ブリーチを必死で止めたオハマさんと、その後スチールウールになった私
私が生まれて初めて髪を染めたのは、高校を卒業し大学に入学する前の春だった。
「かっこいい髪型にして東京に行くんだぜ!」という田舎者による大学デビューの典型パターンである。
しかし、おのぼりさんのビビリなので東京の美容院なんてよくわからない。
見知らぬ土地の、初めて足を踏み入れた美容院で果たしてちゃんと自分の理想を伝えることができるだろうかと不安になった私。
「いや、やっぱり地元の美容院でやろう。あそこに行くのも最後になるかもしれないし、今までお世話になった切り納めというか...。それに向こうに行ってからオシャレになるんじゃなくて東京に行くからには足を踏み入れる時点で既にオシャレじゃないと...。べ、別に東京の美容院にビビってるわけじゃないし...ごにょごにょ」と誰への言い訳かわからないようなことを考えながら、私は地元の美容院に向かうことに。
高校3年間通ったその美容院は、高1の時に仲良くなった女の子が教えてくれたお店で、私はそこのオーナーであるオハマさんという人にずっと髪を切ってもらっていた。
オハマさんは多分当時40代半ばくらい。おしゃれでかっこいいおじさんという感じだった。
オハマさん以外にも若いお姉さんの美容師さんもいたが、私はオハマさんのしっかりガシガシと洗ってくれるシャンプータイムが好きで(カットの技術じゃないんかい)一丁前に指名までしていた。
私は当時「金髪にしたい」とか「マッシュルームカットにしてみたい」とか「今回はアシンメトリーがいい」とか、なかなか独創的(?)な髪型を好んでいて、度々オハマさんに無理難題を投げかけていたのだが、オハマさんは嫌な顔1つせず「金髪は校則があるからダメでしょ〜?」「マッシュルームにするにはここをもう少し伸ばさないと」「髪を染められないならここをちょっと軽くして透けてるような感じで明るく見せるっていうのはどう?」なんて、いつもできる範囲で私が納得のいくように提案をしてくれた。
あの頃は、そうだよな〜校則があるから染められないもんな〜なんて素直に思っていたが、美容師さんの方から止めてくれたりするあたりが、土地柄というか田舎らしい距離感である。
そして、校則からもついに解き放たれた私は意気揚々と美容院に向かった。
「4月から東京の大学に行くので金髪にして下さい!」
今思うととってもイタめな注文ではあるが、私は多分そんなようなことを言ったと思う。
「お〜卒業おめでとう〜!そうかぁ東京に行っちゃうのかぁ。寂しいね」
薄情な私は新天地へのわくわくの方が勝っていて、その時は寂しいなんて正直1ミリも思っていなかった。
「で、ほんとにブリーチするの?全部?」
「はい!」
「大丈夫?ブリーチって髪も痛むし、染みるかもしれないよ?」
とにかく金髪にしたい私が鼻息荒くお願いするも、オハマさんはブリーチをすることに難色を示す。
いつもは私が言う無理難題も一緒に考えていい感じになるようにしてくれたのに...なんでせっかく校則もなくなったのに今度は美容師さんに金髪を止められねばならぬのだと不満に思った私は「傷んでもいいからやってくれ」とお願いした。
「じゃあさ、メッシュはどう?一気に金髪にしようとすると何回もブリーチしなきゃいけないし、全部やっちゃうと後戻りできないからさ。メッシュで何本かブリーチしてみたら髪がこうなるんだ〜っていうのもわかると思うから。それでもやっぱり全部やりたいなって思ったら、東京のおしゃれな美容院で全部ブリーチすればいいじゃない」
オハマさんはそんなことを言った。
正直「え〜メッシュぅ?なにそれ〜。いいから全部やってよ!」なんて思いつつも、いつもどうにか私の理想の髪型になるように頑張ってくれていた彼の必死の提案に「でもまぁ確かに...プロがそう言うならメッシュとやらから始めてみるか...」と私は納得した。
