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私が知ってしまった、別に秘密じゃないかもしれない父の秘密



数年前、仕事でたまたま東京に来た父と2人で飲んだことがある。

普段からあまり話さない父は、お酒は好きなものの、飲んでも特に陽気になるわけでもなく、いわゆる「酔っ払っている」状態になっているのすら私は今まで一度も見たことがない。

嗜むくらいの量であればそれも納得できるのだが、父の飲む量はおそらく嗜むというには度を越えている。
母はアルコールを飲まないため、実家に帰ると大体父と兄、私で一緒にお酒を飲むのだが、父が「嗜んでいるもの」にはいつもびっくりする。

ストロングと書かれたアルコール度数が9%とか12%ぐらいの、甘くない缶チューハイ。それをグラスに入れ、何かと割って飲んでいる。

「それ、何と混ぜてるの?」

「半分焼酎、半分チューハイです。」

ちょっと、何を言っているかわからない。
チューハイの「チュー」は焼酎のチューのはずだ、多分。
焼酎(リキュール?)と炭酸で割られた缶酎ハイに、さらに焼酎を半分ほど入れて飲んでいるという。
聞いているだけでもぞっとする。
そのグラスの中は、一体アルコール何%になっていて、何という飲み物なのだろうか。

そんな若者が後輩にふざけて飲ませるような暴力的な罰ゲーム飲料を自ら好んで、しかもいつもと変わらず涼し気な顔で飲む父。
まるで水のように静かにグラスを傾け、そして無音でテーブルに残ったグラスの轍をこまめに拭く。
もう彼はエタノールでも飲むか、もはや酔わないのであれば飲む必要がないのではないだろうか。

「最近はこれが安かったので箱で買ってみました。」
なんて言って、実家では父しか飲む人がいないのにシャンパンかスパークリングワインかわからない謎のシュワシュワしたボトルを箱で買ったりもする。"泡"箱買いなんて、パーリーピーポーではないか。
こんなに静かにパリピドリンクを飲む初老を私は他に見たことがない。


そんな父と、出張先の最寄りだということで都内のある駅で待ち合わせをして、夕食がてら居酒屋へ。
性格的に「ほら、お前も飲め!」みたいに激しくすすめてくるタイプでもないのでへたな宴会よりも安全ではあるが、家でハイボールなんて父に作ってもらおうものなら、悪気なく濃すぎて飲めたものではない。
そして彼の特技は無言である。
私は色々と用心してそこに向かった。

こじんまりとしたなんてことない居酒屋の座敷で向かい合わせに座り、ぽつぽつと話をしながら飲む。
うーん、対面でテーブルに座るのもなんだか気まずい。
いつも実家に帰って食卓を囲む時は、なんとなく各々座る場所が決まっているのだが、私は父の隣の席に座ることが多い。
というよりもテレビに向かってテーブルを囲むような形で座るので、対面で座る人があまりいないという布陣になるのだ。

母がいないとなると、会話を弾ませるのは今ここには私しかいない。
ちょっと使命感にも似た気持ちで、お酒の力を借りつつ頑張って色々と話題を振ってみる。

そして、私が何の話をした時だっただろうか。
その直後の反応に衝撃を受けすぎて、どんな話をしていたのかは正直覚えていないのだが、私は何か笑いを誘うような話をしていたのだと思う。
東京で培った話術(?)で無口で笑わない、しゃべらない父をもてなす接待ピエロと化していた私が面白おかしい感じで調子よく語っていたその話に、父が一瞬「ははは」と大きく口を開けて笑ったのだ。
その時、私は固まった。


「...え?ねぇその歯、どうしたの!?」

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