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まだ知らぬ「なないろ」の君と出会って~ 朝ドラ『おかえりモネ』の主題歌は「BUMP OF CHICKEN」だと音楽予報が的中したこと~

※2021年3月24日に掲載された音楽文です。いろいろ訂正したい箇所はあるにせよ、あえてそのまま転載します。

去年5月下旬、NHK連続テレビ小説いわゆる朝ドラの第104作目が発表された。2021年春スタートのその朝ドラのタイトルは『おかえりモネ』。脚本・安達奈緒子、ヒロインは清原果耶演じる永浦百音。彼女が気象予報士を目指す物語とのこと。舞台は宮城県。えっ、地元じゃんと軽く驚く。さらに読み進めると「海の町」気仙沼で生まれ、「森の町」登米で青春を過ごす設定らしい。えっ、私の実家がある登米が舞台のひとつになるの?登米でロケするんだ、すごいとさらに驚く。そっか、2021年は東日本大震災からちょうど10年という節目の年だから、舞台を宮城に選んでくれたんだな…登米は南三陸町の人たちがたくさん引っ越してきた市でもあるし、気仙沼から移り住んだ人もいるだろうし、舞台にしてくれてありがたいな…とこの時点で感動し、喜んでいた。

ストーリーに興味が湧いた。気象予報士、つまり天気を扱う物語ということは、気象衛星なども登場する可能性がある。
気象や衛星と言えば私は“BUMP OF CHICKEN”を真っ先に思い浮かべる。


《ベルトに結んだラジオ 雨は降らないらしい》
《予報外れの雨に打たれて 泣きだしそうな》「天体観測」

《雨上がり差したまんま 傘がひとつ》
《いつも通り傘の中 笑顔がふたつ》「ウェザーリポート」

《天気予報どんな時も 僕は晴れ 君が太陽》「新世界」


等々バンプは空模様と心模様に関して昔からずっと歌い続けている。

朝ドラと言えば主題歌も物語の一部どころか全部を背負っているし、重要項目であり、歌次第で見るか見ないかを決める人がいたって不思議じゃない。朝の顔、起床と気象の音楽になるわけだ。私は希望と予測を含めて、次のようなツイートを発信していた。


2020年5月29日「朝ドラ、モネの主題歌予想。きっと透明感ある女性アーティストが歌うんだろうけど、まさかのバンプならうれしい。気象衛星歌えるのはバンプでしょと。天気予報士の話ならバンプに歌ってほしい。音楽でウェザーリポートできるのはバンプです。」


なんて前半は女性アーティスト云々書いたけれど、本命はもちろんバンプで、このツイートが朝ドラ制作に携わる方々に届かないかなとちょっとした願掛けでもあった。でもツイートした当初、もちろんバズるわけもなく、ほぼ誰にも見られることもなく静かに時は過ぎていった。

誰にも届かない願望だとしても、モネの主題歌推測に関しては時折、ひとりでこっそり考え続けていた。まるで1年後の天気を予測するみたいに。

映画『天気の子』では見事にRADWIMPSが天気にまつわる物語の世界観に見合った楽曲を提供した。だからラッドも天気の歌は相当歌えるけど、あまりにも新海誠作品と連動しているイメージが強いため、ラッドはあり得ないだろう。

《風が僕らの前で急に舵を切ったのを感じた午後》「風たちの声」


ふとフジファブリック「若者のすべて」も天気の歌かもしれないと考えた。

《真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた》
《同じ空を見上げているよ》

最初と最後はばっちり空模様に関して歌っている。しかしこの曲を作った志村正彦は残念ながら、もういない…。

じゃあ誰だろう?普通、朝ドラはロケ地出身アーティストが歌う場合も少なくない。
実際、2020年度前期の連続テレビ小説『エール』では福島出身の作曲家の物語で、同じく福島出身のアーティストGReeeeNが「星影のエール」という楽曲を提供した。
つまり、宮城県出身のアーティストが選ばれる可能性もある。
MONKEY MAJIKは特に地元で活躍しているけれど、どうだろう…。モネの情報を読む限りでは、ヒロインは宮城で過ごした後、東京に赴くことになっている。ということは東京出身のアーティストもあり得るが、多すぎて見当がつかない。

