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私はこの春、 全力で、 嗅ぎたい。


「#この春やりたいこと」
この言葉を見て、瞬間的に私が思ったのはこれだ。


「私はこの春を、全力で、嗅ぎたい!」


いや、もっと言えば春だけではない。
夏も、秋も、冬も。
ずっとずっと嗅ぎたかった。

今まで経験したことのない制約が増えたこの1年。
やりたいことが思うようにできなかったという人も多いのではないでしょうか。 (note公式 コンテスト開催文より)

まさにその通りである。
新しい生活様式も、どんどん日常の中に浸透していった。
手洗いや咳エチケット、こまめな消毒。
そして「マスク着用」も大きなその1つだ。
私の "やりたいことが思うようにできなかった" にはマスクが起因している。


私は鼻がいい。ものすごくいい。
どれくらい鼻がいいかというと、目を瞑って誰かの匂いを嗅いで、さっきの人をこの中から当てて下さいと、20人くらいの中に放たれても嗅ぎ分けられそうなくらい鼻がいい。(やったことはないが)

街を歩いていて、ふと嗅いだ匂いから、"あーこれは幼稚園の時の体育館の床の匂いだ "とか、"これはイトーヨーカドーの入口で売っていた甘栗と、お茶売り場の挽きたてのお茶の葉が混ざった匂いだ "とか、"これは高校の文化祭の時に夜、校門の前で最後に集まっていた時の匂いだ "とか、共感してもらえるかどうかあやしいくらい鮮明な時期と思い出を言えるくらい鼻がいい。

昔から知っている友達や付き合いの深い人であれば、その人達を全員ベルトコンベアに乗せ、順番に私の前を通過させてくれたら、目を閉じたまま利き酒のように嗅ぎ、どんどん名前を言い当てられるかもしれない。

そんな絵面は想像しがたいが、とにかく犬並に鼻がよい。
人の識別はさすがに目で見てしているけれど、エモーショナルな気持ちの発動はかなり鼻に頼っているところもある。


マスクをしてから、私はずっと寂しいなと思っていた。
今まで街に溢れていた季節の匂いが嗅げなくなってしまったのだ。
外に出て思いっきり空気を吸うと、体を巡っていく季節の匂い。


春のぽかぽかした太陽の匂い。ひらひら舞う桜の匂い。
新しい草木の匂いと、ふわりとした夜の風の匂い。

梅雨のじっとりとした雨の匂い。たっぷりと水分を含んだ土の匂い。
夏のジリジリと焼けたアスファルトの匂い。抜けた空の水々しい朝の匂い。
夏祭りの出店のわくわくする美味しそうな匂いと、線香花火がぽつんと落ちた時の煙の匂い。

秋晴れでからっと乾いた洗濯物の匂い。夕焼けと共に漂う焼き魚の匂い。
ちょっと寂しくなる土混じりの突風の匂いと、何かを思い出すような金木犀の匂い。

冬のツーンと鼻に刺さる冷たい匂い。風に舞う枯れ葉の匂い。
温かく灯った家からの鍋の匂いと、しんとした真夜中の匂い。


恋しい。全部、恋しい。

マスクを毎日つけるようになって、この一年、私は鼻からの”季節”をうまく感じ取れなかった。
2020年の匂いは、総じて存分に嗅げなかったように思う。

匂いは記憶を呼び起こし、心を動かす。
新しい季節の訪れを感じて、時の移り変わりを実感する。


私がこの春やりたいこと。
私は春を、嗅ぎたい。


とは言え、嗅ぎたい嗅ぎたいと新手の変態のようにのたうち回っても、私の鼻と口は今日もマスクに覆われている。

新しい生活に、慣れなければいけない。
新しい生活の中で、新しく”楽しいこと”を見つけるのも大切だ。
けれど私は、今まで楽しんでいたものも諦めたくない。
リモート飲み会や配信イベントなど、今まで楽しんでいたものから工夫して新しい形を生み出したものもたくさんある。
私の「嗅ぎたい」もその仲間にいれてくれないだろうか。

今まで知らず知らずのうちに嗅いでいたのに、気づかぬうちに嗅げなくなってしまった「街に溢れる季節の匂い」を、新しい生活の中で、新しい形で取り入れることはできないだろうか。


たとえば今回、資生堂Hand in Hand Projectのテーマなのであれば、ハンドソープ、ハンドクリームなどに季節の匂いを閉じ込めることができたら...なんて考えてみた。
もしそんな事ができたら、私は両手を顔に押し当ててその手をずっと嗅いでいたくなるだろうし、もっと手を洗いたくなるだろう。
心の潤いも一緒に求めて、よりハンドクリームを使うだろう。
毎回手を洗うごとに、あ〜夏が来たな〜と思ったり、そろそろ冬支度をしようと冬の香りのハンドクリームを買うだろう。

自分の手の中に閉じ込められた季節の匂いを嗅いで、あの春のことを思い出せるし、今年の夏も楽しかったねと言える。


難しいことはわからないけれど、私達の生きている場所の、私達の周りにある植物や太陽、風、温度、そういうあらゆる「そこにあるもの」で季節の匂いは構成されているのだろうから、この21世紀、頑張ったらその匂いを再現することができないもんだろうか。
難しいことはわからないけれど。

Handから少し脱線して言うのなら、もはやシャンプーでもコンディショナーでも、ルームフレグランスでも、化粧水でもいい。
もう私は、匂いを欲しすぎて「嗅ぎたい」じゃなくて「まといたい」くらいになっている。
どうですか、資生堂さん。
私、鼻が犬なので季節の匂いの再現開発、喜んでお手伝いします。

マスクでもいいかもしれない。
夏のクールマスク、冬のあったかマスク、可愛い柄の彩りマスクがあるのなら、季節の香りを楽しめるシーズンマスクと共に街を歩いたら、今年の「鼻からの思い出」が増えるかもしれない。
香りという目には見えない隠し味のようなものをプラスするということで、シーズンとかけてシーズニングマスクなんてどうだろうか。
調子に乗って適当なことを言い過ぎだろうか。
難しいことはわからないのだ。


しょうがなくやらなければいけないことに慣れるのではなく、付加価値を加えることによって、心が踊る何かに変えていく。
それが、習慣として続けられる1つのきっかけになるのではないかと思う。


私がこの春やりたいこと。
私は春を、思う存分、嗅ぎたい。

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