見出し画像

「インタビュー形式」にもう頼らない!企業公式noteの書き分け方

企業が運用するnoteアカウントを訪れると、なぜか「インタビュー形式」で記事が書かれていることが多いことに気づきます。

もしあなたが社内編集者(インハウスエディター)や広報担当者であれば、きっと「あぁ、確かに」と同意してくれるんじゃないかなと思います。

私が初めて企業(団体)の公式noteを読んだのは、下記のTHE GUILDさんの記事で、その時の感動はいまでも鮮明に覚えています。

Twitterでは断片的にしかわからなかった、THE GUILDの活動や思想のほか、深津 貴之さん市川 渚さんのパーソナルな部分も見えてきて、こんな記事が世の中にあふれたら、個人と企業のステキなマッチングが増えるんだろうなとワクワクしたものでした。

それから数年が経ったいま、私は少し残念な気持ちがあります。

「何だろう。企業のnoteって面白くない……」
「あの頃に感じたワクワクはどこへ行った?」

1つの理由は、当時は珍しかった企業noteがコモディティ化(市場価値が下がり一般化した)ことだと思います。とはいえ、まだまだ面白いnoteはあるので、単純に「企画の問題」ということはありそうです。

でもそれ以上に、もっとクリティカルな問題があると思っています。それが「インタビュー形式」の記事が多すぎることです。

私個人の感覚の話ではあると思うのですが、「わかるかも……」と少しでも共感があるようならば、ぜひ読み進めてほしいなと思います。

「インタビュー形式」はつまらない?

━━まずは入社理由を教えてください。
〇〇:私は以前、営業の仕事をしていました。その時に、もっと自社のことが世の中に認知されていたらと思うことが何度もあったんです。この課題を解決したいと思っていたタイミングで、・・・・・

上記にインタビュー形式で書かれた「記事サンプル」を載せてみたのですが、率直にどんな印象がありましたか? 私は正直、顔も名前も知らない、赤の他人の入社理由に、ぜんぜん興味ないぞ……と思ってしまいます。

もちろん、タイトルやリード文の工夫次第で、読ませること自体は可能だと思っています。でもそれ以前の部分で「なんか違う感」ありませんか?

この違和感を捉えるために、まず考えたいのが「インタビュー形式の本質」を知ることかなと思います。大ベストセラー『嫌われる勇気』のライターである古賀史健氏は、著書『取材・執筆・推敲──書く人の教科書』の中で、次のように説明しています。

多くのライターは考えるだろう。インタビュー原稿においては「何を訊くか」が重要なのだと。質問の精度を高め、読者の知らないことを的確に訊き出し、それを平易かつコンパクトにまとめていくのが、ライターの役割なのだと。残念ながらこれは、インタビュー原稿の本質をなにもわかっていない人の発想だ。(中略)
インタビュー原稿のゴールはどこにあるのか? その人の「言いたいこと」を察知して、的確に聞き出すこと? 違う。そんなこと、できるはずがない。できると考えるのは、ライターとしてかなり傲慢な発想だ。ぼくの考えるインタビュー原稿のゴールは、「その人のファンになってもらうこと」である。
『取材・執筆・推敲──書く人の教科書』(ダイヤモンド社)page.288~page.291

企業noteを書く「中の人」にとってこれは、非常に耳の痛い話ではないでしょうか。なぜなら多くの場合、記事を通して「ファン」になってもらうというよりも、人を通して企業内の「情報」を伝えるための記事を書かなければいけないケースがほとんどだと思うから……。

また、古賀氏の提言から、企業のオウンドメディア(note)に見られる「インタビュー記事」の違和感の正体が見えてくる感覚もあります。

インタビュー記事って、

  1. 「気になる人」のことをもっと知りたい

  2. 「気になる会社」の中の人を知りたい

  3. 「気になるあの話題」を本人の口から聞きたい

といった、「気になる〇〇」が枕詞に付くときに、もっと読みたいと好奇心が湧いてくるものではないでしょうか?

