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語り継がずにはいられない:2023 J1 第8節 アルビレックス新潟×アビスパ福岡

2023年4月15日、伝説が生まれた。

10年に一度とも言える劇的な試合を語り継がずにはいられない。ビッグフラッグもコロナ禍を経ての再開というのも色々と運命じみたものがあった。

この日、数日前から「王の帰還」と銘打ったSNSプロモーションで高木の復帰を匂わせていたが高木はベンチ外。集客の仕方がエグい。そんな俺たちの新潟だったが最終的には最高のエンターテイメントとなる未来を誰が予想できただろうか。

王の帰還、高木善朗を新潟の王と呼ぶのならば伊藤涼太郎は王子だ。プリンス・オブ・ニイガタ。新潟に縁のある人全員の王子。

スタメンは誰が出てもやることは変わらない俺たちの新潟。鈴木孝司と太田は外せないというくらいだろうか。

伝説が生まれた日のスタメン。

福岡ボールでキックオフ。屈強な山岸ルキアン目掛けてロングキックが元気いっぱいに飛んでいくが秋山が弾き返す。マイボールにした新潟はボールを愛して丁寧に保持するが福岡のスペースを埋める形のプレスがいちいち素早い。

前半01:45、ハーフウェイラインあたりの藤原スローインから華麗な涼太郎ヒールを織り交ぜて秋山が爆あがりしてきた逆サイドがら空きフリーのゴメスにボールを預けてクロスを狙うが孝司に合わず。

この一連のプレイは新潟の調子が良い時にいつも見ることができる大外密集からのサイドチェンジである。新潟のサイドチェンジは一発蹴り出し長弾道ではなく地上で中央を経由して逆サイドに運ぶという丁寧なサイドチェンジ。新潟式フットボールの基本である。

大外にボールと人を密集させてから逆サイドに素早く逃すサイドチェンジ。地上で繋いで素早く逆サイドへ運ぶのが新潟式。

新潟が上手くやれている時のサイドチェンジだが、試合開始直後のこれっきりでその後は福岡の高速超圧縮守備の前に沈黙してしまう。

直後前半02:05のシーン。孝司に合わなかったクロスをキーパーがキャッチすると素早く蹴り出してカウンターを狙う福岡。前線の山岸や中盤の金森がセカンドボールを献身的に回収して一気にカウンターを仕掛ける。山岸→ルキアンを経由してペナルティエリア内に走り込むドリブラー紺野に渡して新潟の守備を動けなくしてから外を回り込む右サイドバックの湯澤がルキアン狙いのクロスを上げるもののデンがクリア。その後もセカンドボールを回収して湯澤がペナルティエリア内でボールを持って切り込んでゴールを狙う。最後方から一気にゴール前まで畳み掛ける福岡が怖い。

前半も5分を過ぎてワチャワチャタイムが終わると442のブロックを敷いて守備に特化する福岡。この試合におけるひとつの見所となる。

福岡の守備が442ブロックなので新潟はいつもどおりに中央を割って前進したい。最初のうちは新潟式ビルドアップが機能して意図したとおりにボールを動かせていたものの徐々にボールが動かせなくなって福岡に奪われる回数が増えてしまう。

新潟式ビルドアップの配置。ボランチの1人が2トップをピン留めしてもう1人のボランチがフリーで受ける。ピン留め役は「こいつにボールを触らせたらヤバい」と思わせるスペックが必要。

新潟式ビルドアップに対して福岡がやっていたことといえばコンパクトな守備陣形のままサ全体をサイドにスライドさせてタッチラインに追い込んでボールの出しどころを塞ぐというものである。中央にいるボランチや涼太郎にボールを入れようとすれば一気に奪われるしサイドでもたつくと瞬時に噛みついてくる。

福岡に前半この動きを徹底されて全くボールを前進できない俺たちの新潟。ボールは動くが前進できない。ゴール前まで辿り着けない。松橋監督の言葉を借りれば「我々はビルドアップがしたいのではない、ゴールを奪いたいんだ」の状況である。

コンパクトな陣形を保ったままサイドにスライドする福岡の442守備。新潟はボールを前に運べないしゴール前に辿り着けない。
サイドが変わってもそのままの陣形で素早くスライドしてスペースを埋める福岡の守備。高(ヤン)や涼太郎にボールを出すと一気に刈り取られる。

