見出し画像

ナチュラルローソンは本当にお金持ちエリアにしかないのか

コンビニ業界で異彩を放つえんじ色のトレードマーク

コンビニ業界3位のローソンが展開する、健康志向の商品の販売に特化したナチュラルローソン。スイーツやお弁当も、通常業態のローソンでは購入することのできない工夫を凝らした商品が多く、通常のコンビニとはまた異なる楽しみ方ができるのも人気であり、店舗数は限られ、価格帯もやや高めに設定されているが、一定の根強い支持があることも確かだ。一方、公式サイトには、コンセプトは ”女性を中心に「美しく健康で快適な」ライフスタイルを身近でサポートするお店” だそうだ。個人的には純粋に自然派志向のお店という印象だったので、価値観の多様性が叫ばれる時代に、コンセプトでわざわざ女性に限定しなくても・・・と改めてふと思ってしまったが、本業態の展開を始めたのは2001年ということなので、「新たなターゲット層を増やす」という事業開始時の狙いを脈々と受け継ぎ、現在に至るのかもしれない。いろいろと申し上げましたが、ナチュラルローソン自体の展開する他のコンビニでは見ることのない商品チョイスやそのセンスには筆者も感銘を受けています。

62店舗中14店舗は港区  6区には0店舗という結果に

現在、東京都内の店舗数は63店舗(ナチュラルローソン+クオール薬局の店舗業態も含め)で、うち62店舗は23区内に所在している。(残る1店舗は武蔵野市)一方で、23区内のみで62店舗も展開しているにも関わらず、その出店地区には大きな偏りのある結果となった。

62店舗中4分の1弱を占める14店舗が集中する港区が、区別の店舗数で2位以下の区にダブルスコア以上の大差をつける形で1位となった。続いて、世田谷区、千代田区が6店舗という2位、中央区、品川区、渋谷区が5店舗で4位という結果となった。このデータだけを見ると、オフィス街を多く抱える都心3区をはじめとする区に多く展開しているという見方もできる。

ナチュラルローソンの店舗数が多いトップ6区
1位 港区  14店舗 
2位 世田谷区、千代田区  6店舗 
4位 中央区、品川区、渋谷区  5店舗
 

図1 23区内のナチュラルローソンの店舗

図1では、ナチュラルローソン店舗の地理的な偏りが一目瞭然である。都心部を中心に城南・城西エリアのみに店舗が所在し、北東部の6区(板橋区・北区・荒川区・足立区・葛飾区・江戸川区)には店舗数が0という結果となった。別形態とはいえ、あくまで業種としてはコンビニの一部であるブランドの出店傾向が、ここまで地理的に顕著な特徴を示すことには驚いた。

一方で、先に公開した記事にて、23区全地区の大手3社のコンビニ店舗シェアを紹介したが、ここでローソンの多い区トップ5について触れた。世田谷区・港区はもとよりローソンの多い区であるため、ローソン自体の地理的な出店戦略の一部としてナチュラルローソンが組み込まれている可能性も示唆できなくもないが(下記のデータにはナチュラルローソン(※ナチュラルローソン+クオール薬局は除く)ナチュラルローソンの店舗数が多いことがローソン全体の店舗数の多さにも貢献しているともいえる)、新宿区・大田区・江東区を見ると、ナチュラルローソンの店舗数は決して多いとは言えず、ここではナチュラルローソンが通常形態のローソンとは別の出店戦略の下店舗が配置されているという見方のほうが軍配が上がるように思える。

ローソンの多い区トップ5 ※()内は店舗数
1位 世田谷区、港区 55店舗
3位 新宿区 54店舗
4位 大田区、江東区 46店舗

これは23区個人所得ランキングと驚くほど一致

図2 東京23区の個人平均所得

23区の個人平均所得ベスト5区
1位 港区  1184.7万円
2位 千代田区  985.2万円
3位 渋谷区  911.7万円
4位 中央区  712.5万円
5位 目黒区  638.8万円

e-Statより取得した令和3年度課税対象所得を納税義務者で除した数値、筆者算出

23区の個人平均所得ワースト5区
1位 葛飾区  356.8万円
2位 足立区  357万円
3位 板橋区  377.3万円
4位 江戸川区    378.2万円
5位 荒川区  387.8万円

e-Statより取得した令和3年度課税対象所得を納税義務者で除した数値、筆者算出

ここまでの地理的分断を説明する要素として、23区所得ランキングが挙げられる。上記データは政府が公開しているデータより筆者が算出したものだが、ナチュラルローソンの区別の店舗数と驚くべき程に一致していた。まず、個人平均所得1位の港区が、ナチュラルローソンの店舗数でも1位。所得ランキングで2位の千代田区、3位の中央区、4位の渋谷区もナチュラルローソンの店舗数でトップ6までにランクインしていた。一方で、さらに驚きなのは所得ワースト5の区はいずれもナチュラルローソンの店舗数が0ということだ。さらに、上記ワースト5に未記載の区の中で唯一ナチュラルローソンが存在しない北区は所得ランキングでは下から6番目。ナチュラルローソンのない6区は、所得ランキングの下位6区とぴったり一致しているのだ。ナチュラルローソンの店舗コンセプトやブランド戦略、それに伴い設定されたターゲット層と価格帯に忠実という見方もできるが、ここまで顕著に所得ランキングの結果と合致することには非常に驚いた。

ナチュラルローソンという「コンビニ」の概念を超えたハイソブランドなのかもしれない

「健康志向」「美容」といった徹底したブランド戦略の基づいて、他のコンビニとは一線を画したブランド展開と根強い支持を集めるナチュラルローソン。「コンビニ」なのだが、殺風景で画一化された「コンビニ」(とはいえ、近年のインフレによりコンビニ商品の価格も非常に渋いものにはなってきているが・・・)とは異なる独自の印象を与え続けることができたその背景には、徹底した差別化(あるいみ切り捨てともいえるが、これも企業の生存戦略としては非常に重要である)とその出店戦略があるのかもしれない。吸収・合併やブランド統合が相次いだコンビニ戦国時代の中(別業態のローソンストア100は店舗数の減少が続いている)で、今でもその屋号を各所で見ることができるのは、その限定的な店舗展開にみるドミナント戦略的な手法とそこで得た消費者からの支持のおかげといえるであろう。


この記事が参加している募集

#地理がすき

691件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?