タオルミーナのアパートメント_エアビーのサイトから_

安い!広い!面白い! 欧州民泊漂流記

(こちらは新潮社フォーサイトでの連載を再構成したものです。転載を快諾いただいた編集部のご厚意に感謝いたします)

「ウチはもう、家族旅行はエアビーばっかり。民泊ね、民泊」

ある夏の日のロンドンのオフィス。現地スタッフのお姉さまがふと漏らしたつぶやきが我が家の欧州漂流の旅を一変させるとは思いもしなかった…。

「高くつくのが悩みで……」

というほど大げさな話ではありませんが、私の家族は2016年春から2年のロンドン駐在期間中、かなりアチラコチラへ旅行に行きました。その際、大変重宝したのがAirbnb(エアビー)などのいわゆる「民泊」でした。

冒頭のセリフは、2016年の夏にイングランドとスコットランドを自家用車でぐるりと回る家族旅行から戻った私が、「イギリスは高速料金はタダ(なんですよ!)でいいけど、ホテル代が高くつくのが悩みで……」とこぼしたのに、旅慣れたお姉さまが授けてくれたアドバイスです。

高井家は夫婦プラス三姉妹の5人家族で、「1部屋2人」がデフォルトのホテルは不便なんです。
正直、「民泊って、どうなのよ」という偏見のようなものがあったのですが、試してみると「これは面白い!」とすっかりハマってしまいました。

ヘビーユーザーには「何を今さら」という情報でしょうが、ささやかな経験をもとに欧州の民泊事情の一端をシェアしてみたいと思います。
なお、紹介する宿泊先にはホテル予約サイトBooking.Comを通じてみつけたところも含みます。少なくとも欧州では、民泊とホテルが「同じ土俵」に乗っかっています。

1.はじまりはアルハンブラ

私はビビり体質なので、最初に試したのは民泊とホテルの中間的な「アパートメント貸し切りタイプのホテル」でした。
2016年末のことで、行き先はスペインのグラナダ。アルハンブラ宮殿と旧市街のアルバイシンをお目当てに、往路のトランジット観光でバルセロナのサグラダファミリアも見て回りました。
メジャーどころなので観光の詳細は割愛しますが、アルハンブラは我が家で屈指の人気スポットであります。

グラナダで宿泊した「オロ・デル・ダロ・スイーツ(Oro del Darro Suites)」は超高評価の人気宿。チェックインは常駐スタッフ(英語、通じます)がいるフロントで済ます形式で、ベッドメーキングや朝食などのサービスは無し。このときの部屋が素晴らしく、「ホテルより断然アパートメント!」という高井家の志向を決定しました。

天井が高く、広々とした部屋に配された欧州らしい素敵な家具と内装。
ダブルのベッドルーム2つに、リビングには2人がゆっくり寝られるキングサイズのソファベッド。
調味料まで備えたキッチンで本格的な自炊も可能。
ロケーションも最高で、アルバイシンの裾野にあって玄関を出たらダロ川越しにアルハンブラ宮殿が見え、市街中心部までも徒歩5分。
日本流に言うと3LDK、90平米ぐらいの広さで1泊2万円ほどでした。

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(宿のサイトより)

家族にも大評判で、この旅を機に私は密かに「家族旅行はコスパ重視の民泊系で攻めて、良いホテルは出張のときに1人で楽しもう……」と決心したのでした。

2.花のパリのアパルトマン

高井家の民泊本格デビューは、2017年5月に行ったパリ。奥様の誕生日プレゼントを兼ねた旅行でした。

行きのユーロスターでお隣になったロンドンで働くパリジェンヌ、イレーヌさんと仲良くなり、アニメファンのイレーヌさんの友人が「亀」の紋章入りのドラゴンボールのコスプレ姿でパリ北駅で合流するという謎の幕開けとなったこの旅。
宿の最寄りのサン・シュルピス駅に向かう地下鉄が運行停止で困っていたら、イレーヌさんと亀仙人の弟子が隣駅まで案内してくれて、迂回ルートで無事に宿に到着しました。イレーヌさんには「パリで一番おいしい」というノートルダム大聖堂近くのアイスクリーム屋さんも教えてもらい、実際行ってみると、行列のできる人気店で激ウマでありました。

閑話休題。
セーヌ川の南、レンヌ通り沿いのアパルトマンは、ルーブル美術館とモンパルナス駅のほぼ中間に位置していました。散策がてら徒歩でも観光地にアプローチできるし、地下鉄の駅はすぐそこ。モンパルナス発の電車でベルサイユまでのアクセスも楽ちんということで選びました。
ファミリールームがあるホテルは数が少なく、ロケーション選択の自由度が低いのが難点ですが、その点、民泊ならパリ中心部だけでもどれを選んでよいか困るほどそこら中にあります。宿泊先セレクトのノウハウは後ほど。

民泊の面白さの1つに「チェックインまでのプチ冒険感覚」があります。
ホテルのように看板が出ているわけではないので、宿を探すのに一苦労するのが、ちょっとワクワクするのです。
パリの大通りの町並みは、綺麗に高さがそろった6~7階の建物が並び、1階部分にお店やレストランが入っているというのが典型的なパターン。
このお店などの合間合間に大きな扉があります。その奥から上層階につながるエントランスや中庭などにアクセスできるようになっているケースが多い。

