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描くのが先か、スタイルが先か

フリーライター&イラストレーターの陽菜ひなひよ子です。

我が夫は写真家でして、我が家にはフリーの写真家・絵描き&文筆家がいるんであります。同じような「表現する」仕事でも、似てるところ、違うところがあるんですよね。

少し前に彼が上げた記事。特に写真を撮る方は、ぜひ読んでみてください。

写真の世界は「自分のスタイルを決めつけずに、まずは『撮れ』」と言われるのですね。

ではイラストはどうかというと。アカデミックな教育を受ける人はまずはデッサンをひたすらやるんでしょうが・・・本気でイラストレーターを目指す時点で「スタイル(タッチ)を決めろ」と言われるんですね。

わたし自身ずっと「スタイルがいくつもある」「どれがあなたのスタイルかわからない」と言われ続けて来ました。そんなわたしが、どのように自分のスタイルを見つけて行ったか、振り返ってみたいと思います。

(※メチャクチャ大作になってしまったので、覚悟してお読みください! 絵を見るだけでも、流れはわかると思います。お時間ある方は、ぜひ文章にもお付き合いくださいませ)


今のわたしのイラスト・スタイル


わたしのことをまったく知らない方も多数いらっしゃると思うので、今のスタイルをご紹介しておきますね。大きく分けて二つあります。この二つのスタイルを時系列に交互に見ていきます。

スタイルA シンプルなスタイル(青ライン)


仕事ではこちらの方がたくさん描いていると思います。

2020年2月 冊子「ハッピーに暮らすためのおうちのお仕事シェアnote」(野々村友紀子)表紙・挿絵(愛知県)(透明水彩)
2022年11月 某テーマパークコンペ用イラスト
2022年12月 絵日記用イラスト
2023年1月 『いろはCarta展2023』(Gallery DAZZLE・北青山)


スタイルB 個性的なスタイル(赤と黒)


2016年からの絵日記から確立した個性的なスタイル。絵本制作やイラスト俳句の制作もしています。

2020年10月 インスタグラムの絵日記より(ダーマトグラフ)
2019年6月 え~ほん絵本原画展(ダーマトグラフ)
2023年1月 俳句イラスト日記より(デジタル)


スタイルができる前の振り返り

スタイルA-01 スタイル無き時代 - 植物画 -


イラストスクールに通う前のわたしは、この記事にも書きましたが、槙野万太郎先生と同じ植物画をやっておりました。センセとは違って水彩画ですが「本物そっくりに描くのがマスト」なのは同じ。個性より「正確さ」が求められます。

1999年5月 ストレリチア 透明水彩

ちなみに、この記事でK先生から「見込みがある」と言われた絵はこのストレリチア。

1999年~2005年頃に描いた果物シリーズ


植物画は1996年からはじめて、数年は楽しくてたまらなかったんですが、あまりの細かさに疲れて来ました。もっと気楽に絵を描きたくなって、2004年からスケッチを描き始めました。

2004年4月 九州旅行スケッチ

下手ではないですが、強烈な個性もありませんね。


スタイルB-01 スクール時代 - アクリル画 -


2006年に一念発起して、イラストスクールに通いました。そこではじめて「自分のスタイル」を見つけるように言われます。

アクリル画のほうが自分らしい絵が描けるのではないかと、試行錯誤。

2006年10月 スクールの課題で描いた装画
2007年2月 はじめて「食べ物だけ」を描いた絵
2007年2月 評判のよかったケーキイラスト


これは自分的にはまぁまぁ「奇跡の一枚」で、このイチゴ、二度と描けないかも・・・。イラストってたくさん描いていると、たまに「奇跡の一枚」が描けることがあるんですね。で、たくさん描けば描くほど、その「奇跡」の起きる割合が上がって行くんだと思います。

2017年11月にギャラリーから展示のDMイラストを依頼され、アクリルと水彩と両方描きました。「やっぱこっちだよね」と左のアクリルを選択。

2007年11月 『不思議の国のアリス展』(Bartok Gallery・銀座)

アクリルは楽しいのですが、道具を出してしまってを考えると、描くまでのハードルが高くて。その点、パレットを開けばすぐに描けて片付けもラクな水彩画のほうが気軽に描けます。そこで水彩画に戻ったのが2008年夏頃。


スタイルA-02 絵本制作時代 - 水彩画 -


水彩に戻ったきっかけは、その1年ほど前から絵本をつくるようになり、最初はアクリルで描いたものの、しっくり来なかったこともあります。水彩や色鉛筆でサラッと描いてみたら、なんかイイ感じ!

