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電脳虚構#12 | どろろ



Chapter.1 サブスク

人体転送サービス「ファストトラベル事業」が盛んになり、企業の低価競争がはじまった。

サービス開始当初は1回のトラベルから発生していた料金。
ついに「トラベルし放題」のサブスクが主流の時代へ。

・全世界どこへでも!
・国内のどこへでも!
・地域限定
・夜割、学割
・レディースデー・シニアデー

様々なターゲットにしぼり、サービスが次々に実装された。

僕は頭も悪く、容姿もごく普通。特に取り柄のないフリーターだ。
お金もなくサブスクに入るような余裕もなかったが、ある企業が格安のサービスをはじめた。

「アウトレットポータル割」

ポータルというのはいわゆる転送装置。
サービス開始から瞬く間に世界で億単位のポータルが設置された。

全世界で日夜、大量製造されてるポータルはこの時代きっての「金の成る木」。

その製造過程で、何かしらの不具合のあったアウトレットの装置。
それを業者が買い取って、メンテナンスをして市場に格安におろす。

旧型の修理品なども含め「イワクつき」のポータルのみ使用したファストトラベル。
それが「アウトレットポータル割」だ。


ファストトラベルはクローン技術の応用でなっている。

現地で人体をスキャンして、データを目的地のポータルに転送。
そのデータを基に人体を生成する。

生成コンプリートの確認がとれたら、現地の人体は自動的に消滅する。

たったこれだけだ。


転送前に人体のスキャン、いわゆる「セーブデータ」を残している。
万が一の事故があっても安全は保障されている。

・・・のはずだった。


僕は「アウトレット割」にとびつきサブスクを開始した。
自宅付近からバイト先までポータルがつながっているので、おかげで通勤の所要時間は5分。

終電も関係なく深夜まで働かされる・・まぁデメリットはそれくらいだろう。

ある日、バイトが終わってクタクタでポータルを起動する。

目的地を選択し、手をかざすだけでスキャンが始まる。

−−− SCAN COMPLETE!
   転送を開始します  −−−

とても簡単だ。
この1秒後には転送と生成が完了。
本当にいい時代になったもん・・だ・・・・・


−−− 事故発生
      事故発生 −−−





Chapter.2 僕のカケラ


目が覚めると知らないベットにいた。
意識もおぼろげに状況を把握しようと周りをみる。

何も思い出せない。
ポータルでスキャンしたところで記憶が途絶えている。


ガチャ

・・ベットの左手のドアが空き、スーツ姿のニタニタした男が入ってきた。

「あ、どうもーーどもども。
 お目覚めですか? あーー、よかったよかった。
 ワタクシ、ライフトラベルサービスの担当の者です。

 この度は弊社ポータルの不具合でまことにご迷惑おかけしました。」

崩れない作り笑顔で長々とした説明をうけ、いろんな書類にサインをさせられた。

・・どうやら今、僕の身体は全世界のあちこちに飛ばされているらしい。

転送の際の目的地のロケーション情報に不具合が起き、各地で僕のクローンがバラバラに生成されてしまったそうだ。

現地の残ったの僕のカケラは「脳と心臓」だけだ。

男はあからさまに「不具合」と連呼し、やたら強調している。
しかし、これはあきらかな「事故」だ。

いまは借り物の「ダミークローン」をイレモノにして、どうにか生きている。

クローン技術の倫理問題の大原則として
「世界に同じ個体が同時に存在してはならない」というものがある。

その厄介な規律のせいで、僕の身体を一から生成することはできないそうだ。世界中から、僕のカケラが集まるのをここでただ待つしかないらしい。

幸い、企業から保障もでるし、ただ待ってるだけでバイトするよりお金も入ってくる。僕はクレームを入れるどころか、二つ返事で受け入れた。



Chapter.3 ダミークローン


数日後、早くも「カケラ」が届く、耳だった。
またその数日後は内臓の一部。手足の指も一本ずつバラバラに届く。

今回、この不具合が世界で同時に数百件ほど起こってしまったらしく、企業は対応に追われ時間がかかっているらしい。

2か月が経ち、約半分のカケラが返ってきた。全部のカケラが集まったら、最後に「脳と心臓」を移植して完了になるらしい。

更に1か月後。すでに8割が返ってきた。だが、まだ自分の顔は戻ってきていない。

不思議なものだ。
3か月も「自分の顔を見ない」なんてことは当然、人生で一度もなかった。

このダミークローンの無骨で、およそ良いとは言えない造り物の無機質な顔。小学生が紙粘土で作った工作のような、不格好さだった。

こんな顔では恥ずかしくて街中を歩くことはできない。これがいまの自分の顔・・と、最初はものすごく抵抗があった。
しかし毎日、顔を突き合わせているとこんな顔でも不思議と愛着が湧くものだ。

「・・で、自分の本当の顔ってどんなだったっけ?」
そんな気分だった。


Chapter.4 さいごのカケラ


しかし、、こんなに時間かかるとは思ってはいなかった。
この数か月、企業が用意してくれた施設で過ごしているのだがさすがに飽きてきた。

最初は「楽でいいや、ラッキー!」くらいの気持ちだったが
「早く元の身体に戻って、自宅に帰りたい。」そう思うようになってきた。

また一か月。残りのパーツも集まって、残すはあと「顔」だけ。

と、そこに久しぶりにあの男が施設に訪れた。

「いやぁ〜どもども〜。時間かかってしまってすみませんねー。
 まもなくお客様の顔が届くとのことなので、移植の手配をしているところです。」

そんな話をしていると連絡があった。
事故からおよそ5ヶ月のことだった。

「あ、顔。いま届いたみたいです、よかった。5ヶ月ぶりの自分のお顔との対面。感動の再会ですねぇ。」

そもそも、あんたの企業の事故が原因だろうが。
そう言いたかったが、確かに感動の再会には間違いない。

自分の顔と5ヶ月も離れるなんて体験、今回限りで勘弁して欲しい。

再会からすぐ移植を行うため、別室に案内された。
その部屋には顔だけポッカリない「僕」が横になっていた。

中肉中背、可もなく不可もない普通の身体だったがそれでも「自分との再会」は嬉しかった。

その奥にドーム型の冷凍容器が置いてある。
これに僕の顔が入ってるらしい。

すごくドキドキした。生き別れの家族と対面するような懐かしさと嬉しさ、そしてなぜか照れくささも感じていた。


プシュー・・・。

冷凍容器をあけ、縁日のお面のようになってしまった滑稽な姿の「自分の顔」を取り出す。

・・僕はその部屋を飛び出し、担当の男のもとへ走った。
そして無理を承知で何度も頭をさげ、懇願した。

「こんなはずじゃない!これが自分の顔だなんて・・・。
 どうか・・・どうか・・このダミーの顔を移植してください!!」

5ヶ月という長い時間が、僕にある残酷な現実と向き合わせた。


「どうか・・どうか・・お願いします!!

 戻るのはイヤなんだ!!!!こんなブサイクな顔に」



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