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(パリの通り沿いの扉。この奥に中庭がある)

駅を出て、住所を頼りにレンヌ通り沿いを「どこだどこだ」と家族でウロウロと探しました。
ようやく見つけた高さ3メートルほどもある重厚な木製の扉を押し開けると、そこは薄暗いトンネルのような空間。車がひっきりなしに行きかう大通り沿いでも、一歩入れば静かな別世界があります。目を上げると、テラスのようなオフィススペースでは何人かが談笑していて、表通りの喧騒とは違う時間が流れています。

「全員集合」の楽しさ

民泊独特の「カギを探せチェックイン」も初体験しました。これもちょっとしたゲーム感覚があります。
このアパルトマンの場合、前述したトンネル風のホールにナンバーロック式のポストがあり、メールで教えてもらっていた番号を入力するとカギをゲットできるというシステム。子どもたちにも「なにこれ面白い」とウケてました。
ちなみにもう1つのパターン「お出迎えチェックイン」は部屋の使い方の確認と一緒に宿の周辺情報を仕入れられるメリットがあります。

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(アパルトマンの室内。簡素でオシャレな落ち着く内装)

部屋の間取りは日本風に言うと2LDK。シンプルながら素敵な内装で、冷蔵庫にはウェルカムワインが。5月にしてはかなり暑い日だったのですが、予め冷房まで効かせてある気配りに感心しました。
これでお値段はもろもろ込みで3泊500ポンド、7万円ほど。物価感覚による体感レートは1ポンド100円ぐらいなので、非常に割安な印象です。

観光はベルサイユ宮殿、ルーブル美術館、凱旋門、エッフェル塔、セーヌ川クルーズ、ノートルダムなどなどお上りさんコースまっしぐらでしたので、詳細は割愛します。

アパルトマンが便利だったのは、常に「全員集合」状態なこと。
朝ごはんはそろって近所で買っておいたパンを楽しみました。ホテルやカフェの朝食は無駄に高いので、これは美味しい&経済的。街で美味しそうなパン屋を物色するのも楽しいものです。
1日の終わりに家族とゆっくり団らんもできます。
その日の感想やちょっとした失敗談、撮った写真の交換、翌日の作戦会議などなど、ソファやベッドでゴロゴロしながら、リラックスした時間を過ごして、高井家名物の「旅の記録ノート」に感想や日記をつける。
旅から刺激を受けた子供たちの新鮮な喜びの声を聞くと、ツアコン役のお父さんとしても報われた感が得られて、とてもグッド。
やっぱり家族は、バラバラより、一緒の方が楽しいですよね。

ちなみにこの時は「宿で荷物をピックアップしてユーロスターが発着するパリ北駅まで運んでくれる」というサービスも利用しました。チェックアウト後、最終日に身軽に観光できます。少々お高いですが、「時間を買う」と思えばリーズナブル。こちらもオススメです。

3.ダブリンの広々アパートメント

パリですっかり味を占めた高井家は、2017年の夏のアイルランドのダブリンから英領北アイルランド・ベルファストへと巡ったアイルランド島ツアーでも「エアビー」を使いました。

「外さない」ためのノウハウ

ダブリンも「カギを探せ」方式。宿を探すのも、キーボックスを見つけるのも、やはり、ちょっと楽しい。
しかも、このミッションをクリアした先には、想像以上に広々とした豪華な部屋というご褒美が待っていました。

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(広々としたリビングでくつろぎまくる女性陣)

階段で3つのフロアが連結されている変則的な間取りで、5人がゆったり寝られるベッドと、7~8人で過ごせる広いリビングとバルコニー。100平米を優に超えるこのアパートメントで、2泊のお値段は390ポンドほど。清掃など諸経費が90ポンドほどかかっているので、宿泊費だけなら1泊150ポンド、2万円ぐらいです。
女性陣からも「めっちゃ広い! さすがサミオ!」と絶賛の嵐。
「サミオ」は私の家庭内ニックネームですが、由来は長くなるので割愛。

ここで、エアビーで「外さない」ための私流のノウハウをご紹介します。

エアビーのサイトは、日程と都市を入れると候補の部屋が出てきて、条件を加えて絞り込むというのが基本的な流れです。
私が最初にやるのは価格の絞り込み。
キモは「上」と「下」を両方切ることです。
1泊10万円超えの超豪華物件は贅沢過ぎるし、「雨風がしのげればOK」みたいな超格安の部屋はあまりに悲しい。いつも1泊2万円前後に検索対象を限定します。この辺りはボリュームゾーンなので、選択肢は豊富。サイトによると、ダブリンの平均相場は2万4000円ほどです。

次に「ベッドが5つ以上ある」という条件を加えます。いくらサイズが大きくても、ダブルベッドは眠りが浅くなりがち。特に旅行先ではなおさらです。

その次にロケーションを詰めます。
狙うのは「中心街・観光スポットから徒歩20~30分」の部屋。
これぐらいだとコスパが良く、散歩感覚で観光地にアクセスできて「ど真ん中」より夜は静かに落ち着いて過ごせます。
このとき、Googleマップとストリートビューを併用します。レストランや買い物の便、町並みの様子などを確認します。部屋の写真は良さげでも、グラフィティだらけの危なげな界隈のど真ん中だったり、工場地帯で周囲に買い物する場所がまったくなかったりするケースがあります。