2008年8月 植物画風?バナナ


ただこの頃は、ヒヨコばかり描いておりました・・・

2009年4月 スダシャポー『帽子まつり』DMイラスト


スタイル確定のきっかけ


スタイルA-03 食べ物イラスト開始 - 水彩画 -


こうして少しづつスタイルができ上がっていきます。スタイルって、意識して決めるわけでなく、あとで振り返って「このあたりから始まっていたんだな」と気づきます。

2011年夏に、東京から名古屋に引っ越し。初めて「名古屋めし」を描きました。

2011年8月 引っ越しました&暑中見舞いはがき

ここまでのイラストの主線は黒で入れていますが、紫で描くこともありました。結構気に入ってました、紫。

2012年1月 『いろはCarta展2012』(Gallery DAZZLE・北青山)


2012年秋に絵日記をはじめたことが、大きな転機になっていると思います。残念ながらインスタではなく、よく似たmy365(のちに終了)にはまり、2年ほど続けました。最初はモノクロの水彩画。

2012年11月 my365の絵日記

カラーの食べ物イラスト1枚目。ある方の助言を受けて、線が紫から青に。

2012年12月 my365の絵日記


絵日記は、テーマを設けず、その日の気分で画材も雰囲気も変えて描いていました。

2013年8月 瀬戸内トリエンナーレ旅行記


ITOYAさんで購入した「ゴースト色鉛筆」(色鉛筆の芯が7色で、描く角度・方向によって異なる色で描ける)にはまって、7色の線で不思議な味わいの絵を描いたり。

2013年8月 瀬戸内トリエンナーレ旅行記


そうこうするうちに、絵日記の食べ物イラストを元に仕事が来ることが増えました。(my365ではなくWebに転載したものを見て)

2014年2月に、ぴあさんからこのイラストを見たと連絡が入り・・・

2012年12月 my365の絵日記

女優の戸田恵子さんのナゴヤ本の依頼が来ました!

2014年5月 書籍『おいし なつかし なごやのおはなし』(戸田恵子)(カバーイラスト・挿絵)(ぴあ)


同年11月には、このイラストを見た愛知県教育振興会から連絡が入り・・・

2014年4月 my365の絵日記

愛知県制作の絵本冊子の依頼が来ました!

2014年11月 冊子「あいち・読書タイム文庫」収録『きらわれもののパン』(表紙・挿絵)(愛知県教育振興会)


スタイルB-03 ダーマトグラフとの出会い - 赤黒絵日記 -


一方のアクリルは、一枚をアクリルだけで描き上げるのがキツくなり、2013年頃から色鉛筆と組み合わせて描くようになりました。

2013年3月 my365の絵日記


同じ頃、当時流行の『イラストのハウツー本』の企画の話が来ました。多種の画材を試し描きする中で、ダーマトグラフと出会います。(本の企画自体は残念ながらボツ!)

上記の本とは別の依頼がきっかけで描いたイラスト。

2014年10月 Web「美容ポータルサイト”綺麗のトリセツ”」秋の特集ページ(イラストバナー)(株式会社grateful)

2014年秋より、NHK Eテレ「すイエんサー」のイラストを担当。2015年春からは、上のタッチで描くことになりました。番組はその後8年続き、わたしの代表作に。

2015年2月 すイエんサーのための習作
2014年12月~2023年3月:NHK Eテレ『すイエんサー』(タイトルイラスト)(NHKエデュケーショナル)

絵日記で赤黒の絵をたまに上げるようになったのが2015年。何がきっかけだったのかは謎。

2015年5月 my365の絵日記

2016年からは、絵日記でカラフルなネコの絵日記を描き始めました。

2016年8月 インスタグラムの絵日記

カラーのネコはイマイチウケなくて、赤黒で描いてみようと思い立ちました。これが思いのほかウケて、今にいたります。

2016年11月 赤黒絵日記・最初の一枚


さらに進化系

スタイルA-04 アナログを極める - 水彩画 -


2014年頃からはデジタルとの両立を図るようになります。理由は、業界の流れで、彩色後に修正が入ることが増えたこと。完全な水彩画で修正を入れるのは困難で、仕事で水彩画は厳しい、と感じるようになりました。

このイラストはどちらも実際の仕事で使用されたものですが、右はアナログの水彩画。このままでは修正が難しいため、左は「線はアナログ 色は(レイヤーを分けて)デジタル」で入れています。

