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【往復書簡6通目】入学式は、忘れられない青空でした。(2020/04/07)

拝啓 テル様

随分と間が空いてしまいました。気づけば桜も散りゆくほど春は深まっていますが、お元気ですか。花びらは知らずと舞いますが、僕は知らされることの多さに滅入っています。ですから、週末は何週間ぶりでしょうか、ニュースを追いかけるのを止めました。たぶん「休肝日」のような感覚です。ニュースを毎日「呑み続ける」仕事なので、おそらく「中毒」になっていたのでしょう。いやはや、少しは「酔い」が醒めました。

しかし、お陰様で!と敢えていいましょう。青空入学式です。これでもか!の青空です。桜越しの日差しはキラキラと刺激的に眩しく、気をつけ姿勢の少年は「入学式」看板の隣で目を細めっぱなし、そのせいで定番の記念写真は会心の写り映えではなくて、でも、それはそれ。オレンジと黄色のジャングルジムに式次第がぴん、と貼られました。砂の校庭には小さな椅子たちがちょんちょん並び、ハート柄や宇宙柄の布マスクで着飾った子供たちが埋めていく。「校内中の花を探してきて!」ってあわてて集めたのかしら、不揃いの春めくプランターたちが彩り囲う。大きな声のごあいさつは当分お預け。若くて大柄の男の先生は、紹介されたら深々と一礼、その時だけはマスクを外してくれて、満面の笑みで大きく頷いて見せてくれました。「『よろしくお願いします!』って心の中で言ってみましょう。はい、どうぞ」と校長先生。思わず声を出しちゃった子が5人ほどいて、それから2年生が歌ってくれた校歌の録音が流れて、スピーカーの歌声はとっても元気でとっても音が外れてて、見上げれば何の問題もないはずの青空の手前を、ゆらりゆらりと桜の花びらが横切ったとき、勝手に僕は小さく泣きました。

入学式が終われば、そうです、すぐに休校です。次に学校に来られるのはいつなのでしょう。急に行っちゃいけなくなった学校というものに、彼らは不安よりも不思議を感じるのかもしれません。それでも1年生は絶対的にピカピカなので、色鉛筆やら教科書やらをガッチャガッチャ鳴らしながら、まっさらなランドセルたちは、僕の横をあっという間に駆け去っていきました。

粗っぽい言い方ですが、世界中の人々に、それぞれの特別な春が巡っていることでしょう。僕は、その端っこの1人として、出来事が転がり続け、胸がざわめき続け、感情の上塗りが繰り返されるこの日々の情景を、何とか記録しておきたいのです。暫くはテルに手紙を送りつけ続けることになるかもしれませんが、そんなのどこまでもご容赦してくれるはずと信じております。そして今は、どうかどうかご自愛ください。

寛生より。
歌とは「祈り」だったんだと今更気づきながら。