きっとオハマさん的には、一度もカラーすらしたことのない子にいきなり金髪なんてそんな三段跳びのようなイメチェンを施して大丈夫だろうか...という心配があったのかなと思う。
または「いやそもそも金髪ってどうなの...?大学の入学式とかあるよね?スーツ着るんでしょ?ヤンキーじゃないんだから...」みたいな親心のような気持ちもあったのかもしれない。
「でも、じゃあ、"変わったな!"と思えるくらいいっぱいメッシュを入れて下さい!メッシュを入れない部分も黒髪のままじゃなくて茶髪に染めてください!」と、とにかくイメチェンしたい一心で色々注文をつける私。
今思い返すと本当になんでもいいから何か目に見えて変わったと思える変化が欲しかったんだろうなと思う。
オハマさんの提案通りメッシュを入れてもらい、ちょっと長さも整えてもらって新しい髪型になった自分を鏡で見る。
おぉぉぉ!なんか...それっぽいぞ!!(どれ)
都会的だ!大人になったぞ!(なってない)
私は初めて見る新しい自分の姿に感動した。
カラーもしてもらったため全体的に髪色が明るくなったこともあるが、数ミリの毛束が数本金髪(というか黄色)になっただけでこんなに印象が変わるのかと驚いた。
家に帰ると「あーあー調子乗っちゃって」と言いたげな視線を送りつつも黙認する母。そんなことは気にせずお風呂場や洗面所など、鏡で自分の姿を見るたびにウキウキする私。
最初はちぇっ全部金髪にできなかったなんて思っていたけれど、メッシュもかっこよくてなかなかいいじゃんと私は大満足だった。
ちなみに後から聞いた話だが、私は入学当初大学の友人から「え...あの子何?」とちょっと怖がられていたらしい。
ただのおのぼりさんなのに勝手な都会へのイメージで変な方向に気合を入れすぎて、むしろ勘違いされてしまうという大学デビューあるあるが巻き起こっていたというのを知るのはそれから一年後くらいの話。
その後も髪型も髪の色も好きなだけ変えられる自由をゲットした私は様々な髪色を試した。
もちろん念願の(?)全頭ブリーチも結局東京に来て早々にやってもらったし、金髪に飽きたらピンクやらオレンジやら様々な色に染めたり、色がうまく抜けていないうちにアッシュを入れてドブ川のような色になったりもした。
なぜそこを目指していたかはわからないが、森永のエンゼルのような金髪でくるっくるのパーマの髪に憧れて、止める美容師さんの声も聞かずにブリーチ毛にパーマを施してもらうなんて荒行までやってもらったこともある。
結果はというと、もともと直毛すぎてパーマがかかりづらい上にブリーチで傷んだ髪はくるりとキレイに仕上がってはくれず、エンゼルというよりも実験に失敗して爆発したような、チリチリのスチールウールみたいな髪型になった。
美容院で染める以外にも、市販の商品を使ってお風呂場で奮闘しながら自分で髪色を変えたこともある。自分では見えない後ろ髪まで均等に綺麗に染めるには…と色々研究したりするのもすごく楽しかった。
今でこそ一応社会で働く大人になったので、さすがにドブ色になったりエンゼルを目指したりはしていないものの、今でも私は周りに比べると髪型や髪色をコロコロ変える方だと思う。それはやっぱり、新しい自分に出会えるような気がしてワクワクするからだ。
髪を染めるだけで、髪色とともに気持ちもぱっと明るくなったり爽やかな気分になれたりする。
リセットのようなリスタートのような気持ちでまた日常が始まる、その瞬間が楽しくて嬉しいから好きなのだ。
私の全頭ブリーチを必死で止めてメッシュを施してくれたオハマさんは、今でも同じ場所にお店を構えている。
今度地元に帰ったら、初めて髪を染めたあのお店で再びカラーを入れてもらおうかな。私のことやあの日の事を覚えていたとしたら「お〜だいぶ痛めつけたね〜」なんて笑われてしまうかもしれないけど。
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