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プッククン展③#窓18ギャラリー - インタビュー前編:観て・描いて・引いて

8/16(月)から開催している
窓18ギャラリー「プッククン展」三週目です!
展覧会の模様は、noteでは四週にわたって週イチでご紹介しています。

プッククン展テーマは「いつもと変わらない いつもの街から」

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前編:セレクト一頁漫画展 8/16(月)〜9/12(日)
後編:アンコール展 9/13(月)〜10/10(日)
場所は京都市左京区。くわしくはこちら

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公園や美大に近い、事務所の立地を生かして
オンラインの世界からこぼれ落ちる、子どもや高齢者にも届くよう
ポスター的に、マンガや絵本を展示する #窓18ギャラリー

漫画家、絵本作家を目指す方々
地域の伝統文化・産業のバトンを次世代に渡すべく奮闘中の方々の物語を
週替りでお届けする、オムニバス路上「個展」です。

今週のお話は「マヨネーズ」
なくなる間際にだけ訪れる、あの切ない瞬間についてのお話です。

今回、次回の二回は、インタビュー形式でお届けします。

前編である今回は、幼少期の読む・描くの体験から
プッククンさんを
構成する3つの漫画を掘り下げ
「表現者の役割」について、考えてみたいと思います。

以下インタビュー 太字:P(プッククンさん),  普通字:Y(吉田)

入り口は絵本から

Y: それではまず、幼い頃の漫画にまつわる原体験を聞かせてください。

P: はい。
子どもの頃、
家には漫画よりも絵本がたくさんあって
好きな絵本を繰り返し読んでいました。

一方で、興味のない本には触りもしなかったという…

うちには外国の絵本と日本の絵本が、同じくらいありました。

外国の絵本って、
文字がほんのちょっとで、絵がメインの
それこそ、風景画のような芸術作品だったんです。
親としては、そういう絵本を読ませたかったのかもしれません。

でも一切見なかった絵本というのは、実はそういう絵本だったんです。

Y: …見なかったんだ!

P: はい。
逆に日本の絵本は、繰り返し読んだ記憶があって。

たとえば「ぐりとぐら」や「11ぴきのねこ」「からすのパンやさん」など
いわゆる名作や、ベストセラーといわれる絵本なんですけど。

Y: …違いは何だったんでしょう?

P: 言ってしまえば「ぐりとぐら」って
すごく
絵が技巧的って訳でもないし
ストーリーだって、平たくいえば
「ねずみがカステラつくって、みんなで食べておいしかったねと言い合う」
ただそれだけのお話なんですけど
日本で一番売れている絵本なんですよね。

あれがなぜ、日本の子どもに刺さるのか?ということに興味があって。

というのも
大人だったら「これがベストセラー」だよ、と言われて
「分別」で手に取ろうとするかもしれないですが

子どもは自分が読みたいと思わない限り、手にとらないですよね。

たくさんある絵本のうち
ベストセラーと知らずに手にとって読んでしまう動機は何なのか?

子ども心を引きつける魅力って何なのだろうか?と。

Y: なるほど。

P: 自分なりに「ぐりとぐら」の魅力を考えてみると
「余白」ではないかな、と思うんです。


絵が素朴だ、ということもあるのかもしれません。線も少ないし。

日本の「鳥獣戯画」や浮世絵にも通じる引き算の心が
「ぐりとぐら」の魅力だと思うんです。

Y: 想像力をかきたてられるところが、よいのかもしれないですね。

P: うちにあった外国の絵本は、完璧過ぎたのかもしれないです。

一方で、日本人の子どもにも人気のある外国の絵本で思い浮かぶのが
はらぺこあおむし」なんですけど
絵本に穴が開いていたり、お話に参加できる余白があって。

ああいうのが、日本人が好きなタイプの絵本だと思うんです。

Y: 「ぐりとぐら」や「はらぺこあおむし」のような絵本は
日本だけでなく、世界でも受けるのかもしれないですね。

「ぐりとぐら」を書かれた作者の中川李枝子さんは
作家になられる前、17年間、保母さんをされていたそうです。
また「ぐりとぐら」は現在まで12ヶ国語に翻訳されているとのこと。

役という居場所だった「漫画係」

Y: プロフィールにも書かれている
「漫画係」のお話を聞かせていただけますか?