これで10件ぐらいまで絞り込んだら、部屋の写真を入念にチェック。
写真は「盛ってある」ので割り引いて見る。
大事なのは見せ方で、観光地のイメージ写真やオシャレな小物のアップばかりの部屋は地雷臭がします。
対照的に、キッチンやバスルームをきっちり上げている物件は、ホストが部屋のクオリティーに自信を持っている傍証です。
可能なら、ベッド数が申告通りかもカウントします。これを間違えるとツアー参加者=家族の機嫌を損ねますので……。

ここまで粘着質(?)にリサーチして3件程度に絞り込んだら、家族にリンクを送ってご希望をお伺いしまして、ようやく決定となります。

「よくまあ、そんな面倒なことを」と思うかもしれませんが、慣れれば2時間ほどで済む作業ですし、バラエティーに富んだ部屋を見て回るだけでも楽しいです。

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(高井家旅行ノートよりダブリンの間取り図。階段だらけ!)

こうして選りすぐったダブリンの部屋は、定番スポットのギネス工場から徒歩5分ほど。観光用馬車(!)で中心街にもアクセスできる愉快な滞在先になりました。
偶然、宿から中心街の途上の劇場でかかっていた映画『ONCE ダブリンの街角で』のミュージカルを楽しめたのが良い思い出です。あとの観光はリバーダンス鑑賞など定番コースですので、例によって割愛いたします。

ダブリンからベルファストには鉄道で移動しました。実はこれがこの旅行の私の目的の1つでした。英国のEU(欧州連合)離脱の最大の焦点、アイルランド国境を陸路で越える体験をしてみたいと思ったのです。
が。結果から言うと、これは「企画倒れ」というか、何のイベント感もありませんでした。国境付近でGoogleマップとにらめっこしていましたが、いつ国境を越えたのか、さっぱり分かりませんでした。
正直拍子抜けしましたが、逆説的に「こんなところに国境を復活させるなんて不可能だ」と実感できました。

4.ベルファストの「スーパーホスト」

さて、ベルファストの宿です。実はこちらは、行く前から「当たり」という自信がありました。エアビー公認の「スーパーホスト」の部屋を確保できたからです。

スーパーホスト物件の確保にはホストによる承認というハードルがある場合があります。エアビーには「すぐ予約可能」な部屋と、ホスト側が承認するまで予約が確定しない部屋があります。ホスト側にゲストを選ぶ権利があるのです。

ベースにあるのは「評価経済」らしいこんなシステムです。
エアビーでは宿泊後、ゲストは宿泊体験を評価するアンケートに回答します。同時並行で、ホスト側もゲストについて評価やコメントをエアビーに提出します。両者の評価がそろうまで双方の評価は公表されないので、正直に低評価を付けても報復を受ける心配はありません。
「パーティー禁止」という部屋で近所迷惑なほど大騒ぎしたり、羽目を外して家具を壊したりする輩は、ブラックリスト入りとなります。スーパーホストともなれば、低評価の客を泊める必要はありません。泊まる側も「良いゲスト」として定評ができれば、審査を通りやすくなります。
Win Winですね。よくできています。

ベルファスト西部の住宅エリアに位置する6階のペントハウスは、さすがのスーパーホスト案件で、3方向に開けた素晴らしい展望の広々とした豪華なリビング、2つのバスルームを備えた申し分ない部屋でした。内装や家具も手入れが行き届いていて、居心地は抜群。お値段は1泊3万円ほど。

ここのチェックインは「お出迎え方式」。インターホンを鳴らすと家主さんがカギを引き渡すついでに部屋を案内してくれて、設備やセキュリティー、観光の交通アクセスなどを直接、教えてもらえます。

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リビングの眺望に家族が「うわー!」と歓声を上げると、ホストがかなりドヤ顔になったのが印象的でした。アイルランドの英語は独特の訛りがあってなかなか苦労するのですが、ホスト氏は標準的な発音で手際よくレクチャーしてくれて助かりました。ウェルカムワインも用意する周到さ。さすがスーパーホスト……。

ベルファスト観光は、定番ではありますが、「タイタニック・ベルファスト」が期待を超えて家族に大評判でした。カソリック住民の居住区を隔てる「ピースウォール」の壁画や、北アイルランド紛争の政治犯も収容されたクラムリンロードの刑務所跡地の見学など、英国・アイルランドの複雑で暗い歴史に触れる格好の機会にもなりました。

「ただいま」という気分

私が民泊で特に気に入っている点に「わが家感」があります。
エアビーは「いろんなわが家に旅しよう」というキャッチコピーを使っています。
これの矛盾しているような変なフレーズは、実にうまい表現です。
実際、2~3泊もしていると、部屋に戻ったとき「ただいま~」という気分になるのです。ホテル滞在の「前線基地に帰還した」という感覚とは、微妙な、でも大きな違いがあります。