福岡はこの守備がハマりまくっていたのでボールを奪えば屈強2トップの山岸ルキアンにボールを預けてあとはよろしく任せましたよという感じで突撃してくる。山岸ルキアンに意識を奪われると忘れた頃にやってくるドリブラー紺野なんかがいてアタッキングサードで翻弄される俺たちの新潟。

開始10分で「福岡強いな」と思わせるには十分すぎるほどの内容だった。

そんな流れの中で高い位置で奪ってショートカウンターを繰り返している福岡は紺野のドリブルからPKをゲット。試合開始から積極的にペナルティエリア内でボールを扱っていた結果でもある。PKは小島がコースを読み切ったもののボールは左隅に吸い込まれる。

その後も涼太郎やダニーロがボールを持って単騎でゴール正面に突撃したりコーナーキックのセカンドボールを拾ってカウンターを当てたり高い最終ラインの裏目掛けてフィード供給したりするが全部不発。カリカリして注意を受ける涼太郎。途中でタッチラインを割りそうなボールを無理矢理キープしてターン継続からのやり直しをしたダニーロにスタンドから大きな拍手が出たのは良い光景だった。

そんな流れの中の前半31:40、福岡コーナーキックから小田が完璧なタイミングによる跳躍からヘッドで決めて追加点。当たりに行ったマイケルも間に合わなかった。

前半35分を過ぎて状況がよろしくない新潟だが、映像を改めて確認するとデンが後半の福岡攻略に繋がるプレイをここで仕込んでいたりする。

自陣であれこれしようとしないで最終ラインから一気に大外高い位置にボールを通して畳み掛けてしまえというプレイになるのだが、このデン(というかピッチ上)の判断が後半の流れに繋がるなどとはリアルタイムで観ている時には全く想像できなかった。既にこの時、劇的な結末のフラグが立っていたのである。

中央経由大外行きではなくダイレクトに大外へ通すデン。大外高い位置にボールが入ると同時に全員一気にゴールへ向かって走り出す。

この攻略方法は本当に見事だった。福岡のブロックを無理矢理押し下げるだけではないもっと大きな効果があった。

新潟は攻撃を前向きに、福岡は守備を後ろ向きにやるしかなくなるので攻撃優位(相手に背面マークした状態、いわゆる「前を向かせるな!」が最も守備強度が高い。攻撃に対して後ろ向きだと守備強度が落ちる)を確保することができる。新潟らしい攻撃的な攻略方法。

加えて、大外を気にすればハーフスペースが空くという状況を作り出すこともでき、それは新潟式ビルドアップそのものの形である。後半はスタートからこのやり方で押し切ることになる。攻撃力を取り戻した俺たちの新潟。

大外を気にするとハーフスペースが空くという必然。前半終盤に攻撃力を取り戻した新潟。前半44:15からの流れ(ハーフスペース受け→レイオフ→藤原→中央から外に流れる秋山がクロス)は非常に美しかった。

前半終了時、結果を知っていれば期待感しかない終わり方だったのだがリアルタイムでは福岡強すぎるだろこれ!どうやって勝てばいいのさ?という感覚しか持っていなかった。

このあと劇的すぎるドラマが起こるなど誰が想像しただろうかと思わずにいられないのだが、新潟のピッチとベンチの選手監督スタッフ全員は勝てると信じていて疑いなど微塵も持っていなかったんじゃないだろうか。

後半キックオフ。

スタートから大外太田がボールを受けて爆走して福岡陣内深い位置でフリーキックをゲットする。この後の展開は皆さんご存知のとおり。伊藤が直接キタァァァァァ!!!!! ニアサイド撃ち抜いた伊藤涼太郎ォォォォォ!!!!!

