読解力2

「本が読める!」と叫んだ娘

読解力を鍛えるには「書く」しかない!(7)

今回も「お父さん問題」の添削例を紹介します。
この2回分は三女の身近な話題と好きなゲームを取り上げています。
以前述べたように、「お父さん問題」のテーマは何でも良いのです。
「おいしい卵焼きのつくり方は」
「サッカーの1ームは11人であるべきか」
「どうして人間の目は前にだけついているのか」
思い付きで並べてみましたが、どれも良い問題になると思います。
大事なのは筋道立てて論理的な答えを書く訓練になることです。

さて、下の問題を出したのは2018年の夏休みの終わりごろで、第1稿は2学期に入ってから返ってきました。
まずは問題文から。

塾について答えなさい。

問1 塾とはなんですか。
問2 塾に行くことのメリット、デメリットをあげなさい。
問3 あなたが塾に行きたい理由を説明しなさい。

これも長女のころから続く定番の問題です。
身近なテーマで、受験を前に「なぜ塾に行くのだろう」と自問する機会になります。
三女の最初の答えはこうでした。

塾とは、学校の授業の捕捉や、受験対策などができる、勉強の場だ。教室や自習室、ご飯を食べるところなど、設備が整えられている。

塾に行くことのメリットは、同じコースの人と自分でどれくらい差があるのかを知り、お互いに良い影響を与えられることや、自習室が使えることだ。自分の欠点を知り、相手の欠点を教えあえばどちらも自分を高めることができる。自習室は、静かで温度も適切なため集中しやすく、勉強がはかどる。
デメリットは、授業の終了時刻が遅いと寝る時刻も遅くなってしなってしまったり、自由時間が減ってしまったりすることだ。授業が何日か連続で行われることがあるときなどは、睡眠不足となって、勉強に集中できなくなり、本末転倒になる恐れもある。

私が塾に行きたい理由は、自習室が使えるからと、塾の友達としか話せない話をすることができるからだ。自習室は、入ったら勉強するしかないため、私が嫌いな計算問題なども、家にいるときよりはるかに速く終わらせることができる。塾の友達としか、話せない話というのは、主に他の学校のことや、宿題のことだ。塾では、学校に関係なくグループわけされるため、他の学校の同学年の友達とおしゃべりすることができる。宿題は、わからなかったところや、どのくらい終わったかを聞きあい、意識や知識を高めることができる。

ニャン(=^・・^=)

「ニャン」はともかく、この初稿を見て私は「良い感じに仕上がってきたな」という手ごたえを感じました。
1問目と2問目の解答の「子ども言葉」が抜けたまとまりの良さから、「型」が身に付きつつあるのが見て取れます。例えばこのあたりの表現は「大人の作法」に沿ったものです。

・相手の欠点を教えあえばどちらも自分を高めることができる。
・自習室は、静かで温度も適切なため集中しやすく、勉強がはかどる。
・勉強に集中できなくなり、本末転倒になる恐れもある。

これらは紋切り型で、特段うまい表現でもなく、個性もありません。
しかし、そこには簡潔ですっと頭に入るロジックの流れがあります。うねるように行きつ戻りつする子供っぽさが消えています。
これが「型」が身に着くということです。
つまらないかもしれないけれど、情報伝達力は安定します。
そして世の文章の大半は「味気なくても伝わること」が最も重要な役割なのです。「味」を出せるのは「型」の先の話です。
その後のリライトでも1問目と2問目はほんの少し語句を直すだけで及第点としました。

「お父さん問題」のキモ、「正解のない問題」である3問目への解答も、初稿段階で体感がこもったそれなりに説得力のある悪くない構成でした。
私がリライトで指摘したのは、まだ子供っぽさやくどさが残る部分をすっきりと書き言葉に整理することでした。
2回書き直した最終稿がこれです。太字が主なリライト部分です。

私が塾に行きたい理由は、自習室が使えるからと、塾の友達としか話せない話ができるからだ。自習室は、入ったら勉強するしかないため、私が嫌いな計算問題なども、家にいるときよりはるかに速く終わる。塾の友達とは、他の学校のことや、塾の宿題のことを話せる。塾では学校に関係なくグループわけされるため、同学年の友達と会話することができる。塾の宿題でも、わからなかったところや、進みぐあいを聞きあい、やる気が増したり、知識を深められる。

ニャン(=^・・^=)

ご覧の通り、表現が簡潔になっています。その結果、文章全体の分量も1~2割減っています。「ニャン」を残すのは三女のしつこい性格がよく表れています。ちょっと私に似ています(笑)