天気が悪いときや疲れ気味で、「今日は午前中は部屋で休憩しようか」というときなんかに、この感覚の差ははっきりします。
普通のホテルの部屋だと「閉じ込められてる感」が強く、貧乏性の私は時間を浪費しているような気になってくるのですが、居心地の良いリビングやバルコニーでコーヒーやビールを飲みながら家族と過ごしていると、「ま、これはこれでアリか」という余裕が生まれます。
私は遅寝・早起きな人間なので、女性陣が朝寝している間、ゆっくりリビングでお茶をしながら読書ができるのも有難い。

さて、ここまで成功体験ばかりですが、世の中そんなに甘くはありません。2017年の夏休み後半戦の行き先、イタリア・シチリア島では、そこそこ手痛い失敗が待っていました…。

5.マフィアの島の首都、パレルモ

シチリア島旅行は空港でレンタカーを借りて州都パレルモから東海岸のビーチリゾート、タオルミーナまで回る、豪華で、ちょっと無謀な計画でした。
なにが無謀って、私は左ハンドル・右側通行の運転経験がゼロだったのです。
実際、空港でレンタカーを借りた直後、軽く死にかける逆走事件を起こしました。民泊と無関係なのでカットしますが、本当に死にかけました……。

さすがマフィアの本場

ギリシャ・ローマ時代から栄えた歴史を持つパレルモは、旧市街を歩けばタイムスリップした気分が味わえ、海岸に出れば静かな地中海が広がる素晴らしい観光地です。若干、治安が悪いのが難点。

「エアビー」で見つけたのは旧市街のど真ん中の宿。最上階7階全フロアを占める広々とした部屋は、ピカピカではないけれど雰囲気のある良いフラットで、何より素晴らしい眺望が決め手でした。

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(フラットから旧市街をのぞむ絶景)

3泊で270ポンド、1泊当たり1万3000円ほどと宿泊費もリーズナブルだったのですが、手痛い失敗をしました。
なんと、エレベーターがなかったのです。
「7階建てでエレベーターがないなんてことはないだろう」と確認を怠ったのが運の尽き。長旅の装備を詰め込んだ重いスーツケースを引っ張り上げ、石造りの階段をせっせと上りました。
熱波到来で気温が高かったのに部屋にエアコンがないのも家族に不評でした。

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(地獄の階段。まさかエレベーターがないとは…)

「あの階段はきつかった!」「夜、むっちゃ暑かった!」というのは、思い出話の定番になってますので、これも「面白さ」と言えなくもないのですが……。

もう1つの失敗は駐車場。
Googleマップで周囲にパーキングがあると確認していたものの、来てみるとどこも満車。仕方なくチェックイン前に短時間、路上駐車をすることに。これがトラブルの始まりでした。

パレルモ中央駅近くに路駐場所を見つけたら、お爺さんが寄ってきてレッカー車のイラストの標識を指さして「ここはダメだよ!」。反対側には路駐OKの標識。「危ないところだった」とお爺さんに礼を言って車を移し、部屋に向かいました。
荷物を降ろし、1人で車に戻ると、縦列の前後だけでなく、私の車にかぶせるようにライトバンが二重駐車してありました。「あ、やられた」と気づいても後の祭り。
案の定、さきほどのお爺さんがニヤニヤしながら寄ってきて、車を出したかったら金を寄こせ、と。ここで網を張るのがお爺さんの商売なんでしょう。しかしそこは駅前で、目と鼻の先の駅に交番があるのです。よくこんな場所でカツアゲを……。さすがマフィアの本場。
私がポケットから3ユーロ取り出して渡すと、ジェスチャーで「札だ、札!」と食い下がる。
イタリア語が分からないのを逆手にとって、私が「何が何だか分からん!」とすっとぼけて交番に歩きだしたら、お爺さんは慌てて携帯電話でお仲間を呼びだしました。
このお仲間も指をこすりあわせる「お札」のポーズ。
再び交番に向かう私。
ほとんどコントみたいなやり取りの末、3ユーロだけ渡し、お爺さん2人に罵られながら脱出しました。
この後、狭い路地と地元勢の荒い運転に疲弊しながら市街を小一時間さまよい、ようやく見つけた駐車場は2日で100ユーロ近くとなかなかのぼったくり料金。「爺さんの方が安かったな……」と、どっと疲れました。

観光自体は見どころ満載で、特にアラブ・ノルマン・ビザンティンの様式がミックスされたノルマンニ宮殿と、『ゴッドファーザー PARTⅢ』のクライマックスシーンでも有名なマッシモ劇場は圧巻。パレルモ大聖堂近くで、乙武洋匡さんとすれ違うという謎のサプライズもありました。
食事も三女が事前調査で目を付けていたレストランが2晩続けて通うほどの大当たり。夕食後の帰りに地元スーパーで朝ごはんとビールを仕入れて宿で楽しむという民泊スタイルを満喫できました。

6.タオルミーナはロシア勢力圏?

