時代遅れの図書館がデジタル化されて思ったこと
時代に取り残された図書館
私が幼稚園入園前から長年通っている図書館は、3年前までアナログだった。どこの図書館よりもデジタル化が遅く、当時最も時代に取り残された図書館と言っても良いだろう。
小学校の図書室は、私が入学した約18年ほど前から既にバーコードでの貸し出しになっていたし、周辺の図書館もそこを除いていち早くデジタルを導入していた。
その図書館だけがいつまでも昔のままだった。たった3年前まで。でも、私はそこが気に入っていた。
本を借りるときは、図書館員のいるカウンターに持っていく。氏名を伝えると、図書館員はたくさんある紙カードのなかから私の名前を探し出し、「こちらでお間違いないですか?」と聞く。私が「はい」と答えると、本の表紙の裏ポケットに入っている、タイトル名と著者名が書かれたカードを取り出して、それをポケット状になっている私の名前カードに挟んでいく。
そして、表紙の裏に貼られた紙に貸し出し番号を書き、その隣に日付スタンプを押していく。一冊一冊丁寧に番号を書いてスタンプを押して閉じる、を繰り返す人もいれば、一度にすべての本を開いた状態にし、番号をすべて書いた後でスタンプを押していくという人もいた。
最後に本を綺麗にまとめて「返却日は〇月〇日です」と言って渡してくれる。これが3年前までの貸し出しスタイルだった。
驚くことに、資料を探すPC検索機さえもなかった。借りたい本を探すときは昔ながらの引き出し式ボックスを使う。本のタイトルや著者名があいうえお順に引き出し棚の中に整理されている。
たとえば、『愛』というタイトルの本を読みたかったら、著書タイトル「あ~お」などと書かれた引き出しを開け、ぎっしり詰まった紙カードの中から『愛』を探し出す。そのカードに著者名、発行元などの情報のほか、本棚の場所が書いてある、という仕組みだ。
ついにデジタル化 寂しいけど便利
そんな図書館が3年前、ついに大変貌を遂げる。借りる本を台に置くだけですべての本が認知される最新システムが導入され、言わずもがな検索機も設置された。本を借りたければ、事前にスマホやPCから予約でき、本がその図書館になければ同地域の他図書館から取り寄せることもできるようになった。
もっと前からデジタル化されていれば、それは当たり前のことで、特に何も感じずに使っていたと思う。だが、長年アナログスタイルで利用してきた私は、初めて最新システムで本を借りた時、「あれ…これで終わり?」と思った。あまりにも呆気なく貸し出し作業が終わってしまうことに、物足りなさを感じた。これまでは番号を書いて、スタンプを押して、「どうぞ」と図書館員から手渡されていたものが、自分一人で簡単に完結してしまった。
私は一冊一冊番号を書き、スタンプを押していく図書館員の手先を見るのも好きだった。借りた本に同じ番号の人を見つけて、「この方、前の借りた本にもいたな、好み合うな」などと密かに思う楽しさもあった。なんだか寂しいな、こうやって時代は変わっていくのだなと思った。
とはいえ、寂しいと思ったのは初めだけで、慣れるとその気持ちはすぐになくなった。今ではその利便性をありがたく思っている。
一番嬉しいのは、スマホ上で借りたい本がすぐに予約でき、その図書館にない本も周辺の他図書館から取り寄せられること。つい最近までアナログだっただけあり、その図書館は規模的に大きくない。これまで読みたい本があるのに図書館にないということが多々あり、取り寄せ可能となったことで、借りられる本の幅が格段に広がった。
新たな常識が当たり前になる
時代は変わる。その時々にとっての"スタンダード"が変わるだけで、私たちはやがて新しい"スタンダード"に馴染んでいく。今までの常識が古くなり、新たな常識が当たり前のものになっていく。
変化をするときは今までの常識と「さよなら」をするから、寂しさも少し感じる。長い時代を生きてたくさんの変化を経験してきた人は、その分だけ多くの寂しさも味わってきたのだろうと思う。これまでもこれからもずっとそれを繰り返して、人は未来へと進んでいくのだろう。
デジタルのなかで光る人の温かさ
先日、嬉しいことがあった。外出自粛期間中に休業となっていた図書館から電話がかかってきたのだ。
「図書館はまだ休みですが、予約されていた本が届いているので取りに来ませんか?」という内容だった。時間帯を決めて、予約していた本を取りに来られるサービスを行っているという。
わざわざ個人宛に電話をかけてくれた、図書館員の親切心に胸がじんとした。優しさを感じ、気遣いを嬉しく思った。図書館が長期間休みで本が借りられず、落ち込んでいたところにかかってきた電話。喜ばないわけがない。
久しぶりに図書館員から本を手渡しで受け取り、どこか懐かしい感覚を味わった。
些細なことなのに嬉しく思うのは、デジタル化されてから図書館員との会話が少なくなってしまったからこそかもしれない。あるいは、外出自粛で人恋しくなっていたから余計にそう思えたのかもしれない。
デジタル化されたからこそ、人の温かさを感じやすくなっていることに気づいた。
これからもお世話になります
20年以上お世話になっている図書館。どの図書館よりも多く利用してきたから、思い出深い場所だ。児童書のコーナーも子供の頃から変わっていない。子供が本を借りているのを見れば、子供の頃の自分と重ねて微笑んでしまう。
時代が変わっても末長く愛される図書館であってほしい。
これからもお世話になります!