見出し画像

#01 ある朝、突然

「あなた、逮捕されるみたいですよ」
ある日突然、全く身に覚えが無いのに、
そんなことを言われたら、
あなたは、信じることができますか?
そして、何ができるのでしょうか。

私には、その日が突然訪れました。
私の前に最初に現れたのは、警察官ではなく、駆けつけた報道陣でした。

>>>>>>>>>>

2014年6月24日、美濃加茂市長就任から1年。
私は岐阜県美濃加茂市蜂屋町の田畑に囲まれた静かな実家に住んでいました。
まだ薄暗い早朝、母親の声で飛び起きました。
「...ちょっと!外見て!」
時計は4時を少し過ぎていました。
カーテンの隙間から覗いた光景は今でも鮮明に目に焼き付いています。

何台もの黒塗りの車、道路いっぱいにひしめき合う人たちが、家の前の田舎道を慌ただしく埋め尽くしていました。何が起きているのか理解できない私の目はすっかり覚めてしまい、全身から血の気がひいていきました。

(早朝、こんな状況がこのまま続けば、お世話になっている近所の皆さんに迷惑がかかってしまう)
私は、急いで身支度を始め、まずは、この場所を離れることを考えました。
秘書や副市長と状況を確認しようと電話をかけてみましたが、まだ未明の時間、流石に誰も電話には出ませんでした。

顔を洗ったか、歯を磨いたかも記憶にありませんが、ワイシャツのボタンを締めながら、市役所へ向かうために玄関を出ました。
無数のフラッシュが私に浴びせられたその様子は、テレビで見た有名人のスキャンダルそのもの。マイクやカメラをもっている人、腕に腕章をつけている人、私の家の周りにひしめき合っていたのは、すべて、報道関係の人たちでした。

市役所の表玄関はまだ施錠されている時間。駐車場に入ることができないので、車を裏口に付け、職員専用口から市長室へと向かいました。市役所にも大勢のマイクやカメラを持った報道陣が詰めかけており、異様な雰囲気となっていました。私の後ろを追って、職員専用玄関から報道陣たちが無理矢理入ってこようとしているのを守衛さんが何とか抑えていました。

市長室に入ってすぐ、ニュースサイトを確認しましたが、特に私に関係するような情報は何も出ていませんでした。とりあえずテレビをつけてみると、サッカーW杯ブラジル大会の真っ最中、「ブラジル対カメルーン」の好カードが薄暗い市長室を照らしていました。

早朝に電話をした副市長、秘書担当者からの折り返しの連絡は未だに無いままでした。市長室の窓からは、市役所駐車場に、黒塗りの車をはじめ、多くの報道陣がどんどん集まってきているのが確認できました。

しばらくして、私の携帯電話が鳴りました。

Y刑事「愛知県警のYと言います。(以下Y)藤井市長の電話ですか」
私「はい」
Y「ちょっとお話を聞きたいんですが、お時間いただけませんか」
私「何の話ですか」
Y「内容の前に、とりあえず同行いただけませんかねー」
私「今日は朝から公務があるので、職員が来てから検討させてください」
Y「そうですか。でも、このままでは、報道陣がどんどん増えて、市役所が大変なことになってしまいますよね。とりあえず応じたほうがいいんじゃないかな」
私「こんな騒ぎにしたのは、あなたのせいですか?記者たちはあなたが呼んだのですか?」
Y「...」
私「とりあえず、一度切ります」

未明に、私の住んでいた家や美濃加茂市役所に無数の報道陣が集まるよう仕向けたのは、警察によるものでした。
これが、情報リーク。我が身をもって知ることになりました。
警察から報道関係者へ、ある情報が流されていたのです。

それが、どんな情報なのか。
間も無くして、私も知ることになりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?