パレルモで3日過ごした後、東部のタオルミーナに。ワイルドな山なみと地中海の絶景を楽しみながらのドライブ。もっとも、トンネルの照明はところどころ切れているし、地元勢は煽りまくってくるしで、運転は冷や汗ものでした。右側通行が不慣れな方は、おススメしません……。

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(タオルミーナのアパートメント。エアビーのサイトより)

タオルミーナのお目当ては海水浴。ビーチのすぐ横のアパートメントを借りました。ホストは英語が流暢な女性で、シンプルで綺麗な内装の部屋は手入れが行き届き、冷房も完備。1泊3万円ほどと高井家の民泊ツアーとしては大盤振る舞いでしたが、申し分ないコスパでした。

パレルモの旗とロシア国旗

非英語圏への旅行では、英語でコミュニケーションできるホストの存在は大きいです。
タオルミーナは有名なビーチリゾートですが、ほとんど英語が通じません。ビーチハウスでオジサンに話しかけたら、慌てて「おい、誰か英語話せるヤツいないか!」状態。で、裏から出てきたオジサンもロクに英語が話せないという……。
ビーチに出てみると、イタリア、EU、パレルモの旗と並んでロシア国旗が翻り、「英語はダメでロシア語は通じる」という事前情報に納得しました。

このときのホストはレスポンスも早く、買い物に便利な場所を聞いたり、タクシーを予約してもらったり、何かとお世話になりました。タクシーは価格交渉までしてくれて、ぼったくりを回避できました。
海水浴だけでなく、ギリシャ時代の劇場跡を中心とした旧市街の観光や、海鮮料理がおいしいレストランなどリゾート気分を満喫できて、家族にも大好評。お父さんの熱望していたゴッドファーザーのロケ地ツアーというオプションは、女性陣の意向を忖度して見送りました……。

7.ブリュッセル、謎の「160平米ワンルーム」 

場数を重ね、調子に乗った高井家は「どうせ泊まるなら変わった部屋に」と、先鋭化路線を邁進。2017年秋のブリュッセル1泊、アムステルダム2泊の弾丸旅行では「これぞ民泊」というユニークな部屋を渡り歩きました。

ロンドン=ブリュッセル=アムステルダムと鉄道利用だったので、便を考えるとブリュッセルの宿はターミナルである南駅の近くが良いのですが、あの辺りは治安がやや不安。無難に観光地が集まる中央駅寄りの部屋を物色してエアビーのサイトを回遊していたとき、「これは!」という変な部屋を発見してしまいました。

リビングの中央にグランドピアノ 

異様に広そうなリビングの中央に鎮座するグランドピアノ。
古風なストーブ。
ロフトにつながる室内階段。
1泊3万円強と値は張りましたが、家族に見せたら「面白そう!」と乗り気。「久しぶりにピアノが弾ける」という期待感もあったようです。
しかし、実際に着いてみると、そこは「なんじゃこりゃ!」と笑ってしまうような部屋でした。
アトリエ風の160平米の広大な空間はバスルーム以外は仕切りもない巨大なワンルーム。期待していたグランドピアノは調律されておらず、ホラーな不協和音を響かせるだけ……。

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(ブリュッセルの異様に広いリビングに興奮して躍る娘さんたち)

変な部屋だったのですが、三姉妹には「秘密基地みたい!」と妙にウケて、ベッドも人数分あったので、1泊ぐらいなら、と笑ってすみました。
あまり奇をてらったチョイスは考えものと反省しました。

ロケーションは計算通りで、自称・世界一美しい広場のグランプラスや、マグリット美術館などの観光地は徒歩圏で、「世界三大がっかり」の小便小僧を含め、駆け足ながらブリュッセル観光は無事クリアしました。

8.「アムステルダムの三姉妹」のお家

翌日には高速鉄道でアムステルダムに。タクシーで駅から20分ほどで宿に到着。実はこれが我が家の「完全民泊」のデビューとなりました。
そこは普段、ホストの家族が住んでいる3階建ての一軒家だったのです。
ゲストがきたら家族はどこかに一時避難するというスタイルのようです。

子供用自転車が並ぶ玄関のドアを開けると、ダイニング兼リビングで若い女性からカギを渡されました。その後、家族みんなで上から下まで「よそ様の家」を見学して回りました。現地人の生活空間にここまでガッツリ入り込む機会はそうありません。

アムステルダムの「Lovely!」な子供部屋

どうもホスト夫妻はデザイン系の仕事が本職のようで、関連書籍が本棚にずらり。家具も内装も何もかもがオシャレで、小さな三姉妹の子供部屋は「Lovely!」としか言いようがない可愛らしさでした。おもちゃも出しっぱなしで、「昨日までここで遊んでたんだろうなあ」という状態。

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大小さまざまな家族の写真にあふれ、幸せオーラが充満した室内。ウチの三姉妹より小さい「アムステルダムの三姉妹」の写真が、まるで思い出のアルバムのようで、何とも言えない親近感を覚えました。

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(ひたすらLovelyなアムステルダムの三姉妹のお部屋)

冷蔵庫も食材でいっぱいで「住んでます」感満点。ホストからは「食材やタオル類は適当に使って」と何とも大らかなメッセージを頂戴しました。旅行中は外食中心主義なので、エスプレッソマシンのカプセルなんかを少々消費しただけでしたが。