この解答は「文章はできるだけ削った方が良いものになる」という鉄則にも沿っています。
この鉄則については次回以降、詳述しますが、ここでは初稿と比べた削り部分をみておきましょう。太字にしたところが削りと、話し言葉の変更点です。

私が塾に行きたい理由は、自習室が使えるからと、塾の友達としか話せない話をすることができるからだ。自習室は、入ったら勉強するしかないため、私が嫌いな計算問題なども、家にいるときよりはるかに速く終わ(らせることができ)る。塾の友達と(しか、話せない話というの)(、主に)他の学校のことや、宿題のことだ。塾では、学校に関係なくグループわけされるため、(他の学校の)同学年の友達と(おしゃべり)することができる。宿題は、わからなかったところや、(どのくらい終わったか)を聞きあい、意識や知識を高めることができる。

前掲の第3稿と比べると、わずかな語句の省略や修正で読みやすさやは格段に増します。

好きなテーマで楽しんで書く

この頃には三女は、学校や塾の反復訓練のような学習より、挑戦しがいのある「お父さん問題」に面白さを感じるようになっていたようです。
次に出した問題は、高井家の仲良しインフラ&実践的教育ツールであるボードゲームに関するものでした。

モノポリーについて、以下の問いに答えなさい。

問1 モノポリーが現実と似ている点、違っている点を3つ挙げなさい。
問2 モノポリーでは交渉が大事な役割を持ちます。なぜか答えなさい。
問3 モノポリーの強い、弱いを分けるポイントについて、自分の考えを10行程度で書きなさい。

この問題、三女は「書きたい!」とノリノリでした。三女は我が家では私と1、2を争うゲーム好きで、ひところは1人4役で数時間かけて遊ぶほどのモノポリー好きでした。ちょっと変な人です。
他にも2~4人のプレイヤーが力を合わせて感染症の世界的大流行を防ぐ協調型ゲームの傑作「パンデミック」を私と2人で、時にはモノポリーのごとく1人4役でプレイしていました。

(これは拡張版。我が家のは初期バージョン。超面白いです)

「パンデミック」はルールが複雑で難易度も高く、かなりのロジカルシンキングを求められます。三女は病原菌の「根絶」がうまく言えなくて「こんげく!」と叫ぶほどの年ごろから、このゲームにのめり込んでいました。
高井家にはほかにもこうしたボードゲーム、カードゲームがたくさんあります。家族で楽しく遊ぶのが第一の目的ですが、論理的思考力の養成にも役立っています。そのあたりはまた別の機会に。

三女はかなりボードゲームやカードゲームが得意で、ゲームのプレイで求められるロジカルシンキングはほぼ完璧に操れていました。
でも、作文では高いレベルの論理展開力があったわけではないのは、前回までにご覧になった通りです。
「ボードゲーム脳」と言葉を操る力は、根っこではつながっていても、別の「コツ」が必要なのです。ここが文章術の面白くて厄介なところで、そのあたりの構造的な違いも今後の連載で私の仮説を書いていくつもりです。

閑話休題。
大好きなモノポリーの問題に対する三女の解答は以下のようなものでした。

モノポリーが現実と似ている点は、お金を出して土地を買うところや、他の人の家に泊まったらお金を払わなければいけないところ、お金を出すとホテルや家を建てることができることだ。
違っている点は、三回連続ゾロ目のスピード違反以外では、何もしなくても警察に捕まり、牢獄に入れられることや、家を四件建てるとホテルになるところ、五十ドル支払うと、牢獄から出られることだ。

モノポリーで、交渉がとても大事な役割の持っている理由は、交渉を巧みに使うことで、今まで最下位だった人が、最上位にのぼりつめられる可能性があるからだ。モノポリーで一位になるためには、同じ色のグループを揃えることが最初の第一歩となる。しかし、よほど運がよくない限り、自分が揃える前に他の人に取られてしまう。そこで、お金をつけたり、相手が欲しがっているカードを付け加えたりして、なんとか自分が欲しいカードを手に入れるための交渉を行うわけだ。つまり、交渉は自分が勝者となるためのステップの一つということだ。