でも無理矢理こじつければバンプは千葉県で結成されたバンドだが、メンバーの出生地を考えると、実はボーカル・藤原基央は秋田県生まれだし、ドラム・升秀夫は宮城県生まれである。つまりバンプは東北と無関係ではなく、わずかでも縁があり、しかも今は関東で活躍しているから、朝ドラのヒロインとかぶる気がしないでもない。期待できる。


「来春の朝ドラ、バンプが主題歌の確率は50%です。」


心の中でこんな予報をこの時点でしていた。本当の天気予報なら、降水確率50%だとすればまぁまぁ可能性がある。しかし音楽予報で50%というのは、まだあまり当てにならない。

そんな数ヶ月先の音楽予報を密かに楽しんでいると季節は秋を迎えていた。
9月末には登米で『おかえりモネ』の撮影が始まった。暑過ぎず寒過ぎず、紅葉が色づき始め、森の町の印象は良い季節だと思った。
エキストラも募集されており、応募してみようかな…と少しだけ脳裏を過った。けれど登米と仙台の往復生活で忙しく、結局応募はしなかった。地元のロケ情報を横目で追っているうちにあっという間に登米市内でのロケは終了を迎えていた。


「『おかえりモネ』の主題歌をバンプが担当する確率は50%です。」


予測を始めた当初と変わらない確率のまま、誰にも届かない音楽予報は登米でロケが終わると、一旦途絶えた。
(ちなみに登米は“とめ”と読むが、登米市「とめし」内には登米町「とよままち」という地名が存在し、つまり「とめしとよままち」という地名がある。)

年が明けて2021年、朝ドラ主題歌予報を更新することもなく、淡々とした日々を送っていた。2月27日、宮城の天気は晴れ、また期待が膨らみ始めた。
バンプがNHKの歌番組『SONGS』に出演を果たし、『みんなのうた』に起用された「魔法の料理~君から君へ~」や新曲「Flare」などを番組内で披露してくれたのだ。NHKにこのタイミングでバンプが登場するということは、もしかしたらもしかするのではないか…。「いつかほんとに朝ドラ主題歌やってほしい」なんてメモをとりながら、『SONGS』に釘付けになっていた。


「『おかえりモネ』の主題歌をバンプが担当する確率は80%です。」


降水確率80%なら、持ち物に傘は必須で、ほぼ当選確実みたいな状況だ。ライブ開演前の胸が高鳴る瞬間に似た気持ちで、主題歌情報を待ち望むようになった。

『おかえりモネ』主題歌情報解禁日、2021年3月1日。その日発表されるなんて知らなかったし、私はその直前、28日の夜、『関ジャム』で放送された名曲の数々に酔いしれていた。ラルク「瞳の住人」、バンプ「ロストマン」、そしてフジファブリック「若者のすべて」等々、自分の大好きな曲ばかりテレビから流れて来て、今夜はもうおなかいっぱいだと感激と感傷に浸っていた。だからうかつにも、モネの主題歌のことなんて頭から消えていた。27日の夜はあれほど『SONGS』のバンプの演奏と、藤くんのコメント、言葉に心安らいで、朝ドラ主題歌に希望を抱いていたというのに。

そして運命の時、午前11:10、たまたまツイッターを覗いていたら夢みたいな信じられない文字が目に飛び込んできた。


「おかえりモネ」主題歌が決定!BUMP OF CHICKEN『なないろ』


というNHK朝ドラ公式ツイートをリツイートしたバンプ公式ツイート。

夢が叶った、祈りが通じた、願いが届いたと思った。声が届いたわけじゃないけど、届いたと思った。個人的音楽予報が当たったと思った。願望と予測が合致した瞬間だった。NHKありがとう!藤くん、バンプありがとう!と伝えたくなった。
この時の私は『ゲゲゲの女房』の主題歌・いきものがかり「ありがとう」の気分だった。


「『おかえりモネ』の主題歌をバンプが担当する確率は100%です。」


後は放送が開始される5月17日まで、バンプが描いてくれた音楽模様をイメージして過ごすのみだ。まだ1音さえ知らない楽曲だけど、思い巡らすだけで楽しい。

公開された『おかえりモネ』制作統括・吉永証氏のコメントによると、
「心地よくて優しい歌声、スキップしたくなるような軽快なリズム、心にじんわり沁みる歌詞。」と表現されている。
スキップしたくなるリズムってことは、「望遠のマーチ」みたいな希望のマーチ系?はたまた「新世界」みたいなポップ路線?「ray」も軽快なリズムで心地よい。優しい歌声、沁みる歌詞ってことは、「Gravity」、「Flare」みたいな和やか癒し系?なんてイメージし出すとキリがなくて本当にわくわくが止まらない。まるで突然、新学期から転校生がやってくるってよと教えられたみたいに、いろいろ想像してしまう。