どんなゴラッソだろうと試合に勝った訳ではないので表情ひとつ変えない涼太郎。J1昇格を決めた時も同じ表情だった涼太郎。ディス・イズ・クール太郎。

その後はやることは同じである。最終ラインから大外高い位置にダイレクトに付けて守備を下げさせ、大外を意識させることでハーフスペースにパスを通す。ごくごくシンプルだが非常に効果的な攻撃である。仕組みも結果も簡単に見えるのだが、これを当たり前にできるようになるために3年以上地道に積み重ねてきた俺たちの新潟なのである。配置で殴る。

大外は基本的に太田とダニーロだが、配置が適切であれば誰が大外にいても良いというのが新潟式である。時には藤原とゴメスが、時にはヤンや秋山が大外でボールを受けたりもする。

本当に面白いようにスペースが作れてパスがズバズバ通った。前半は一体なんだったんだと思わずにいられない。

後半55:50からの運びは全部中央でパス交換するだけで運ぶという圧巻のプレイだったし、58:20のマイケルが涼太郎に通したズバッとな縦パスとか興奮せずにはいられない。秋山が太田に叫んだ「落ちてこい!」のジェスチャーも熱かった。

後半50分以降になると新潟の攻撃に釣られて福岡も守備を忘れて攻撃をゴリゴリ仕掛けてくる。これは長谷部監督も想定外の事態だったのではないだろうか。当初の守備戦術を忘れた福岡。突然殴り合いのヒートアップ。無理矢理自分たちの土俵に引きずり上げた俺たちの新潟。後半60分を過ぎるともはや原型を留めていない福岡の守備。

後半54:25には1試合に1回は目撃されるマイケルのやらかし(なんにもないところで対人で不用意にボールを奪われる)がこの試合でも目撃されたが良く覚えていない。マイケルがやらかした試合は負けない伝説があるとかないとか。後半72:35には福岡のクリアボールがとんでもないスペースに落ちてペナルティエリアを大きく飛び出した小島 VS ルキアンという実現するはずのない場外乱闘(※ただの競り合いです)が勃発するなど普通の試合じゃない感が結構匂っていた。

なお、涼太郎のゴラッソなフリーキック以降、スタンドからはチャントが10分以上に渡って大合唱されており、この雰囲気に飲まれてしまった部分はあるというニュアンスのコメントを試合後に長谷部監督が出している。まぁチャント長回しに関しては色々あるみたいだけど結果オーライ!

後半71:00、松橋監督は一気に3人交代という大胆な対応を行う。鈴木孝司、ダニーロ、太田を下げて入るのは谷口、小見、松田詠太郎である。結果を知っているから言えることだが、タイミングもメンバーも人数も完璧な交代だった。

まずは小見。

一時期はサイドでボールを受けても消極的に後ろ向きでバックパスがファーストチョイスだったのだが、最近、特にこの試合では前を向いてボール保持をファーストチョイスにしているのが明らかに見て取れた。消極的に後ろへ戻したボールは手元で数えて1回だけではないだろうか。サイドでも中央でも遜色なくボールを扱えるようにもなっていて三戸がベンチに入れなくなるのも納得できる成長ぶりである。

続いて松田。

自慢の縦突破が通用せずにもがいていた時間が長すぎたが、そんな暗黒時代を全て帳消しにするかのようなキレキレ縦突破である。縦突破からクロス!縦突破からクロス!松田はこれで生きて行くしかないだろう。クロスマシーン松田。76:15のクロスはちょっとだけ谷口の上がりを待つとか状況考えて上げろよな!とツッコまずにいられなかったがこのままクロスマシーンとしての道を歩んでほしい。今シーズン初めに松田はクソボールハンターとして生きてほしいと書いたことがあるのだがクソボールハンターの道も諦めずにスペシャルなクロスマシーンとして大成してほしい。でも縦突破だけだとすぐに対策されるからたまにはカットインも織り交ぜてくれよな。

あとは谷口。

ストライカーとしてイマイチ爆発できていないがこの試合では積極的にゴールを狙っていた。後半75:35のシーンはうまくミートせず&ディフレクションでキーパーに難なくキャッチされてしまったが十分にタラレバ海キャノンだった。79:40の俺に恐怖などない!と言わんばかりに頭から突っ込んだシーンや88:40のセンターバック2人にジャンククラッシュのように挟まれて倒されてもコンマ数秒で立ち上がる姿も熱かった。心を燃やせ。

