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月もまた、見ている。


また人間が、白いものをこねている。

なぜだかわからないが、ある時期になると、あの辺りに見える人間は白いものをこねだし、それを丸めて積み上げ、そしていつもより私を見る。

白いものを作らずに、何かを飲んだりしながらぼーっとこちらを眺める者もいれば、白いものがまんまるじゃなかったり、上に乗せた何かと一緒に食べている者もいる。

もっと前は音を奏でる者や何かを書き記す者などもいたが、最近はそんなに多く見かけない。
何人かの人間が集まっているところは、宴を催しているようでもある。
私を指差して、何かを話していることもあれば、そんなのはそっちのけで走り回っている小さな者達もいる。


私を見る彼らの目は憂いていたり、満足げな口元をしていたり、あるいは何かを願っているようにも見える。

見られたところで、何かを交わすこともできなければ、何かを与えることもできないのだが。
気にせずに彼らはそれぞれ思い思いの瞳で、こちらを見上げてくる。

なんだってそんなにこちらを見ているのかと思っていたが、なんだか近頃は、前と比べてそれも少なくなった気がして、それはそれで少しばかり寂しい気がしなくもない。


しかし、これだけ遠く離れているのに、何かしらの思いを抱きながらこちらを眺めてもらって、申し訳ないところではあるが、私にはその「思い」がなんなのかは、さっぱりわからない。

わからないのだが、そうかそうかと思っておく。
そして一応、私も願っておく。
私を見つめる彼らの身の回りが、何かを思っているのならその何かが、どうかよいものになるようにと。


でもきっと彼らは、こちらもまた見ていることなど、おそらく知らないのだろう。

それでいい。
それぞれが、伝わらなくとも願えばいい。



※こちらは、 #新しいお月見 の「お月見コンテスト」応募作品として投稿させていただきました。


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