2015年1月 教材『できる!!がふえる↑ドリル国語 文章読解1ねん・2ねん・3ねん オールカラー』(挿絵)(文理)
2014年9月 my365の絵日記
2016年7月 パッケージ「オリジナル珈琲ブレンド」(イラスト)(株式会社Beans Bitou)

これはこれで評判もよかったし、自分でも満足しています。

でも、やっぱりデジタルではアナログと全く同じようには描けないな、と感じるように。

同時に、自分はもっと食べ物イラストを描くべきではないか?と考えて、毎日食べ物絵日記を描くようになりました。

2017年1月~2月 絵日記をはじめた頃のイラスト


赤黒絵日記とちょうど同じ頃にこの絵日記もはじめました。実はこの頃、Web系の仕事で会社勤めしていて、昼休みにイラスト2枚、毎日描いていたんですよね・・・。一枚10~15分で仕上げていました。今、家にいるとなぜ描けないんだろう・・・?

展示でデザイナーさんと組んでポスターも作りました。

2018年4月 『アイドル映画ポスター展』(ランドリーグラフィックスギャラリー・千駄ヶ谷)
(デザイン:小口智也さん)


2020年からコロナ禍になり、イラストの仕事が激減しました。もう一度、基本に立ち返って水彩画を描いてみたいと考えていた時に、友人に誘われて、佐々木悟郎さんのプロ向けのイラスト講座に参加することになりました。

ナスです。20年前に描いたものと同じモチーフを、まったく違った感覚で描きました。

2022年9月 Goro先生の水彩画講座

このとき、悟郎先生に作品を見ていただきました。先生は「これはこれで世界観ができてるんだからいいと思うよ。仕事来てるんでしょ、だったらいいよ」と言ってくださいました。

2018年8月 コンペ用イラスト


このとき、おもしろい発見がありました。

上記にも書きましたが、わたし、2008年から2012年頃まで紫のラインで絵を描いていたんです。

2008年9月 ブログ用イラスト
2008年9月 習作

2012年にある方のアドバイスで青で描くようになり、今ではわたしの代名詞にもなりましたが、紫も捨てがたい気持ちでちょうど10年。

悟郎先生が「線は紫で描く」っておっしゃったんです。確かに、先生のイラストは紫の線なのでした!うれしい!

わたしもまた、紫でも描いてみたいな、と思います。

この講座を受けて、自分の絵が変わったかどうかは謎ですが、その後、水彩画の仕事が増えました。

2022年11月からは、中京テレビ『PS純金』ファンクラブ限定コラムの連載開始。イラストとコラムを担当しています。

2023年1月 Webアプリ『PSくらぶ』お店レポ(取材記事&イラスト)(中京テレビ放送)


今も、ある方の連載コラムに添える水彩画のイラストをコツコツ描いています。


スタイルB-04 デジタルを鍛錬する - Adobe Fresco -


色鉛筆イラストもデジタル方向へと移行。2022年4月から1年間、毎日俳句を書き、イラストを添えました。

2023年3月の俳句イラストまとめ

仕事でも描いております。

2022年8月:広報誌「AD FiLE」コラム『ナゴヤ愛はどこにある?』(中日新聞社)
2023年6月:広報誌「AD FiLE」コラム『ナゴヤ愛はどこにある?』(中日新聞社)
※手前のモナカは水彩画


最近、修正が入ることが減ってきたので、調子に乗ってアナログで。

2023年6月 名古屋リビング『小学生新聞・2023年夏号4/5面・特集』ナゴヤ歴史クイズ(名古屋リビング新聞社)


大変長くなりましたが、わたしのスタイルが出来上がるまで、でした!読んでくださってありがとう!


自分のスタイルに悩む方へ「捧ぐ言葉」と「オススメnote」


最後になりましたが、自分のスタイルがわからないと悩む方に、わたしの先生の言葉を捧げます。

「スタイルは無理に見つけなくてもいい。描いていけば自然とにじみ出て来るものだ」

わたしがこの言葉を聞いたのは2017年。すでにスタイルがほぼ固まっていました。もっと早く聞けていたら、気が楽になれたかもしれません。でも、スタイルを探してさまよった経験は、悪くないと思っています。

オススメnoteもご紹介。

夫・宮田はライターではありませんが、写真の先生をしているせいか、すごく伝え方がうまいのです。サラッと読めますよ。


祝・注目記事


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