具体例と共に、それぞれのパターンを確認したいと思います。

◆「気になる人」のことをもっと知りたい

2017年の記事です。当時「ゆうこす」の名前があちらこちらで聞こえ始めた時期でした(私にとって)。なので、この記事は読んじゃいました。芸能人や有名な経営者の場合にインタビューはやはり有効です。

◆「気になる会社」の中の人を知りたい

こちらも2017年の記事。取材先である木村石鹸さんは、当時私の中で「気になる会社ベスト10」に入っていました。その中で働く、敏腕・新人マーケターの峰松加奈さんのお話がとても面白かった。

◆「気になるあの話題」を本人の口から聞きたい

2022年10月の、比較的新しい記事。正直この話題に触れるメディアがあるのか、しかもご本人が取材に応じたのかと、個人的に衝撃的な記事でした。


気になるあの人、あの会社、あの話題を切り口に、取材対象者のことが少し気になりだす、もっと知りたいと思い始める、ファンになる、場合によっては、社会的に許そうという心が芽生える……。

そういう感覚を作り出すことが「インタビュー記事の役割」だと思います。

言い換えると、事前に「気になる〇〇」を醸成しないかぎり、インタビュー形式の記事を読ませるのは難易度が高いのでは? ということです。その工程を無視して、いきなり「社内の〇〇さん」を登場させても、その記事を読みたいと思ってもらえる可能性は低いように思えます。

そう考えていくと、

・資金調達直後のCEO or CFO インタビュー
・業界で話題の「成功事例」の担当者インタビュー

のような、気になる要素との掛け合わせは、企画としても筋が良いのではと思うのです。ただ、ここで考えたいことがもう一つあります。

それは……

「その記事、本当にインタビュー形式じゃないとダメですか?」


人称・体裁で書き分ける「記事の魅せ方」

note運用に積極的なベンチャー企業やスタートアップの場合、広報担当者が記事を書くケースも多いと思います。

その時に、他社事例を参考にしながら「あの会社もインタビュー形式で書いているから、うちもそうしよう……!」と思考停止になっていないか、一度振り返ってもらえたらと思います。

企業noteの、記事の書き分け(人称・体裁)では

  • 一人称(ゴーストライティング)

  • 一人称(第三者MIX)

  • 対談形式

  • 座談会形式

  • 第三者視点(です、ます調)

インタビュー形式以外に、少なくとも上記「5パターン」の検討余地があると考えています。

記事の書き分けのポイントをご紹介

1)一人称(ゴーストライティング)で書く場合

「この人が書いたnoteなら読みたい」と思われている人(場合)は、一人称でのゴーストライティングがお勧めです。経営者のほか、TwitterなどのSNSのビジネスインフルエンサーなどが該当します。

2)一人称(第三者MIX)で書く場合

MVVの発表やCxOの就任挨拶のような場面で有効です。個人の語り口のほうがきっと読まれるけど、会社からの公式発表感は出したいな~、という場面でお勧めです。

3)対談形式で書く場合

対談記事は、話者同士の掛け合わせによる「科学反応」が期待できる場合に有効な書き方です。インタビュー形式にすると退屈な印象が出るかも……と懸念がある場合にも、対談風のインタビュー記事にするのはアリです。

4)座談会形式で書く場合

多様な意見が集まる様子や、会社・メンバーの雰囲気を伝えたいときに有効な方法です。話者が増える分だけ文字数も増える傾向にあるので、トピックは1つだけにすると、まとまりが良いと思います。

5)第三者視点(です、ます調)で書く場合

イベントレポートのほか、部署やチームを紹介するようなシーンでもお勧めです。一人称だと文章ボリュームが出すぎてしまうトピックを、コンパクトにまとめる力もあるので、サステナビリティレポートや統合報告書などの、かっちりとしたレポートを紹介する際にも使えます。

「一人称(ゴーストライティング)」の具体例

こちらの記事は、Thirdverse代表の國光 宏尚さんの「個人noteアカウント」で公開されていますが、私としては企業公式noteであっても問題なく使える方法じゃないかなと思います。

なぜなら、この記事の最後に、ライターさんやフォトグラファーさんなど、取材協力に関わった方々のクレジットが入っているからです。一人称の記事=個人noteアカウントという、無意識の公式を崩せると思います。

「一人称(第三者MIX)」の具体例

リード文では、書き手である広報担当者、またはnote編集部が導入の文章を「第三者視点」で書いています。それが本文では、一人称(私は~)の形で綴られる構成になっています。

なぜインタビュー形式ではなく「一人称」を推すのかというと、noteの発信文化が「個人の体験や想い、熱量を伝えるもの」だからです。私としては、可能であればできるかぎり「一人称」で書いたほうが、読まれやすくなるのではないかと思ってます。

