新潟式ビルドアップ2023解説(入門編)
2023シーズンの開幕戦を踏まえてアルビレックス新潟のビルドアップを整理しておきたい。シーズンが終わる頃に読み返してどういう進化を遂げたのかという記憶を辿るためにも記録しておく。
ちなみに、以前書いたスペイン式ビルドアップの解説を読み返したらメチャクチャ内容が古くなっていたので恥ずかしくなったというのは内緒だ。モダンサッカーのトレンド流れるの速すぎ。
基本フォーメーションは4231
スタメン紹介なんかで出てくるフォーメーションとしては4231になるが、ビルドアップに関しては全ての選手が流動的に動くので4231の数字は意味を成さないし守備は基本442である。
モダンサッカーのセオリーどおりの動きと言ってしまえばそれで終わりになるのだが、センターバックは2人で担うというのは揺るぎないシステムとなる。いわゆる4バックが新潟の基本フォーメーションである。
まずは戦術盤で確認しよう。
新潟のビルドアップの特徴はボランチ2人のポジショニング。最後方からボール供給先となる2人のポジショニングである。
高(愛称ヤン)と島田は都度役割を交代するのでどっちが何をやるというのは流動的に決まっていくが、ヤンが相手守備1列目の真ん中にポジショニングする頻度が高め。
この配置がなぜ有効なのかという話をしなければならないが、その前に攻撃の基本を軽く頭に入れておこう。
ゴールへの最短距離は中央突破
サッカーは相手よりゴールを多く奪えば勝ちというルールのゲームである。ゴールを奪わないことには勝利できないのがサッカーというゲームだ。いかにしてゴールを奪うかということに着目するのが勝利するために考えなくてはいけないことである。
ゴールはピッチ両端中央に設置されているので守備が誰もいない状態であればボールを中央まっすぐに運べば最短最速で辿り着ける。実際には守備が10人いるので中央をまっすぐ突き進んでゴールに辿り着くというのは困難極まりないが不可能ではない。
この考え方を基本とすると、攻撃する時にボールはなるべく中央に置きたいし守備も中央を塞ぎたくなる。サッカーというゲームにおいて中央というのは攻撃側は積極的に獲りたい陣地、守備側は絶対に守りたい陣地となる。
中央突破が効率的なら超絶ドリブラーに6人抜きしてもらえば良いんじゃない?という発想になるが、街一番の神童が躍動する少年サッカーでもない限りそういったプレイは成立しない。あっという間に潰されて終わるのが現実である。
こういった事情があるので、あれやこれやしてサイドの深い位置からクロスを中央に蹴り込んでゴール正面にボールを供給するという作戦を使う必要が出てきたりする。最後の最後はボールを中央に運ばないとゴールは奪えない。
この基本を踏まえてヤンのポジショニングを再確認してみよう。
相手守備を中央に寄せるボランチのポジショニング
攻撃は中央から攻めたい、守備は中央を塞ぎたいという状況でボールが中央に入るとどうなるか。当然、守備はボール付近の中央を閉めることになる。この守備の動きを逆手に取るのがヤンのポジショニングである。
ヤンにボールを入れると守備がボールを奪いに来る。奪いに行かなければボールを持った状態でターンされて中央から前進されてしまうので当然の行動となる。守備側はヤンに体を寄せてボールを入れさせないようにしなければならない。
キーパーやセンターバックが後ろでボールを回す理由の一つとして、この形を作るのためというのがある。この形になれば大外のレーンやハーフスペース(ピッチを縦5分割にした時の2列目のレーン)にフリーでボールを受けることができる誰かが生まれるのは必然だし、島田をヤンの横に置いておくのはこの形を作るためでもある。
この形を作るのが新潟ビルドアップのファーストチョイスとなる。こうやってヤンにボールを出し入れして守備の意識をヤンに向けさせておくことで次の一手が打てるようになる。
新潟はこの形が作れるまで何度でもやり直しを行うので、結果としてバックパスの頻度が高くなる。センターバックもキーパーも全員が確かな足下の技術を持っているのでボールを奪われることはない。マイケルはたまにやらかすけどなんだかんだでリカバリーしてくれる。
新潟のセンターバックとキーパーにはこのスペックが要求されるし、足下の技術は新潟に限らずモダンサッカーではセンターバック&ゴールキーパの必須要件となっている。
圧倒的優位を作り出すボランチ
ここまではヤンが相手の守備の間に立つという仕組みだが、同じ仕組みを用いて更に嫌らしいビルドアップが可能となる。
ヤンが守備の間に立つと超絶タックルや先読みインターセプトを受けてしまう可能性がゼロではない。そういったリスクを回避しつつ守備を中央に寄せることができれば更に効果的だ。そして、その効果は守備の背中に立つことで容易に発生させることができる。
守備は後ろにいるヤンに縦パスが入ってしまうことは絶対に阻止しなくてはいけないので閉めるしかない。かといって閉めるとハーフスペースに鎮座するフリーの島田がいるし右サイドには広大なスペースで動き回れそうな右サイドバックの藤原もいる。
閉めなきゃいけないんだけど閉めると他のリスクが発生してしまう。閉めるか閉めないかという二択を一方的に押し付けることができるのである。迷いが生じればプレイの精度も欠ける。二択押し付けは本当に素晴らしい。
こんな感じでボールを握ってしまえば配置だけで主導権を握ることができる。これが新潟ビルドアップの特徴である。
大外レーンとハーフスペース
大外レーンとハーフスペースについてはモダンサッカーの必修科目となるのできちんと押さえておこう。
ハーフスペースとはピッチを縦5分割した内側2列のエリアのことを言う。元はドイツ語で英語に翻訳された際に生まれた言葉らしい。他のエリアは大外レーンとか中央レーンとか好きなように呼んだら良い。
では、なぜハーフスペースなのか。大外を爆速サイドアタッカーで突き抜けた方が効率的ではないのか、という疑問もあるだろうが答えはシンプルだ。中央レーンの次にゴールに近いエリアだから活用するということになる。
そして、このエリアに守備人員を配置してしまうと中央や大外にスペースが生まれてしまうので安易に守備を配置できないという制約を課すことができる。いわゆる配置で殴るという状況を作り出すことが可能になる。
この状況は結果としてハーフスペース、大外レーン、中央レーンに配置されたビルドアップ要員で常にトライアングルが形成されることになる。このようなトライアングルを作ると必然的に3対1または3対2の状況を生み出すことができる。
いわゆるロンド(鳥籠パス回し)の形が成立するし、新潟もバルサも毎日ロンドをトレーニングに組み込んでいる。こうやって理論と実践を噛み合わせているのが俺たちの新潟なのである。理論だけでは成立しないサッカーだということは明記しておく。
ハーフスペースには他にも様々メリットが多いのだが、それは大外&中央との関係性あってこその話である。この関係性を効果的効率的に構築しているのが新潟のビルドアップである。
というあたりで入門編とする。
実際には伊藤涼太郎の落ちる動き、偽9番やレイオフと呼ばれるプレイ、藤原ロールなんかを都度組み合わせて守備を崩しながら前進するのだが、それは長いシーズンの中で都度事例紹介して行こうと思う。
対3バックという大枠の話もしなくてはいけないのだが3バック戦術はここ1〜2年で一気に進化しているのでこのタイミングで書くのはやめておく。どんな3バック戦術が今シーズン編み出されるのかはいちサッカーファンとして楽しみな部分でもある。
以下は新潟式ビルドアップの補足情報として読んで頂きたい過去noteとなります。
観て楽しいアルビレックス新潟のサッカーなのです。
「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。