勝手に朝ドラ主題歌予想を始めて9ヶ月後、音楽予報が的中して登米とバンプにわずかでも関連性が生まれたことに感動を覚えた。各サイトでモネとバンプに関する記事が更新され、rockin'on.comの記事から引用すると、

BUMP OF CHICKEN、新曲“なないろ”が5月スタートの連続テレビ小説『おかえりモネ』主題歌に決定…『おかえりモネ』は、「海の町」宮城県・気仙沼に生まれ育ち、「森の町」同・登米で青春を送る…

なんて説明されているのを見ると、こみ上げてくるものがあった。

「森の町」である登米には個人的にお気に入りの大きなポプラの木が立っている。そのポプラの木は土手沿いに立っているため、見晴らしが良い。空に近い。遠くの山に沈む夕日は格別だし、夜になるとまるで絵画みたいにポプラの木と月がセットで見える。冬はとても寒い場所なので空が澄んで、星がキラキラ瞬いて見える。(気象)衛星もチカチカ点滅しながら、その木のはるか上空を通過する。その場所に立てば勝手にバンプの音楽が鳴り響く。


《ずっと周り続ける 気象衛星》「Merry Christmas」
《ボイジャーは太陽系外に飛び出した今も 秒速10何キロだっけ ずっと旅を続けている》「話がしたいよ」


この場所でMV撮影してくれたらいいのにとさえ思う。(この場所ではないにしろ「なないろ」のMVに気仙沼や登米など宮城の風景の1コマが使われることを密かに期待している。)
でも私はひねくれ者なので、ここは自分だけの秘密の場所で誰にも教えたくない気持ちもあったりする。

それはBUMP OF CHICKENというバンドを世間に伝えることも然りだ。正直、バンプはもう十分過ぎるほど人気でリスナーもたくさんいて、今さら新たな聞き手を獲得する必要はないかもしれない。

しかし、こうも思う。バンプは決してテレビ等メディア出演が多い方ではないため、バンプを知らない人たちはまだまだたくさんいる。バンプを知らないなんてと音楽通の人からすれば驚愕だが、実はまだ一般的に認知度はそこまで高くないのかもしれないと。

実際、私の父親も知らなかった。朝ドラ主題歌に抜擢されたバンプに興味を持った父に、初めてバンプの楽曲(「話がしたいよ」)を少しだけ聞かせることができた。「変にカッコつけない歌い方で自然体で良い」みたいな感想をもらった。しかし「バンプオブチキン」というバンド名を覚えられない父は曲を教えても、「ダパンプ?」と未だに別のアーティストと勘違いしている始末だ。モネが放送されている半年間のうちに親にバンド名を覚えてもらうのが私の使命になった。

うちだけではなく朝ドラのおかげで各家庭でバンプを語る機会は増えているだろう。つまり朝ドラ主題歌に起用されたメリットとして、老若男女、特に年配層の認知度が高まることが期待できる。バンプが世の中に浸透するのである。

朝ドラって何気なくかかっている家庭が多い。特に高齢者宅では、けっこうな割合で朝ドラが流れている。個人宅に限らず、職場や病院、介護施設なども然り。
ゆえに今までバンプなんて耳にもしたことがなかった層にもバンプの音楽が届くかもしれないのである。
祖父は他界してしまったので、間に合わなかったけれど、今はコロナ禍で会えない祖母の耳にもバンプの音楽が届くかもしれないと思うと、感慨深い気持ちになる。

13年前、連続テレビ小説『だんだん』が放送されていた時期、祖父母と一緒に暮らした時期と重なり、ドラマを一緒に見た記憶がある。ドラマの内容だけでなく、やはり朝ドラというのは主題歌もセットで記憶に残るものであり、竹内まりや「縁の糸」もよく覚えている。それから劇中で双子のヒロインたちによって歌われた「いのちの歌」も。
それら音楽のおかげで、祖父母と共に過ごした何気ない日常の温かい空気感が思い出に刻まれた。

