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自分を支える小説

19歳の頃、生きるということを真剣に考えた一年があったと思います。世界の問題、恋愛、人生について。深夜ラジオからこんなコメントがありました。若者はいつも正しい。だけど…。社会の入り口に立つ純粋な目を持つ若者へのメッセージでしょうか。

そんな多感な年にある小説と出会いました。五木寛之「青春の門」です。自分の人生に一番深く関わった小説を一つ選べと言われると、迷いなく選ぶ小説です。

自立編は主人公が東京の大学に入学するところから物語は始まります。あれほど夢中で読んだのは、私も同じ大学生で主人公と年代が重なるタイミングが、大きな縁だったとも思います。

2度目に読んだのは30代。その時は仕事で心が折れそうな時、奮起をしたくて再読しました。40代では、18年ぶりに文庫本として出版された挑戦編を含め、再読しました。

8年前、小説の登場人物「伊吹信介」と「牧織江」の生まれ故郷、福岡県田川市へ足を運ぶ機会がありました。小説の舞台を訪れることができたのは、今まで積み重ねるように作品へ愛情を注いできたことが、私を導いてくれたのだと思います。筑豊編の冒頭書き始められる風景は、香春岳や炭鉱の町のシンボルである2本の煙突。観光客は少ないであろうこの土地。でも私にとってはとても感慨深い土地です。

新しく様々な世界を知る読書も楽しいですが、人生経験を積むごとに繰り返し読み返す小説があることは、私の宝物です。困難なことがあったとしても、この小説が支えてくれるという安心感があります。大樹のように私の心の中で生き続ける小説です。

作品に何度も表現される「ふっきれた人」。ふっきれた人とは、迷いやわだかまりがなく、心が澄み切った人。田川の町を訪れた時の空は、まさに澄み切った爽やかな青空でした。ふっきれた人になろうと田川の町で決意しました。

今は50代。4度目を読み始め、現在放浪編を読んでいます。

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