マガジンのカバー画像

平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』後編

216
平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十… もっと読む
運営しているクリエイター

2015年7月の記事一覧

『マチネの終わりに』第五章(31)第六章 消失点(1)

 二人は、自然と深まり行くことへの躊躇いから、却って長い、いつ尽きるともしれない口づけに…

35

『マチネの終わりに』第六章(2)

 蒔野はそれで、回想する度に、雑然と小山になったトランプの中から目当ての一枚を手探りする…

35

『マチネの終わりに』第六章(3)

 無論、蒔野は、深入りし得なかったが故に、その分長く睦み合い、結局、寝不足のまま別々の…

37

『マチネの終わりに』第六章(4)

【あらすじ】蒔野はパリのコンサートで、演奏が途中で止まる失態を演じた。その晩、洋子の住ま…

33

『マチネの終わりに』第六章(5)

 メールだけでなく、スカイプでもよく喋った。七時間のヨーロッパとの時差のために、蒔野は二…

39

『マチネの終わりに』第六章(6)

 洋子は、その問いにすぐには答えられなかった。事実としては知っていたが、理由を深く考えて…

32

『マチネの終わりに』第六章(7)

「ああ、是非お願いしたいけど、緊張するな。……会ったばかりで、いきなりそんなデリケートな質問すると、無神経な人間だと思われるよ。」 「怖そうに見えるけど、優しい人よ。」 「それは、あんな映画撮ってるんだから、深い優しさのある人だと思うけど。」 「わたしには話さないことも、あなたになら話すかもしれない。アーティスト同士だし、父はクラシック・ギターが大好きだから。きっと気が合うと思う。」 「うちは両親とも亡くなってるけど、お母さんにも、近いうちにお目にかかりたいな。」 「そうよね

『マチネの終わりに』第六章(8)

「もっと早く話してくれても良かったのに。」 「人間関係を、そういうところから始めたくない…

30

『マチネの終わりに』第六章(9)

 蒔野は、そうした洋子の話を、実際、自分の身内となる人間の話として聴いた。  初めて会っ…

32

『マチネの終わりに』第六章(10)

 蒔野は、その苦悩を洋子に打ち明けなかった。彼女の愛の恩寵が、自分に何かを齎してくれる…

26

『マチネの終わりに』第六章(11)

 これ以上関係が拗れるならば、担当を変えてもらった方がお互いのためかもしれない。そうは思…

25

『マチネの終わりに』第六章(12)

 二週間ほど経って、最初の動揺が治まると、リチャードは唐突に、洋子の「浮気」を「赦す」と…

26

『マチネの終わりに』第六章(13)

 リチャードの持ち物も多少あり、婚約指輪もまだ手許にあった。話を切り出した時に返そうとし…

28

『マチネの終わりに』第六章(14)

 帰国後は、蒔野もそのことを気にしていて、スカイプでの会話中に、一度仄めかされたことがあったが、洋子は微笑して、 「ちょっと味気なさ過ぎない? せめて面と向かって、触れられるくらい近くで言ってほしい。来月、日本に行くんだから。スカイプでプロポーズされても、画面に飛びつくわけにはいかないでしょう?」  と首を振った。蒔野も、 「まァ、……そうだね。じゃあ、その時まで言葉は胸にしまっておくよ。ただ、そのつもりだってことは、知っておいてほしかったから。」  と従い、それ以来、同じ話