最近、藤原基央は各音楽誌(『MUSICA』2021年3月号と『ROCKIN’ON JAPAN』2021年4月号を参照)インタビュー内で、普遍的な音楽を意識していると発言している。何かひとつの出来事に限定せず、日記のように事実のみを書き留めた歌詞でもなく、誰の人生にも寄り添ってくれるような、言い換えれば都合良くどんな状況にでも合う楽曲を作っているのである。だからリスナーによって歌詞解釈は変わる。捉え方は様々で、どんな情景、心情にもなぜかしっくり当てはまる楽曲が多く、本人が言う通りバンプの楽曲は普遍的な音楽と言える。

つまり今回はたしかに「なないろ」という新曲は朝ドラ『おかえりモネ』の主題歌であり、きっとドラマの世界観に馴染むどころか脚本そのものに影響を与えまくるような楽曲だろうと聞く前から推測できるが、おそらくドラマ主題歌という枠を超えて、再放送も含めて朝昼晩の15分という短い時間、いつもの何気ない日々の暮らしに寄り添ってくれる普遍的な楽曲になると期待してしまうのである。

ラジオ体操のごとく、毎日決まった時間にバンプの音楽が流れ始めて1日が始まる。
好きだから意識してバンプの曲を聞くのではなく、当然のように自然と毎日バンプの曲が聞こえてくる日常が始まることがうれしい。なんて素敵な半年間が始まるのだろう。放送が開始される5月が待ち遠しい。きっと疲れ切った心のコリをほぐしてくれて、それぞれの人たちが発する「今日もがんばろう、いってきます、ただいま、おかえり、大丈夫」などが聞こえる、すべての挨拶代わりになる温かい楽曲に仕上がっているはずだ。


《どこからだって 帰ってこられる いってきます》「Spica」
《どこから いつからも ただいま おかえり》「シリウス」
《もうきっと多分大丈夫 どこが痛いか分かったからね》「Aurora」
《大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない 大丈夫だ この光の始まりには 君がいる》「ray」


朝ドラが流れる日常に溶け込むということは、ある意味みんなの衣食住に近付けることにもなる。1日のルーティーンの中にバンプの音楽が加わり、今までは特定層にだけ衣食住同様、必要不可欠だったバンプの楽曲が、みんなの必須栄養素に変わるかもしれないのである。

当たり前のように続く日常、そんな日常が当たり前に続くとも限らない。震災があったように。突如、災害、事故、病気に見舞われる場合もあるように。藤くんは歌詞の情景をひとつの出来事に断定されるのは好んではいないようだけど、もしも震災から10年という節目で、頭の片隅で震災のことも考慮して、「なないろ」を制作してくれたのならなおうれしい。

震災後、「Smile」という楽曲で希望の光を灯してくれたように。「ガラスのブルース」の歌詞を一部変えて、

《分けられない痛みを抱いて 過去に出来ない記憶を抱いて でも心はなくならないで 君は今も生きてる ちゃんと生きてるよ》

と歌ってくれて、応援してくれたように。きっと藤くんのことだから、生きているリスナーだけでなく、震災で亡くなってしまったリスナーのことも覚えていてくれて、今は亡き人たちにも届くように「なないろ」を作ってくれたのかもしれない。必死に今を生きているリスナーを応援してくれるだけでなく、「ガラスのブルース」の中で歌ってくれた“生きてる”の意味の中には、亡くなってしまった人たちも生きている人たちの心の中で“生きてる”という意味もあるかもしれないと。

つまり常に何が起きるか分からない、突然日常が途絶えるかもしれない世界で生きていて、他愛のない日常こそが本当に大切だから、普遍的な音楽を大切にしてくれているのだろう。普遍的って実は一番難しい。どんな状況、心情にも合う音楽を本気で作ろうとしたら相当難しいだろう。末永く多くの人たちの元へ届くように、あえて簡単ではない普遍的な音楽を目指しているのかもしれない。

話があちこち飛んでしまうが、ポプラの木と同様、バンプを自分だけの秘密にしたいと考えたりもする。バンプの曲はもう十分たくさんの人たちに届いているから、これ以上リスナーが増えると、ライブチケットの競争率がさらに上がり、近付ける機会が減るかもしれない。そんな低次元の考えが頭を過らなくもない。でもそんなことより藤くんが言うように、自分の意志を越えて、音楽自身がリスナーの元に届きたいと訴えるから、作り続けるし、歌い続けるんだというように、もはやバンプのメンバーがどうとか藤くんがどうとか人間の意志とは関係のないところで、バンプの音楽は生きようとしていて、それが結果として、新たなリスナーを獲得し得る朝ドラの舞台へ羽ばたいたのだろう。バンプの場合、バンドありきの音楽というより、音楽ありきのバンドで音楽が主体らしい。