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P: 小学校3年生のとき、「生き物係」とか「新聞係」の延長で
漫画を描いて発表する「漫画係」がありました。

…担任の先生が思いつきでつくった係だったんですが
学期ごとに係の担当が変わる仕組みで、2学期に係になりました。

昔から人前に出ることや目立つことは苦手でしたが
漫画を描いて誰かに読ませるということは、楽しい経験でした。

3匹の豚の棒人間を主人公にした漫画が、そこそこ人気でした。(笑)

Y: 学級新聞を漫画化するみたいな、広報的な係だったんですか?

P: いえ。
基本的には自分の描きたい漫画を描くという、ただそれだけの係で
4年生で廃止になりました。

…描きたいものを描くだけの漫画係は
他の係のような「役」じゃないよね、という理由で。


でも係にとらわれず、描きたいときに描ければいいと思っていたので
残念な気持ちはありませんでした。

そういえば、小3の文集に先生が私のことを

「漫画のうまいプッククン」と書いてくれて、
それがとても嬉しかった記憶があります。

「プッククンを構成する3つの漫画」に共通する魅力

Y: 昨年、noteを始めて約一ヶ月の段階で
「私を構成する5つの漫画」という記事を書かれていますよね?

あの記事で挙げられた5つの漫画から
3つに絞るとすれば、どんな三作品になりますか?

P: 高野文子作「るきさん」
岡崎京子作「ジオラマボーイ☆パノラマガール」
あずまきよひこ作「よつばと!」かな、と思います。

Y: では、まず高野文子作「るきさん」から。

「るきさん」は、バブル時代の都会に暮らす独身女性二人の日常漫画ですが
魅力だと感じるのはどんなところですか?

P: 心情には決してフォーカスしていないけれど
るきさんの動きや日常風景の描写が、おもしろいです。

るきさんは、マイペースでぶれない。ある意味、浮世離れした女性。
一方で、友達のえっちゃんは流行も追う、
ごく「普通の人」。

その対比を通して、独特のカメラワークや遠近感から浮かびあがる
リアリティに惹きつけられます

Y: 「るきさん」は、いわゆるコマ漫画で
タイトルショット+残り15コマからなる大きさの同じ16コマフォーマットで
すべて展開するところが、すごいですよね。

ダイナミックに描きたいところだけコマを大きく、ではなく
カメラワークや遠近感だけで表現しているので。

P: 話によっては、数日にまたがる15コマがあったり
数分のできごとの15コマがあったりと、時間の凝縮に差があって。

でも、どのお話にも落とし所があって
しっかり着地しているところが、すごいと思います。

Y: 日常の機微に対する観察眼が、鋭いと思いました。

P: 
そうですね。

るきさんの細やかな身体の動きなんかにも
それが出ていると思うんです。

Y: さらっとした線だけど
人の骨格を理解し、描ける人のデフォルメだと私も思いました。

P: 高野文子って
ネット界隈で「絵のうまい漫画家といえば?」という話になると
よく名前が挙がる人なんですよ。

ただ、寡作の漫画家でもあって
これまで出した単行本は数十年で5〜6冊ほどで。

デビュー当時は、少女漫画っぽい絵を描かれていたんですが、

一方、最新作「ドミトリーともきんす」は、手塚治虫っぽい雰囲気。
作品ごとに作風が違うんです。

その辺も、すごいと思いました。

Y: なるほど。
スタイルが作品ごとに異なるところは、面白いですね。

一方で、岡崎京子は、絵を見れば一目で岡崎京子だと分かる漫画家だと
思うのですが?

P: そうですね。

Y: プッククンさんにとっての、岡崎京子作品の魅力とは?

