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グッゲンハイムで涼む夏

暑い。

ニューヨークは日本と比べて暑くないとか、湿気がないとか言われるけれどしっかり暑い。毎日溶けそうになりながら過ごしている。

アメリカの大学は6月から8月にかけてバカンスシーズンなので、夏休みがかなり長い。最初は大学院のハードスケジュールから解放され喜んでいたのだが、自由に使える時間の多いこの夏休み、現在残り1ヶ月を切ったところで『この生活に慣れてしまうと残りの2セメスターがしんどくなるのでは?』と一抹の不安を抱えているところである。そして仲の良かった友達が母国に完全帰国してしまったり、苦楽を共にしてきた同じ日本人の友達も一時帰国していたり、普通にパリなどにバカンス行ってる友達がいたりして、なんだか寂しい。夏に帰国しなかった留学生にとって、夏休みは意外と暇なのである。

それでも毎日練習やセッション、ライブに行くなどそれなりに楽しく過ごしていたのだが、多くのジャズミュージシャンがそうであるように、「意外と日中外に出ないな」というビタミンDを生成しないような生活をしていた。ニューヨークは日が長いので8時過ぎまでは明るいにしろ、それでもあんまり日を浴びることがない。たまには日中出かけてみようかと思い立ち、家を出た。

金はないし夏は嫌いだし

とにかく円安はひどいし、友達と出かけるならまだしも、一人で街に繰り出してあんまりたくさんお金を使いたくないなあと思っていた。それに出かけておいて文句を言うのもどうかと思うが、わたしはとにかく夏が嫌いなのである。本当に毎日毎日「暑いの飽きた、暑いのもういい。」と小言を言っている。なのでお金をかけずになるべく暑い思いをせず、楽しく過ごせる方法はないかと思案していた。

やはりそうだ、美術館に行こう。そう思った。わたしの通っているニューヨーク市立大学の学生証を見せればほとんどのニューヨーク市内の美術館は無料で入れる。学校生活が始まってしまうと忙しくてなかなか行けなくなってしまうので、夏休みは絶好のいい機会である。今までWhitney, MoMA, MoMA PS1, METなど有名どころには足を運んだが、Guggenheim Museumには足を運んでいない。わたしは早速ウェブサイトからチケットを予約した。

グッゲンハイム美術館

正式名称をSolomon R. Guggenheim Museumという。
ニューヨークに住んでからずっと行きたかったのだが、なんやかんやと忙しく機会を逃していた。ここは私設の近現代美術館で、常設展よりも期間限定の展示を主にしている。



余談だが、グッゲンハイム美術館というとコンセプチュアルアートの第一人者である日本人アーティスト「河原温」の作品に触れた際に出てきた美術館でもあるので(彼の死後に大規模な展覧会が行われたため)彼の作品も観れるのかな、と密かに期待していたのだが見つけることはできなかった。常設展は少しだったがピカソやセザンヌの作品を展示しており定期的に入れ替わるようなので、また次の機会に期待したい。

スティルライフ(静物画)はセザンヌが一番好き。

今回の展示は大きく二つで、抽象画家の第一人者のひとりであるロシア人画家Vasily Kandinskyの展示『 Around the Circle 』とニューヨークとサンティアゴを拠点に活動する地理出身の画家・詩人のCecilia Vicuñaの展示『Spin Spin Triangulene』であった。彼らの作品がグッゲンハイム美術館の特徴ともいえる螺旋状の回廊に沿って絵画が飾られてあり、とても興味深く鑑賞できた。上から順に観ていくものだと勘違いしてエレベーターで最上階まで上がってそのまま鑑賞したが、実際は逆らしい。確かによく見ればみんな上がっていっていたような気がする。今度行くときは間違えないようにしたい。

Vasily Kandinskyは名前さえ知っていたものの、ちゃんと作品を観たことがなかったので今回の展示は彼の作品を観るとてもいい機会だった。詩的な雰囲気を持ち、どのような解釈にもとれる彼の抽象絵画はグッゲンハイムのユニークな建築と調和しているように感じた。鑑賞しながらかなり議論をしている客もいて(意外と英語以外の言語の場合も多かった)日本の美術館とはまた雰囲気が違うなと思うなどした。

Cecilia Vicuñaは存命のアーティストで、絵画だけでなくインスタレーションや詩などの展示もあり、なかなか面白かった。扱っているテーマが森林破壊や民主主義、また女性の権利などかなり社会的なものが多く、作品(特に絵画)からは若干のアウトサイダーアート味も感じたので正直いうと結構疲れた。ただ、やはり質のいい芸術に触れるということは、普段意識しない感情や価値観を与えてもらうことだと思うので、心地いい疲れであった。

グッゲンハイムはその特徴的な建築から、ニューヨークでも行くべき美術館のひとつに数えられる。もちろん建築だけでなく展示も素晴らしかったし、美術館の雰囲気も明るくユニークで楽しかった。

それにしてもニューヨーク市立大学の学生証でほとんどの美術館・博物館が無料なのだから行かねば損である。思い返せば、学部時代も所属していた大学がキャンパスメンバーズという制度に加入していたので、ほとんどの東京の美術館や博物館に無料で行っていた。せっかくの学生時代、この制度を使わない手はない。これからも色々なギャラリー、美術館に足を運んでいきたい。

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