私が初めて意識した朝ドラは親の影響で見た橋田壽賀子脚本の『春よ、来い』だった。その主題歌、松任谷由実の「春よ、来い」は圧倒的に記憶に残っている。別れの季節を象徴する春のせつない名曲である。
近年では『花子とアン』の主題歌、絢香「にじいろ」もドラマの内容とセットでいまだによく覚えている。朝ドラって本当に主題歌が忘れられない。
『おひさま』の主題歌、平原綾香「おひさま~大切なあなたへ」や、『カーネーション』の主題歌、椎名林檎「カーネーション」等も…。

きっと今回バンプが提供した「なないろ」という新曲も、この困難な時代、希望を持って生き抜く七色の光を放って、悩める私たちを導いてくれる普遍的な楽曲になるに違いない。1フレーズさえ聞いたことはない未知の曲だけれど、そう確信している。進化しつつも、昔から変わらない大切な何かを歌い続けてくれて、いつも期待・想像以上のものを届けてくれるバンプと藤くんを信頼しているから、そう思わずにはいられない。100%以上、モネに寄り添う、ドラマに影響を与える名曲がすでに誕生し、静かに聞く人たちを待っているのだ。

《今 世界のどこかで 青に変わった信号》
《あなたのための月が見えるよ》

「Flare」内でもどこにでもある、誰でも見たことのある、誰でも感じられる世界をさらりと大切に描いてくれている。本当はかけがえのない瞬間も、ごく自然に淡々と。こういうささやかな描写は誰の思い出にも、誰の時間にも寄り添ってくれる。そして誰もが大切な一曲に感じる。

おそらく「なないろ」も誰しも共感できる他愛のない情景が描かれつつ、前向きに未来を見据えることのできる七色の虹も感じられるような楽曲になっていることだろう。

《迷路みたいな交差点 大丈夫 渡れるよ》

そんな風にそっと背中を押してくれるような

《一人にしないように 並んで歩く》

伴走してくれる影さえ生み出してくれるような、「なないろ」の魔法をきっともうすぐBUMP OF CHICKENが奏でて、歌って、聞かせてくれる。

最後に、藤くんが歌詞内でよく使用する《君》という言葉は、単純に人間とは限らない。相手、鏡に映った自分、過去や未来の自分という人間を指す場合もあるが、楽曲を構成する音符、はたまた遥か彼方の宇宙の星を指していると考えられる場合もある。《君》は不特定なものとして描かれ、無限の可能性を秘めている。ゆえにどんな対象にも場面にもしっくりする楽曲が生まれやすい。

《なないろ》という言葉も一筋縄では考えられない。光、虹を指すのか、色彩ではなく心情を指すのかもしれない。シンプルで真っ白なジャケットの「Smile」が印象的だったように、まだ何も描かれていない今という時間、これから様々な色彩を加えながら未来に向かって希望を持って羽ばたこうというニュアンスも込められているかもしれない。
このように《君》、《なないろ》など藤くんが選んだ言葉の中にすでに普遍性を感じられる。

しかし本当はこんな推測自体必要なくて、単純に日々ささやかな幸せを届けてくれる曲であることは間違いない。聞かなくても分かる。バンプの音楽はこれまでもそうだったから。バンプの音楽とはそういうものだから。

《見えないモノを見ようとして》
《知らないモノを知ろうとして》

「天体観測」を信じているから、私はまだ見たことのない『おかえりモネ』とまだ知らない「なないろ」を見ることができたし、聞くことができた気がする。

バンプは1回聞いただけで心を掴む派手な曲というよりはスルメ曲が多いので、きっと「なないろ」という楽曲は半年聞き続けるうちに、どんどん印象が変わっていくだろう。一色に限定できない色が変わる七色の音楽みたいに。

バンプの他の楽曲もモネの挿入歌として使われたら、うれしい。
「流れ星の正体」あたりがドラマの中で流れたら、確実に泣ける。

こんなことを考えながら私は今日も、ポプラの木の下で空を見上げて、気象衛星を探し続けている。

まだ見ぬ「なないろ」の君に早く会いたい。

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