ここは高井家民泊史上最高額で、1泊5万円ほどかかりました。
張りこんだのは、短期滞在ではアクセスの良さで「時間を買う」メリットが大きいと思ったからです。
旧市街の南端で、アムステルダム国立美術館やゴッホ美術館があるミュージアム広場まで10分ほど。観光は旧市街散策に運河クルーズ、3つのミュージアムの見学と濃密なものでしたが、疲れ知らずの快適な旅になりました。
これでもかという大量の作品が並ぶゴッホ美術館と国立美術館のレンブラントの《夜警》、クルーズでの美しい夕焼けが収穫でした。

いわゆる「民泊」といっても、実際は宿泊客用に用意された物件がほとんどなので、このアムステルダム旅行は家族からも「またああいう感じの部屋に泊まってみたい」という声が出るほど、貴重な経験になりました。

9.パルテノン神殿を望むフラット

2018年春の帰国が決まったこともあり、「今のうちに行っとけ!」という感じで、ベルギー・オランダ旅行からわずか2カ月後のクリスマス休暇には4泊5日でギリシャに遊びに行きました。定番の離島オプションを封印して首都アテネでのんびり過ごしました。
過ごす時間が長くなるので、宿のクオリティーは超重要。アテネに詳しい知人のアドバイスも受け、最終的にシンタグマ広場から歩いて20分弱、パルテノン神殿が鎮座するアクロポリスの南に位置するアパートメントを選びました。

頼りになります Google先生

決め手は治安。アクロポリスを挟んだ反対側も捨てがたかったのですが、ストリートビューで見ると夜歩きが不安そうに見えました。対照的に南側は落ち着いた雰囲気。実際現地に行くと印象通り。Google先生、できるな。
パレルモの教訓を生かし、今回はちゃんとエレベーターの有無も確認しました……。

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(オシャレな小物があちらこちらに)

通りに面したアパートメントの3階の1室は、期待以上の素敵な部屋でした。普通、サイトは「盛ってある」のですが、写真そのままのクオリティー。広さも十分で、ベランダからアクロポリスもちらりと見える。観光のアクセスもばっちりでした。

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(ベランダより。アクロポリス、すぐそこです)

ホストはアテネで複数の部屋を展開する若い女性数人の民泊チームのようで、問い合わせへのレスポンスは極めて速く、家具や小物1つ1つにも気配りがあり、プロ意識を感じました。ギリシャ危機の余韻で若年雇用がまだ悪いので、こういう起業家が出てきているのかな、などと想像を巡らせました。

ここで民泊のチェックイン・チェックアウト時間について少々。
民泊はホテルと比べると、チェックインはやや遅め、チェックアウトはやや早めで時間厳守の窮屈な設定が多いようです。
でも、「荷物だけ先にドロップしたい」と掛け合えば、だいたいはOKが出ます。もちろん貴重品は置いて行かないように。これは滞在中も鉄則です。
チェックアウトの時間も多少は交渉が可能なので、ダメ元でも聞いてみるのをお勧めします。

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(観光バスで寄ったピレウスのカフェ。ビールうまかった……)

ギリシャ旅行はアクロポリスなどの史跡や、巡回タイプの観光バスで行った港町ピレウスのドライブなど観光が充実していたのと、三姉妹がギリシャ料理にどっぷりハマって、とても楽しい思い出になりました。私はさすがに「毎晩、ムサカかよ……」と若干食傷気味でしたが……。

10.「まさか、ここで」という地雷物件

高井家の欧州民泊漂流記はギリシャをもっておおむね順調に幕を閉じました。
しかし「地雷」は意外なところにありました。実は帰国時に利用した日本のエアビーで最悪の部屋を引き当ててしまいました。

2018年3月に一足先に帰国した家族は、引っ越しの都合で都内の民泊物件を1泊だけ利用しました。2年ぶりに孫と娘の顔を見ようと、義父母が上京する予定だったので、エアビーで適当な部屋を探しました。
勝手知ったる東京。難易度は低いはずですが、これが意外と難航しました。合計6人という収容人数を条件に検索すると、あまり物件はありません。民泊の供給自体が少ないからでしょう。
何とか「7人まで泊まれます」というマンションを発見。部屋の写真をチェックして「ちょっと内装はイマイチだけど、一晩だけなら」と決めました。

ところが家族が現地に行ってみると、大人ならせいぜい4人が精いっぱいという狭さで、部屋の内装も写真以上に残念なクオリティー。清掃も不十分で、「まさか母国でこんな仕打ちにあうとは……」というハズレ物件でした。結局、義父母は近くのホテルに避難する羽目になりました。
見事に「フォトショ詐欺」に引っかかってしまったわけですが、収容人数まで虚偽記載されては「地雷」を見抜くのはなかなか厳しいものがあります。布団利用が多い日本の場合、ベッド数がカウントできないのも偽装を許す「穴」になります。
いずれにせよ、この件で「エアビー・ツアコン」としての私の評判は暴落しました……。

厚かましいことに、このホストからはアプリ経由で「ゲストとしての評価に5つ星をつけるので、ホスト評価も5つ星にしてほしい」というメッセージが届きました。これには返信もせず、評価は1つ星、コメントには「7人収容可能とあるが実際はせいぜい4人しか寝られない。部屋の写真も実物と大違い」と日本語と英語で明記しました。