P: 文章に独特なセンスがあって、魅力を感じます。

Y: 乱暴にカテゴリー分けするなら
岡崎作品も「日常漫画」かもしれないですよね。戯曲的ですけど。

そして、振り返れば、登場人物それぞれに役割があると分かるけれど
自然に話したり動いたりしている感じがしますね。

P: せりふを言わされている感がないですよね。

岡崎京子作品には、常に客観的な視点があります。

登場人物が妙に冷めているけれど、自然に振る舞うところにも
等身大の自分を重ねられる気がします。


Y: 先ほどの高野文子の「るきさん」もそうですが
基本的に人間観察をベースにしたリアリティが持ち味の作家さんに
惹かれる傾向があるようですね。

P: そうだと思います。

私自身は、他の人を観察するのがそんなに得意ではないから
余計に憧れる部分があるのかもしれません。

だからこそ、
せめて自分のことぐらいは
誠実に描こうとしているのかもしれないです。

Y: では、一風変わった5歳児よつばちゃんと、お父さんの物語
「よつばと!」に行きましょうか。

物語は、二人が新しい街に引っ越してきたところから始まります。

よつばちゃんの存在によって
家族同然の付き合いが始まったお隣ご一家の日常にも
珍事件が起こる物語ですね。

P: 「よつばと!」を初めて読んだのは、高校生の頃です。

前作「あずまんが大王」は面白く読んだのですけど
その時は、正直好きになれませんでした。

でも、社会人になった時
改めて読んだら、面白いと思うようになりました。
癒やしがあったんです。


Y: 「よつばと!」で一番魅力だと感じる部分はどういうところですか?

P: 主人公よつばの活き活きした表情と臨場感のある背景です。

よつばの「漫画的な」デフォルメされたところと
写実的な背景とのギャップが、この漫画の魅力だと思います。

Y: よつばちゃんだけ描き方が異質で、宇宙人っぽい雰囲気ですよね。

P: そもそも髪も緑ですしね。(笑)
外国人という設定ですが、宇宙人的かもしれないですね。

一方、周りにいる人がみんないい人で、ある種の理想的な世界なんです。

描写やセリフ一つ一つがすごく練られていて
繰り返し読んでも飽きません。

そして、これだけ人気の作品なのに
アニメでも、実写でも無理だということで
作者がそのどちらも拒否しているところがすごいな、と思います

Y: 確かに、これをアニメや実写にしてしまうと、あざとくて
「ただの変な子の物語」になりますよね。

描き方の抽象度をコントロールすることによって
デフォルメした部分に特に想像力を働かせて、感情移入したくなる
この独特な世界観は、漫画でしか表現できないのかもしれないです。

P: そうかもしれません。

漫画家の役割を考えてみると

Y: こうしてピックアップされた三作品を眺めてみると
どの作家さんも「翻訳者」的な立ち位置にある方なのかな、と思いました。

P: すでにあるものの中で、伝えたいものを選び
自分のフィルターを通して、わかりやすく形にする感じですね。

日常漫画の魅力とは、ただ日常を見せることではないのかもしれません。

どの作品にもフックとしての異質な要素があり
投入されたフックの周辺を描かない限り、見えてこない


日常漫画の面白さとは、そういうところにあるのかもしれないです。

Y: 作家さんに客観的な視点があるところ
構成が練られていて、表現に無駄がないところも共通点かと思いました。

P: 観察者としての視点に自覚的でないと
何を観察し、どう描くべきかが、分からなくなるのかもしれません。

光をあてるところ、あてないところを
それぞれにふさわしい表現で描くことが大事なのかなと思います。

Y: 「伝える」ことは一生懸命しても
そこから先は手放さないといけないのかな、と思います。

作者がそれを手放せて初めて
読者に癒やしがあるのではないか、とも思います。

仏教でいうところの「中道」も
主観から離れて、客観的に俯瞰することですしね。

P: 執着を手放すことは難しいけれど
観察や描写に執着しつつ
その後は手放す勇気が、大事なのかもしれないですね。

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いかがでしたか?

次週は、今回の展覧会のテーマである街との関係のお話から
これからのビジョンまで

新しい漫画家像を心に留めつつうかがったお話を、お届けします。

どうぞお楽しみに!

こちら、プッククンさんによる
今週のお話「マヨネーズ」含む、漫画メイキングのお話です。↓

これまでの「プッククン展」はこちら↓

第一回「みりこてん」含め
私の仕事場づくりから窓ギャラリーまでのプロセスについては
こちらのマガジンに入っています。


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