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あなたは愛される。愛されることから逃れられない

「好きかどうかわからない」で付き合った恋人たちの末路【おまけ①】


恋人にフラれて傷心していたころ、「14歳の栞」という映画を見た。
とある中学校のひとクラスに密着したドキュメンタリー映画。
その中のワンシーンに映った言葉が、頭から離れなかった。

授業で使う黒板とは違う、教室の片隅に置かれた小さめのボードにはこう書かれていた。

あなたは愛される
愛されることから逃れられない


ドキリとした。鼓動が速まった。
映画を観終わった後も、胸のざわめきがおさまらなかった。

家に帰って調べてみると、それは詩人・谷川俊太郎の詩の言葉だとわかった。

すでに絶版になっている詩集に収録されているらしい。
Amazonで検索したら、中古で販売されているものがひとつだけあった。
衝動で購入した書籍が手元に届いた時、言いようのない感動に襲われた。

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こうした奇跡的な出会いが稀に起こる。
人生の妙とはこういうところにあるのだとつくづく思う。


休日の昼下がり、フランスで買った紅茶と近所の食べ慣れたケーキを用意して、頭のページから丁寧に読み進める。

「あ、あった」

詩集の中程、あの言葉と再開した。
「やわらかいいのち」と題されたその詩は、こういうものだった。

あなたは愛される
愛されることから逃れられない
たとえあなたがすべての人を憎むとしても
たとえあなたが人生を憎むとしても
自分自身を憎むとしても
あなたは降りしきる雨に愛される
微風にゆれる野花に
えたいの知れぬ恐ろしい夢に
柱のかげのあなたの知らない誰かに愛される
何故ならあなたはひとつのいのち
どんなに否定しようと思っても
生きようともがきつづけるひとつのいのち
すべての硬く冷たいものの中で
なおにじみなおあふれなお流れやまぬ
やわらかいいのちだからだ

(谷川俊太郎詩集『魂のいちばんおいしいところ』より一部抜粋)


ぽろぽろと、私の中で何かがはがれ落ちていった。
それは呪縛のようなもの。
私はだれからも愛されることなんてないという、自らにかけた呪いのようなもの。
心の一部に閉じ込めていた冷え切った感情が、谷川俊太郎の言葉によってふたたび鼓動した。


もう誰からも愛されないと思っていた。
それは私の中で確定事項に近かった。
片想いした人にフラれ、恋人にフラれ、この世に私を愛してくれる人なんて存在しないと思っていた。
俊太郎はそれを否定した。たった2行の言葉で。

「あなたは愛される」

そう断言されると、どうしようもなく安堵した。


言葉に救われてきた人生。

私の人生を問われれば、そう答えることが最も的確であると思う。
人生に迷い、悩み、傷つき苦しむ時、ことあるごとに言葉によって救われてきた。

出会うべくして出会ったかのような言葉たち。
人は求める時に求める言葉と出会う。それが人生を変えてしまうほどの強烈なインパクトを残して、記憶と共に心に刻まれる。

俊太郎、ありがとう。
言葉たち、ありがとう。

私は愛される。

あなたは愛される。



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