ユニークな世界中の「我が家」

母国・日本でまさかの最大の地雷を踏みましたが、それで懲りたかといえば、そんなことはありません。もし将来、海外に家族旅行に行く機会があれば、おそらくまたエアビーを利用するでしょう。
家族旅行のツアコン業務の中で民泊の宿探しはとても楽しい作業の1つでした。ユニークな世界中の「我が家」での滞在とコスパの良さは、1度味わうとなかなか捨てがたいものがあります。

家族旅行編の締めくくりに、ツアコン役のお父さんが「本音」を漏らした、アムステルダムでのちょっとした逸話を。
帰路、スキポール空港の出国審査でのこと。家族5人分の旅券を受け取った窓口の口ひげのおじさんが、チラリと高井家一同を見回した後、パスポートを順にめくりながら、「5人家族で男が1人きりってのは、どんな気分だい?」と聞いてきました。
意表を突く質問に私は、

“...sometimes feel like a king, most of the time like a slave...”

と小声で答えました。
おじさんは声を上げて笑って、バン! バン! バン! とパスポートにスタンプを押してくれました。

番外編. 夢の独身ライフinロンドン

2018年3月初めに家族が先に日本に旅立ち、私は3週間余りのプチ単身赴任となりました。寂しいけれど、ひとり身は身軽で気軽。ロンドンで1人暮らしを満喫するべく、まず都心部に拠点を移しました。
「色んなところに泊まってみたい」という遊び心に加え、一発勝負で「地雷」を引くリスクを避けるため、1週間ぐらいで部屋を渡り歩く作戦を立てました。

「スーパーリッチ」な謎のホスト

最初に借りた部屋はホルボーン駅近くのフラット。オフィスまで歩いて15分、人気の観光スポットのコベントガーデンやウエストエンドのシアター群も徒歩圏内の絶好のロケーションでした。

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(エントランスからして風格十分)

チェックイン当日にホストに問い合わせると、「何時に着くか教えて。家にいるようにするから」との返事。住所を頼りに部屋を探し、玄関のベルを鳴らすと、30歳前後の中東系と思しき頬髯の濃い男性が待っていました。
案内されたリビングダイニングだけで60平米はある広大な部屋。ビクトリア朝時代の歴史ある建造物をリノベーションしたフラットで、買えば数億円か、もう一桁上のお値段が付きそうな超豪華物件でした。

これで1泊100ポンド(約1万4000円)とはどういうことだと目を疑いましたが、すぐ謎は解けました。
ホスト氏は一番奥のベッドルームのドアを開けると「ここがあなたの部屋だ。私は反対の奥の部屋にいるから、何かあったら呼んでくれ」と告げました。
そう、そこはフラットの1室だけを借りるルームシェアタイプの民泊だったのです。
どうもエアビーのサイトで検索を繰り返すうちに「貸し切りタイプ」という項目をうっかり「オフ」に切り替えてしまったようです。計画違いではありましたが、これが怪我の功名で、なかなか足を踏み入れる機会もないロンドンの「スーパーリッチ」のご自宅に10日ほど滞在しました。

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(広さ十分で快適な個室。エアビーのサイトより)

あてがわれたのはシンプルな部屋ながら広さは十分。私専用のバスルームにバスタブも洗濯機もあり、シェアハウス感があったのは「この段以外は使わないでね」と言われた冷蔵庫ぐらいでした。
ホスト氏がプライバシーを尊重しつつも気楽に会話が楽しめる人当たりの良い若者だったのも幸運でした。
滞在中、私は仕事が終わるとフラットのダイニングで軽食を済ませ、週2本ほどのハイペースでミュージカル鑑賞に繰り出しました。遠いシアターでも徒歩20分ほどで、帰りはパンフレット片手にパブで1杯という日々……。

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(戦利品。これ以外にも数本見たはず)

超豪華フラットに住むスーパーリッチがなぜエアビーで小遣い稼ぎをしていたのかは、いまだに謎です。ホスト氏は働いている様子もなく、毎晩のようにパーティーに繰り出しているようでした。
「中東か中央アジアあたりの『本国』の親がマネーロンダリングで買った物件に住んで、小遣い稼ぎ&部屋自慢が目的だろうか……」などと妄想しましたが、真相はやぶの中でございます。

深夜にバスタブで足踏み洗濯

超豪華フラットを後にして次に私が向かったのは、繁華街SOHOのど真ん中の部屋。今度は注意深く「貸し切りタイプ」を選んだのに、別のところでヤラカしてしまいました。
有名な「ロニー・スコッツ・ジャズクラブ」から徒歩1分と夜遊びには最高のロケーションのは部屋に着いて、まず取り掛かったのは洗濯。サボっていたので着替えが1~2日分しか残っていなかったのです。

ところが!
 部屋の洗濯機は一目でわかるほど見事に壊れていました。反射的にホストにクレームを付けようとエアビーのアプリを開いてから、「いや……待てよ……」と設備の説明を見直しました。
すると、洗濯機の項目は「なし」。部屋の写真には洗濯機が写っていたので「あるのね」とチェックを怠った私の落ち度でした。
結局、浅めにお湯を張ったバスタブに洗濯用せっけんをぶち込み、片っ端から足踏み洗いする羽目に。ミュージカル鑑賞の後、深夜にバスタブ内で足踏み行進するオジサンの悲しさよ……。