後半80分を過ぎるとヤバい雰囲気を感じすぎている長谷部監督。インカムで喋る回数が増えてるのかインカムに叫んでいる様子が何度もDAZNのカメラに抜かれて一度に3人の交代。残り10分殴り合うのか引くのかどっちかと思ったら普通に殴ってきた。ここで引いてクロージングという未来もあっただろうにそれを選択しなかった長谷部監督。スタジアムの雰囲気が引いて守るという選択肢を消してしまったんじゃないだろうかと思うし結果としての結末。スタジアム全体で作ったドラマ。

次いで新潟は秋山に変えて島田を投入。本当にスペシャルなフットボーラーになった秋山だった。

そして歓喜のアディショナルタイムが訪れる。

ゴラッソ!と叫ぶ以外にない。というか叫んだ。

1点目のフリーキックもそうなのだが、涼太郎は体の向きと逆方向に飛ぶキックを蹴るのが本当に上手い。いわゆる表と裏の蹴り分けがスペシャルすぎてパスでもシュートでも効果的に使いこなせるのが涼太郎のスペシャリティである。涼太郎のキックをイニエスタがどう見ているのかは聞いてみたい。

そしてドラマは完結する。感情を爆発させる涼太郎が誇らしい。

アイシテルニイガタ!

試合雑感

王の帰還ならずだったがいつも通りにやってもらいましょうというスタメン発表。

福岡は長谷部監督なので屈強クラシカルな442となるはず。今シーズンは3421で来ていて442は直近の試合からということだが、長谷部監督は強固な442という印象があるので新潟に対して442をぶつけてくる意図やいかに。近年ではそこに強力なアタッカーがいるのでチームとしてクオリティ高く洗練されているという評判は良く聞く。長谷部監督のサッカーは個人的に非常に好み。シンプルで強い。ごくごく個人的な理由で湯澤には注目している。つくばFCが育てたJリーガー。

で、そんな屈強442を破壊するのに最適な新潟式ビルドアップなのでノーモア浦和戦という感じで試合を運んでくれるかどうかを見所に設定しておく。

そして前半。これは福岡の守備が強すぎて困った。本当に困った。普通に強い福岡。この試合は新潟のビルドアップ含む攻撃よりも福岡の守備に意識を傾けて観ると面白い。

442の中央を割ることからスタートする新潟式ビルドアップなのだが福岡は2トップ裏のヤンを消しつつ秋山をフリーにさせないという超中央締め縦横コンパクトブロックを敷いてくる。中央コンパクトならサイドが空くので当然サイドを使う新潟なのだが、新潟がサイドにボールを逃すとブロック全体を高速スライドさせて詰めてくる。こうなると新潟は中央にボールを戻して伊藤ターン炸裂というのが従来だったがそもそも伊藤が受けることができるスペースが存在しない。圧縮守備強い。

さらに福岡の罠もここに仕込まれている。伊藤を埋めてヤンをわざと浮かせると浮いたヤンにボールを戻したくなるのは新潟。そこを一気に刈り取る福岡。素晴らしい守備戦術、素晴らしい442ゾーン守備。

紺野のPKについてはそれまでも押し込んだら積極的にボックス内でボールを持つという意識強めの福岡だったので狙い通りといったところ。紺野も自分の武器で強い気持ちの突撃。セットプレイも強い福岡。

新潟はゴール前まで押し込めば期待感が出てくるものの福岡の守備が強すぎてそこまで辿り着けない。この福岡を新潟式で打ち破れたらチームとして一段上に行けるはず。

そして劇的な後半と試合終了。とんでもない試合になった。伝説が生まれた。最高すぎる。涼太郎は代表に呼ばれるしかない。改めて最高。

福岡の掌で転がされていた前半だったが後半は新潟の自陣であれこれせずにサイドが空くならダイレクトに奥深くに付けてしまえというとこで大外タッチライン際の太田ダニーロに直接預けて福岡のブロックを無理矢理下げさせる。この形になると福岡の2トップが空気となるのでブロックの強度も下がりスペースも生まれた。その結果として新潟は後半にリズムを作って押し込む形が大増量。

インタビューは涼太郎が珍しく感情的になっていてこっちまで涙出そう。阿部がノリノリで勝利後パフォーマンスを考えてる。 胴上げされる涼太郎。素晴らしい!

これは素晴らしいフットボールで素晴らしいエンターテイメント。良い週末。何度でも最高!


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。