「はじめまして!」「こんにちは!」から始まる文章って、プロのライターは基本的に使いません。でもぶっちゃけ、そういうカジュアルな記事のほうが親しみがあって読みやすいんですよね……(個人的に)。

「対談形式」インタビューの具体例

インタビュー記事って、なぜかこう書きがちですよね(↓)

「──新経営体制に移行して、〇〇さんは執行から離れることになりました。創業者としての区切りを迎えた、今のお気持ちは?」

でも、一度立ち止まった考えてみてほしいのです。本当に聞き手は「──」でベストでしょうか? ほかに最適な聞き手がいれば、ちゃんと質問者の名前を出したほうが読みやすくなるケースは多々あります。

インタビュー取材の調整(時間・場所・ヒト)で大変なこともあると思いますが、中長期資産(ストック)になることを思えば、ちょっと頑張ってみる価値はあるのではないでしょうか?

「座談会形式」で演出する具体例

硬めのものと、柔らかめのもの、二つの記事をご用意しました。

KIRINさんの記事は、企業としての役割を真剣に会話するもの。LINEマーケティングソリューションカンパニーさんは、パパママの育児両立について、ゆるくお話をされています。

「第三者視点(です、ます調)」の具体例

こちらも二つの記事をご用意しました。

ベルパークさんの記事は、新入社員の方のお話を採用担当者の目線で語っています。ついインタビュー形式で書いてしまいそうですが、あえて紹介形式で書いているんですね。

noteは語り口が「個人」のほうが親しみをもって読めるので、あえて第三者の視点で書くほうが読みやすいと個人的には思っています。

リノべるさんの記事は雑誌みたいで心地いいですね。企画も紙媒体に載っていても不思議じゃない内容なので、すっと読めてしまう。

ちなみに、企業noteで書く場合は「です、ます調」がお勧めです。

「だ・である調」は、急にメディア感が出るので、アンダーアーマーさんのようなスタイルを目指さないかぎりは控えるのが無難です。

(↑)おしゃれな新聞を読んでいる気分。メディアっぽい!

「なぜインタビュー形式か?」を再考する

ここまで5パターンの「インタビュー形式以外」の記事スタイルを提案してきましたが、あくまで代替案であり、否定しているわけではありません。

インタビュー形式だからこその、メリットもあります。1つは各ブロックの要素が明確になるので、初心者でも書きやすいこと。

──入社動機を教えてください。
〇〇:社長がステキな方だったからです…!

──どんなお仕事をしていますか?
〇〇:カスタマーサクセスの一員として、解約率を落とさず、アップセルにつなげる仕事をしています!

という具合に、どこに何が書いてあるか判断しやすいんです。文章を書くのにまだ慣れていない広報担当者の場合に、確かにお勧めできます。

ほかにも、他社で運用しているnoteもインタビュー形式が多いため、参考にできる教材が多いのもメリットだと思います。タイトル、リード文、写真の選び方、プロフィールの書き方、記事の構成などなど、インターネット上にかなりの量のナレッジがたまっていると思います。

とはいえ、これはネガティブ寄りのメリットであるのも事実です。

インタビュー形式をあえて選ぶのは、人を介して会社の情報を伝えるのではなく、会社からの情報をきっかけにその人の「ファン」を作りたいと思ったから。これぐらいの根拠・理由が必要だと思います。

また、すでにSNSやメディアの力で「気になる〇〇さん」という状態を作れている場合は、そのファン度をさらに高める意味で貢献できそうです。

おわりに

私は、世の中のみんなが、もっと幸せに働ける世界が実現したらいいな~と常々思っています。

そのためには、個人の「やりたいこと」と、企業の「やっていること」が、きれいにマッチングすることが重要だと思っています。その場合、企業側が過不足なく「広報」をしていることは大切なポイントになるはず。

でも、せっかく広報していても「読まれないnote」では、せっかくの情報も届かないんですよね。

冒頭でお伝えしたように、私がTHE GUILD さんの記事を初めて読んだときのような感動が、これからもたくさん、note上や各社のオウンドメディア上で起こったらいいな……。

そんな願いを込めて、この記事を書かせていただきました。

拡散設計については下記のnoteにしたためていますので、良かったら併せてご覧ください。今後の広報活動に、少しでもお役に立てるようでしたら幸いです。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

この記事が参加している募集

noteの書き方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?