私はモノポリーの強い、弱いを分けるポイントは、交渉の仕方だと思う。先程述べたように、モノポリーでは、交渉がとても大事な役割を担っている。モノポリーで強い人は、交渉をする際に、決して下手に出ず、相手が条件を出されても、その条件をのむような状態で交渉する。逆に、弱い人は、このカードを渡したらどうなるか、この条件をのむことで、どのような利益を相手に与えることになるかを考えず、目先の欲だけで、いかに不利な状態であっても交渉を持ちかける。加えて、強い人は多少不利な状況にあっても、表情を崩さないため、どのタイミングで交渉すればいいのかが分かりにくい。しかし、弱い人は、少しでも不利だと、すぐ顔に出るため、まんまと相手にその隙につけこまれ、そのまま破産することが多い。

おまけ
今度みんなでモノポリーしようよ~ (^O^)

「おまけ」に三女のモノポリー愛がにじんでいます。
それはさておき、この解答はモノポリー論としては、的を絞ったよくまとまったものです。プレイヤーの心理まで考察してあるのは、「やりこんでるな、コイツ」とニヤリとさせられます。
ただ、文章には主語・述語の乱れなど若干の混乱が見られます。おそらく大好きなゲームの話題で興奮したのが原因でしょう。この出題は息抜きでもあったので「緩め」なのはご愛敬。
乱れを整えた2問目の最終稿がこちらです。太字が修正点。

モノポリーで、交渉がとても大事な役割を持っている理由は、交渉を巧みに使うことが、勝敗を分けるからだ。モノポリーで一位になるためには、同じ色のグループの土地を揃えることが最初の第一歩となる。しかし、よほど運がよくない限り、自分が揃える前に他の人に買われてしまう。そこで、相手が納得する条件を付けて、なんとか自分が欲しいカードを手に入れるための交渉を行うわけだ。(最後の一文を削除)

とてもすっきりと、読みやすくなっています。
基本は「削れば良くなる」という鉄則に従って交通整理しただけです。
この添削のポイントは「最後の一文の削除」です。
初稿の「つまり、交渉は自分が勝者となるためのステップの一つということだ」という部分は、なかなか味がある一文です。個性がにじんでいる。
ただの作文なら、「ここ、熱いねえ!」とほめるところでしょう。残しても大きな「傷」ではありません。
それでも、あえてここは削ります。ロジカルな文章としてみれば「ダブり」であり、不要だからです。
これが「型」優先のお父さん問題方式の添削の特徴です。

キモの3問目の添削もこの方針に沿った、「ひっかからずに読める」への仕上げ、「やすり掛け」のような文章の整理が中心になりました。
リライト後の文章がこれです。太字が変更点、カッコ書きが削除部分です。

私はモノポリーの強い、弱いを分けるポイントは、交渉の仕方だと思う。(先程述べたように、モノポリーでは、交渉がとても大事な役割を担っている。)強い人は、交渉をする際に、相手にも自分にも利益がある条件を出したり、お金を使うときの見定めが正確だったりする。逆に、弱い人は、このカードを渡したらどうなるか、この条件をのむことで、どのような利益を相手に与えることになるかを考えず、目先の欲だけで、いかに不利な状態であっても交渉を持ちかけるうえ、この後お金がないと困りそうなときにお金を使ったりする。加えて、強い人は多少不利な状況にあっても、表情を崩さないため、自分が優位な状況で交渉を進められるかが分かりにくい。しかし、弱い人は、少しでも不利だと、すぐ顔に出るため、まんまと相手にその隙につけこまれやすい。
おまけ
今度みんなでモノポリーしようよ~ (^O^)

私が指摘したのは「強さ、弱さの部分の例示が具体性に欠けるので説得力がない」という初稿の穴です。
適切に論理のステップを踏まないと、ただの印象論に見えてしまい、読み手が納得する論理的な文章にはなりません。

「本が読める!ウヒョー!」

この2つの問題に取り組んでいた9月ごろのある日、自宅で読書をしていた三女が突然、「なんか、最近、本が読める! 意味がわかる! ウヒョー!」と小躍りしたことがありました。
この場合の「本が読める」は、小説などではなく、論理的な内容の本、教科書に出てくる評論等の読解を指します。
「論理的な文章の作法が分かれば読解力が向上する」という「お父さん問題」の狙いを詳しく話していたわけではないので、これは三女の魂の叫びだったのだと思います(笑)

連載の初めに、論理的思考の土台となる「母語の力」を上げるには、「話す→読む→書く」という言語習得の手順をさかのぼり、「読むための書く」を磨き、「読むと書く」の総合力が「筋道立てて話す」能力につながるという私の仮説をご紹介しました。
「ウヒョー!」という三女の叫びは、私にとって「わが意を得たり」という成果でした。

三女が読解力を身に着けたメカニズムはどんなものだったのか。次回は私の言語コミュニケーションについての考えを述べてみたいと思います。

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