか、新井の求めているものが新潟には無いのかもしれない。王様できるチームならメチャクチャ機能するような気がする。

新井はもともとストイックな印象があったけどキャリアを重ねてその度合いが高くなって周りと上手く合わせることが出来なくなっているのでは?という雰囲気を感じる。

新井は王の素質があるのかもしれないけど、現状としてチームの中で新井が浮いていないか心配になる。

涼太郎の挑戦、成功して欲しい。新潟から世界へ!


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。