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ラ クレリエールの料理集 vol.13

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 第六皿 パロンブのロースト
 → 第七皿(résumé) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第七皿(recette) 仔羊のロースト トリュフのソース

第8皿(résumé) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味

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この料理のポイント

*常陸牛
*レストランで使いづらい部位
*メインではなく前菜として

成り立ち

常陸牛は、茨城県の銘柄牛です。出会ったきっかけは、「The Cuisine Press」等のWebメディアを中心にジャーナリスティックな視点で食の情報発信をしている料理通信社からのご提案でした。同社編集部が厳選した都内4店のフレンチやイタリアンのレストランで常陸牛を使った特別メニューを提供するという企画の中で、特別メニュー作りと提供店のシェフとして現地を視察訪問する機会をいただいたのです。
資料によると、常陸牛はこだわりの飼料や育成方法によって育てられ、等級も歩留A~B・肉質4~5に格付けされる最高級ブランドの黒毛和牛。そして訪問先の「ドリームファーム」も、独自の飼育法で高品質の常陸牛を高確率で産出している牧場とのことでした。

今だから言うと、最初にお声がけいただいた時、僕自身あまり乗り気ではありませんでした。まず、丸一日を視察に割かなければならない。「お店が休みの日に行けば良いじゃないか」と言われそうですね。残念なことに、営業していないだけで僕自身は休みじゃないことの方が多いのです。今後に向けて外部の方々との打合せや準備などやるべきことが常に山積み。スタッフのいない店の中で朝から晩まで仕事をしているなんてことも珍しくありません。
そしてそれより、フランス料理の料理人として「牛肉」という食材にあまり興味を持っていなかった、ということが第一の理由でした。もちろん、牛肉を使った素晴らしいフランス料理はたくさんあります。しかし、それはメイン料理が殆ど。クレリエールでは、メインとしてお出ししたい食材が旬ごとにあって牛肉の入る余地がないのです。例えばジビエの時期なら当然ジビエを食べていただきたい。前回ご紹介したように冬と春それぞれ違う魅力の羊も楽しんでいただきたい。一瞬だけ登場するパロンブのような食材もあります。しかも、フランス料理で使うのは赤身肉なので、霜降りが特長の和牛では何かと難しい部分もある。ということから、僕の中で牛肉、特に和牛は“担当外”のような気持ちがありました。

その後、編集部の方をはじめ様々な方のお話を聞き、僕自身も何度も考え、僕が今できる形でご提案を受けることにしました。そして今、お受けして本当に良かったと思っています。
現地を訪れ、自分の目でドリームファームのやり方やそこで育っている牛たちを見て、直接お話をさせていただいたからこそ、「クレリエールの牛肉料理」を作りたいと心から思えるようになりましたし、これだ!と思えるお料理が出来あがりました。それが、今回ご紹介する「常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味」です。

メイン食材「常陸牛」

茨城県は温暖な気候と肥沃な大地で知られる穀倉地帯です。さらにドリームファームでは、餌を自分たちで作り、牛にとってストレスなく健康にいられることに重点を置いた放牧を行い、牛を育てていました。その上、ただ育てるだけではなく繁殖管理から育成・飼育・出荷まで行う。しかも、ご家族4人だけで!見るもの聞くことが驚きの連続でした。

“最高級の黒毛和牛”と称される常陸牛は、やはり「霜降り」が大きな特長です。実際、ロースやヒレは、柔らかくて味わいもあり、塩をして焼いただけで十分おいしい。きっと誰もが使いたいと思うお肉だと思いました。だから僕はあえて「人気の低い部位」を訊ねました。使いづらい部位でも調理することで美味しくできるのがフランス料理。売りづらい部位が美味しい料理になれば生産者さんに少しでもプラスになるでしょうし、視察に割いていただいた時間や労力へのお返しもなるかもしれない。そして、僕が伺った意義にもなる。
いろいろヒアリングし試食した結果、ウデ肉を使うことにしました。

レストランでは使いづらい部位をどう生かすか?

ウデはよく使う(動かす)部位なので、筋肉が発達しています。ただ焼いただけでは固くなることが多く食べづらいけれど、上手に火入れしてあげればおいしくなるお肉です。焼き方自体はシンプルですが、火入れする時間と温度の管理が肝心。最高の火入れが出来るまで何度も試作を重ねました。
切る方向も大切です。「固い」のは、強い筋繊維を歯で噛み切らないといけないから。だったら、繊維に沿って噛むようにすれば良い。「フォークに刺して、どの向きで口に入るか」を逆算して切り方を工夫すれば、固いウデ肉も柔らかく召し上がっていただけます。その工夫が料理人の腕です。

メインではなく前菜で

「メインでなくても、お料理の中心食材として使えばOK」と言っていただけたことも、躊躇していた僕の背中を押してくれました。そこで、クレリエールでお出しする前菜4皿の内、最後の一皿として作ることにしました。お店に入って席に着き、メニューを見ながらお飲み物を決め、お食事がスタートする。そうして前菜4皿目を迎えるのは、ご来店から1時間を過ぎたあたり。「そろそろ赤ワインにいこうか」と思われる頃合いです。そこに、和牛の魅力の詰まったお料理が赤ワインソースをまとって登場します。

次回はこのお料理のレシピと具体的な工夫などをお話します。

※こちらのお料理は、2022年2月10日(木)~3月10日(木)ディナーコース¥26,000(税込)の一品としてのご提供となります。

★ドリームファームさんの詳細や柴田の訪問の様子が料理通信社のWEBサイト「The Cuisine Press」で紹介されています。ぜひご一読ください!

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

お店の公式Facebook、youtubeチャンネルもご覧ください。


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