歌舞伎町のど真ん中みたいな場所ですから覚悟はしていたものの、騒音もひどかった。防音が甘く、夜中まで酔っ払いどもの歌声や叫び声、ビンの割れる音が聞こえてきます。それらは愛用の強力な耳栓でブロックできたのですが、フラットが入るビルが外装工事中で、朝から作業音と振動が……。

あれこれ失敗・不満はありましたが、遊ぶところには事欠かず、ロンドンで一番好きな書店「FOYLES」は徒歩5分。家族旅行とは違った民泊ライフを存分に楽しみました。これで1泊2万円ほどなのだから、文句は言えません。

なぜ小屋? なぜハンモック?

ロンドン最後の宿は、これまでの2軒の反省を生かし、「便利で静かに過ごせる『我が家』」にしました。
オフィスの最寄駅チャンセリーレーンからほど近いフラットの決め手はハンモックでした。
書き間違いではありません、ハンモック、です。
この部屋はとびきり変な空間で、なぜか中に小屋がある。ダブルベッドはその小屋の中。
そして、小屋の横にハンモック。

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(もう、本当に意味が分からない)

意味不明ですが、なぜか惹かれるものがあり、1泊100ポンドちょっととリーズナブルだったこともあって、ロンドン最後の「我が家」をこの変な部屋に決めました。ちなみにこのエリアで同じぐらいのグレードの部屋のホテルを選ぶと最低でも2倍はかかります。

チェックインもかなりトリッキーでした。「カギを探せ」方式なのですが、
・物件から少し離れた大通りに向かい、通りの反対のバス停まで行く
・バス停近くの街灯を探る
・街灯と同色でほぼ同化しているチェーンボックスを見つける
・番号を入力してボックスからキーをゲット
という流れ。
土地勘があったので割とすぐに見つけられましたが、ここまで複雑にするのはいかがなものか。
顔は合わせていませんが、小屋とハンモックも含めて、家主はかなりの変人と確信しています。

ロンドン最後の「我が家」は、洗濯機あり・騒音なしの申し分ない居心地でした。ハンモックが人間をダメにする装置であることも学びました。本を片手にくつろぐと、必ず寝てしまいます……。快適な「我が家」でゆっくり休養しつつ、最後の週末には、今さらながらのロンドン観光でセントポール大聖堂にも上りました。

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こうして私のロンドン民泊ライフは幕を閉じました。

番外編その2:民泊後進国・日本

日本の民泊体験も紹介します。
2018年2月の一時帰国の際に都内で利用したのは典型的な日本のワンルームマンション。ユニークだったのはチェックイン方法で、ドアノブが電光表示のテンキー内蔵で、ホストから伝えられた番号を入力するとドアが開く仕組みでした。
欧州で民泊を使っている際、「ゲストに合いカギを作られたらどうするのか」と疑問だったので、この日本らしい手堅いシステムには感心しました。

ところが、京都では対照的な部屋に出合いました。
予約したのは四条烏丸の交差点から至近のマンションの一室。当日、部屋の近くまで行き、ホストに「どうやってチェックインすれば良いのか」と問い合わせると、「ドアは開いている。カギは部屋の机の上にある」という返事が。
いや、いくら日本の治安が良くたって……と部屋に行ってみると、本当に玄関は無施錠、ベッドサイドの机の上にカギがありました。
私は「これもまた、平和ボケ・日本らしいな……」と苦笑しました。

最後に日本の民泊の将来について私見を少々。
欧州の個性的な民泊物件を渡り歩くうち、私は「自分でもホストをやってみたい!」という思いをかなり強く持ちました。
我が家は利用しませんでしたが、宿泊と一緒に観光や体験ツアーなどを提供する総合ツアーコンダクターのようなビジネスも発達しています。
陳腐な「クール・ジャパン」をなぞる型にはまった観光ではなく、市民レベルの手作りの交流こそ、リピーターとして日本を訪れる外国人が特に求めているものだろうし、多様なホストがユニークな「我が家」を提供すれば、日本の観光資源に厚みが出るだろうと信じます。
ホテルなどを基準に「安全第一」を建前とした保護主義的な日本の現状の規制は厳しすぎるように見えます。

確かに、民泊には「地雷物件」やセキュリティー上のリスクはあります。
でも、供給者が増え、競争原理が働き、ホスト・ゲスト双方のレーティングに基づく「評価経済」が機能すれば、そうした課題は「自然淘汰」で乗り越えられるのではないか。これが欧州での実体験を通じた私の意見です。
それには「質」の転換を促す「量」がカギになります。規制強化で供給を絞るのは、自然淘汰のメカニズムに逆行するのではないでしょうか。

長文をお読みいただき、ありがとうありがとうございました。
皆さまが世界のどこかで「民泊」を通じて素晴らしい、あるいはちょっとした失敗という、思い出深い経験に出合えることをお祈りします。

Bon voyage!

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