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掌編小説「懺悔」
取り返しのつかないことをしてしまった
サイレンの大きな音が近づく。家が燃えている。黒い煙とともに何かが天へ昇っていくのが見えた。
私は石橋を叩いて渡るくらい慎重な性格だったはずだ。鍵をかける時は何度もドアノブを回して閉まっているか確認するし、電車に降りる時は忘れ物をしていないか何度も後ろを振り向いた。なぜこんなことになったのだろう。
最近何もかもうまくいっていなかった。仕事では失敗が続き、先日大きなミスも犯してしまった。恋愛もうまくいかず、お酒を飲んで過ごす日がここ最近ずっと続いていた。
完全に自暴自棄の状態だった。わざと交通事故に巻き込まれて入院するか、刑務所暮らしするほうがずっと気が楽かもしれない。そんなことを思うほどつまらない日々を送っていた。
普段の状態なら絶対不始末を起こさなかったはずだ。この時は心身ともに疲れ切っていた。気がつくと揚げ物をしようとコンロに火を点けたのだが、気がついた時には天井に火が届いていた。こうなるともう手遅れである。
無意識に身の破滅を望んでいたのかもしれないな
仕事を辞めて心身リフレッシュして、マッチングアプリに登録とかして新しい恋愛に踏み出していたら、もっと楽に人生やり直せたかもしれない。自然と涙が溢れ出てきた。
呆然と家を眺めていた私に声をかける者がいたのだが、ほとんど記憶に残っていない。幸いなことに近所への延焼はなさそうだ。それだけが唯一の救いだった。
明日からホームレスか。少なくともこれまでのような生活は一切出来なくなるだろう。世の中には不始末で家をなくした人もいれば、自然災害で家を失くした者も多くいる。いくら行政による補助があったとしても完全に元通りになるわけではない。火の不始末は自分に鞭を打てばいいが、津波や台風だと怒りや悲しみは一体どこへぶつけたらいいのだろう。
6月14日、消防によりますと午後2時20分ごろ○○市△△「煙が出ている」と付近の住民から通報がありました。消防車が出て消火活動にあたっていて、負傷者がいないかなど確認を急いでいます。現場は□□駅から西に700mほど離れた場所です。
6月14日、◇◇県〇〇市で住宅が全焼する火事があり、焼け跡から1人の遺体が見つかりました。警察などによりますと、午後2時ごろ「建物が燃えている」と近所の住民から119番通報がありました。火は約3時間半後に消し止められましたが、この火事で木造平屋の住宅1棟が全焼しました。警察は身元の特定を急ぐとともに、火事の原因について詳しく調べています。
きのう(17日)夜、警察は、元交際相手の男を現住建造物等放火と殺人の疑いで逮捕しました。逮捕されたのは、○○○○容疑者です。警察によりますと、容疑者は14日午後2時ごろに被害者を殺害した後、自宅を放火した疑いがもたれています。○○〇〇容疑者は△△△△さんの元交際相手で、警察は□□市内で身柄を確保し、事情を聞いていました。取り調べに対し、「別れたくなかった」と容疑を認めているということです。
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